トレードでDeNA移籍の京田陽太、OP戦では人生で初めて一塁で出場 プロ野球にようやく“日常”が戻ってくる。感染対策を取…

トレードでDeNA移籍の京田陽太、OP戦では人生で初めて一塁で出場

 プロ野球にようやく“日常”が戻ってくる。感染対策を取った上での声出し応援が解禁。3月30、31の両日に開幕する2023年シーズンが、より一層熱くなる。野球専門メディア・Full-Countでは「BEYOND(~を超えて)」をテーマに、今季注目の選手たちの挑戦を追う連載企画を展開。第2回は、中日から交換トレードでDeNAに移籍した京田陽太内野手の決意に焦点を当てる。

 過去6年を考えると、違和感しかない「ファースト京田」。3月12日、中日とのオープン戦(横浜スタジアム)で、野球人生で初めて一塁を守った。ベテランの大和内野手からの“借り物ミット”をつけ、無難に守備機会を乗り越える。試合後、表情は清々しかった。

「初めてで不安もありましたけど、新鮮というか……楽しかったですね。もちろんファーストは簡単なポジションじゃないですけど、違う景色から野球を見て、なんか充実していたっていうんですかね」

 慎重に言葉を選び、胸の内を表現する。楽観的な「楽しい」ではない。とにかく刺激的だった。少年時代からほぼ遊撃一本。ずっと見てきたグラウンドでの景色は一変し、状況に応じて頭をフル回転させた。これまでとは別物の疲労感が妙に心地よかった。

 2月のキャンプから三塁も練習。ファーストミットとともに専用のグラブも急いで発注した。「ショートのグラブじゃ浅いんでね(笑)」。こだわってきた相棒をつける機会が少なくなったとしても、全く構わない。「たくさんのポジションを守れる方が試合に出られるチャンスは増えるんで」。欲されることが、今は一番の価値だ。

中日で不動の遊撃も「自分が良かったからとは全く思ってない」

 遊撃の定位置が、当然のように目の前にあった中日時代。1年目の2017年にいきなり141試合に出場し、球団の新人安打記録を塗り替えた。新人王を獲得し、レギュラーに駆け上がった。翌2018年には143試合に出場。チーム内でのライバルは事実上不在だった。打率2割台前半と課題の打撃を指摘される機会は増えたが、周囲から見れば不動の地位。ただ、本人に手応えはほぼなかった。

「結局、試合に使っていただいた感じなんで。レギュラーという数字も残してない。自分が良かったからとは全く思ってないですね」

 チームはコロナ禍で試合数が短縮された2020年を除いてBクラス続き。チームを強くすることができなかった不甲斐なさが強い。2021年以降はその座すらも揺らぎ、昨季はキャリアワーストの43試合どまり。鬱屈した現状を変えるトレードは“放出”とも言われたが、再起への最後のチャンスと捉えた。

超えたい“過去の記憶”…「緊迫した試合で野球してるなって感覚を」

 やってきた新天地は昨季リーグ2位と躍進し、今季は25年ぶりの優勝が合言葉。ギラつく“勢い”を肌で感じる。「若い選手がすごいガツガツしているし、どんな状況でも元気がある」。ともすれば気圧されそうな雰囲気を受け止め、自らも必要なピースになるため、懸命に1軍での役目を見出す。

「最初は守備固めでもなんでもいいんです。試合に出たいっす。ずっとBクラスだったんで、優勝を味わいたい。目の前の勝利の瞬間に携わっていたい」

 超えたいのは、過去の自分や成績というより「記憶」。毎年、ヒリヒリする秋を過ごす他球団を羨ましく見てきた。唯一、痺れるような日々を過ごせたのが2020年。クライマックス・シリーズはなかったものの、Aクラスに入り「緊迫した試合で、野球してるなっていう感覚でした」。求めるのは、生死を分けるような極限状態のグラウンド。「それを知ることで、野球選手としてまたレベルアップできると思うんです」。

 保証されない立場になったからこそ、余計な悩みを考える隙間はなくなり、混じりっ気のない貪欲さが出てきた。「先のことなんて何も考えてないです。とにかく毎日一生懸命」。自ら居場所を掴み取る以外、生きていく術はない。純粋に野球に没頭する1年。待ち受ける未知数すぎる未来に、むしろ生き生きして言う。

「レギュラーだって諦めたわけじゃないですから。いつでもいくぞという準備はできています」
(小西亮 / Ryo Konishi)