2023年の巨人の秋季キャンプは、V奪還とばかりに連日アーリーワークから例年にない猛練習を課し、16日より宮崎から沖縄…

 2023年の巨人の秋季キャンプは、V奪還とばかりに連日アーリーワークから例年にない猛練習を課し、16日より宮崎から沖縄へと場所を移す。

 球界一の長身である3年目の秋広優人が覚醒するのか、ドラフト4位ルーキー・門脇誠がショートの即戦力になるのか、若手投手陣ではサウスポーの井上温大が一本立ちできるのか、育成ドラフト1位の松井颯が支配下登録されるのかなど、次世代を担う若手の話題は尽きない。

 そんな若手に混じって、3人のベテラン勢も連日汗を流している。中島宏之(40歳)に加え、広島から復帰した長野久義(38歳)とソフトバンクから移籍した松田宣浩(39歳)の3人である。

 このベテラントリオを揃えた巨人について、大物OBで球界のご意見番である広岡達朗は苦言を呈す。



昨シーズンオフ、ソフトバンクから巨人に移籍した松田宣浩

【松田は獲る必要があったのか】

「なぜ揃いも揃って、40歳前後の右打ちの同じタイプの選手が3人もいるんだ。2018年まで巨人でバリバリのレギュラーを張り、人的補償で広島に行った長野は、投手野手分け隔てなく食事に誘うなど人格者として名が通っている。長野を獲ったのはまだわからんでもないが、松田まで獲る必要があったのか......」

 長野の獲得は致し方ないにしても、松田獲得についてはどうも納得がいかないようだ。

「松田が二塁の守備練習を始めたという報道があったが、なんでセカンドの吉川(尚輝)のライバルにベテランをあてがうのか。通常なら、若手と競争させて吉川を刺激しないといけないはずである。まあ、ベテランがほかのポジションに挑戦するのは、キャンプでの話題づくり的な要素も含んでいるのだろうが、どうも遊び感覚でやっているようにしか思えんのだ」

 チームの雰囲気を一変させる存在として松田を獲得した部分はあるだろうが、声出し要員として一軍ベンチに置いておく余裕は、今の巨人にはないはずだ。

 もちろん、環境が一変したことで移籍1年目のベテランが活躍するケースは少なくない。三塁と一塁が守れる松田は、場合によってはスタメンで出場できる。だからといって、年齢から過度の期待をかけるのは酷だろう。うまく起爆剤になってくれれば......の思惑はあるだろうが、それでもシーズンを通してとなると容易ではない。

 中島は勝負強いバッティングに定評があり、代打の切り札だけでなく、一塁も守れる。なにより、通算2000本安打達成(残り77本)という高いモチベーションがある。とはいえ、昨シーズンは62試合の出場で24安打だったことを考えれば、衰えが目立っているのは間違いない。

【ベテランに再建を託すようでは厳しい】

 広岡はチームでのベテランの扱いについて、こう言及する。

「ベテランにいてほしいというのは間違いなくあるだろうが、同様にいつ活躍できなくなっても不思議ではない。移籍してくるベテランは、活躍できてせいぜい2、3年がいいとこ。当然、"現役引退"の意識があるため、最後に花を咲かせたいという思いは絶対にあるはず。だからこそ、抜本的な見直しが必要であり、指導が必要になってくる。ただ、アーリーワークを一生懸命やっているからいいというのではない。ベテランだからこそ調整法を任せるのではなく、体質改善や意識変化といった目に見える成果が出るものを提供していくのが指導者なんだ。

 ヤクルト時代の若松勉にしろ、西武時代の田淵幸一、大田卓司など、監督である自分が自ら喝を入れたものだ。指導者が一番やってはいけないことは、遠慮することである。今年のキャンプ前にヘッドコーチである阿部慎之助が『ベテラン3人はベンチに置けない。1人なのか2人なのかわからないが、競争してくれ』と長野に伝えたと言って物議を醸したそうだが、何が悪いんだ。むしろ、ベテラン3人が活躍しているようでは困るのだ」

 広岡は、ベテランに再建を託すようでは、ペナント奪還は厳しいと言いたいのだろう。それでも彼らがチームにいる以上、なんらかの形でプラスにすべきだ。若手の勢いは間違いなく必要であるが、長いペナントレースを戦うなかで、ベテランが必要になる時は必ずあるはずだ。

 事実、昨シーズンの巨人は若手を多く起用し序盤こそ好調だったが、その後は息切れし、そのままズルズルといってしまった感があった。

 中島、長野、松田に共通しているのは、日本代表でプレーしたことがあり、日本一の経験もあるということだ。彼らには球界のトップでプレーしてきたという代え難い経験がある。監督やコーチから教えてもらうより、ベテランたちから直接伝えられるほうが、若手にとっても響くものだ。一軍での直接的な戦力というより、バックアップ要員、そして若手のよき手本になってもらいたいという願いが強いのだろう。

 それでも広岡は次のように語る。

「手本になるにしても、一軍レベルで通用する力がないと厳しい。そもそもベテランを再生させる指導者が、今の巨人にいるのか? もっと言えば『これをやればよくなる』という確固たる信念を持った指導者がいない。言うなれば、勉強をしていないからだ。勉強とは、野球はもちろんだが、ほかの競技の指導者に話を聞いたりして吸収していく。そして幅広い分野の本を読むことだ」

 読書家ならではの広岡の見解ではあるが、指導者への提言は一貫している。選手を生かすも殺すも監督の胸算用で、コーチは選手の適性を見極め、技術を伸ばしてやる。一軍のコーチは決してお守り役ではないということだ。

 中島、長野、松田の3人はもちろんのこと、首脳陣にとっても真価を問われる1年になることだけは間違いなさそうだ。