1月15日に、皇后杯の準々決勝が行われた。ベスト4入りを懸けた戦いは、見応えがある一方で問題点もうかがえた。サッカージ…
1月15日に、皇后杯の準々決勝が行われた。ベスト4入りを懸けた戦いは、見応えがある一方で問題点もうかがえた。サッカージャーナリスト・後藤健生が、現在の日本女子サッカーの魅力と問題点について考察する。
■事実上の決勝戦
皇后杯全日本女子サッカー選手権大会の準々決勝が1月15日に全国の3会場で行われた。
栃木県宇都宮市の「カンセキスタジアムとちぎ」では、冷たい雨の中のダブルヘッダーとなった。
第1試合が、かつての日本の女子サッカー界の“絶対女王”、日テレ・東京ヴェルディベレーザ対サンフレッチェ広島レジーナ。そして、第2試合が三菱重工浦和レッズレディース対INAC神戸レオネッサのどちらも好カードである。
とくに、2試合目の浦和対神戸の一戦は、準々決勝で当ててしまうにはもったいない対戦。“事実上の決勝戦”と言ってよい試合だった。
というのも、2シーズン目を迎えたWEリーグ2022/23シーズンで3位以下を引き離して首位争いを続けるチーム同士の対戦だったからだ。
WEリーグの第8節までを終えた段階で、神戸は6勝1分0敗の勝点19で首位。浦和は6勝0分1敗、勝点18で2位。浦和と3位のマイナビ仙台レディースとは勝点4の差だが、仙台は1試合多い8試合を消化しているので、勝点差は見かけよりも大きいということになる(WEリーグは11チーム参加のリーグなので各節1チームは試合がなく、消化試合数に差が出てしまう。ちなみに、ベレーザは上位2チームと同じ7試合を消化して、浦和と勝点5差の4位)。
神戸と浦和は初年度もそれぞれ優勝と準優勝に輝いており、現在の日本の女子サッカー界の“2強”であることは間違いない。
■神戸が起こした「番狂わせ」
試合は浦和レッズがボールを握って攻撃する時間が圧倒的に多い展開になったが、前半の21分と23分に神戸がカウンターからチャンスをつかみ、ともに成宮唯が決めて2点をリード。後半に入ると浦和がさらに攻勢を強め、75分に安藤梢が決めて1点差としたが、残り時間を神戸が守り切って準決勝に駒を進めることになった(40歳になったベテランの安藤はチーム事情からこれまで経験のなかったセンターバックで起用されているが、難しいポジションを見事にこなしながら毎試合のように得点を重ねている)。
いずれにしても、シュート数では浦和が18本に対して神戸は7本。後半に限って言えば、浦和が9本、神戸が2本というかなり一方的な内容の試合だった。
浦和の楠瀬直木監督は、試合後に「悔しい」と言葉を発し、「どうしてこうなったか分からない」といった表情を浮かべた。
分かりやすく言えば、日本代表がドイツやスペインを破った試合以上に「番狂わせ」感が強い試合だった。
しかし、実はこの両チームは12月11日にもWEリーグの第6節で対戦しており、やはり2対1のスコアで神戸が勝利している。そして、この時も浦和がボールを握る時間が長く、シュート数では浦和が17本で神戸が8本。そして、やはりカウンターから神戸が2ゴールを決めて勝利しているのだ。
1試合だけなら、それは番狂わせが多いスポーツとして知られるサッカーらしい典型的なジャイアントキリング、つまり“サッカーあるある”ということですむかもしれない。だが、同じことが2試合連続して起こったということは、これは偶然の産物ではない。
浦和の弱点と、神戸の狙いどころがうまく絡み合ったことによる必然の結果ということになる。
■日本代表入りも狙える26歳
神戸の監督は、かつてヴィッセル神戸で長くDF(サイドバック)を務め、韓国代表経験もある朴康造(パク・カンジョ)。今シーズンから監督に就任した朴康造監督は「ワイドなサッカー」を目指してウィングバックを置く、3-5-2システムで戦っている。
12月のリーグ戦で前半の18分に先制ゴールを決めたのは右ウィングバックの守屋都弥だった。左サイドに流れてパスを受けたインサイドハーフの阪口萌乃が入れたクロスを逆サイドから走り込んで決めた見事なゴールだった。
そして、皇后杯の対戦で成宮の2ゴールをアシストしたのも、やはりウィングバックの守屋だった。
守屋はJFAアカデミー福島出身の26歳。JFAアカデミー出身者らしい運動量豊富な選手で朴康造監督の目指すサッカーを体現したような存在。運動量が豊富なことに加えて、状況判断もよく的確なタイミングで攻撃に加わってくるのが特徴だ。
2023年7月に開催される女子ワールドカップを目指す日本女子代表(なでしこジャパン)も、昨年秋以降スリーバックにトライしているが、守屋が今後もこのような活躍を続ければ、ウィングバック候補としてこれから代表入りも狙えるかもしれない。