1988年のパ最終戦は近鉄とロッテのダブルヘッダー、2連勝が近鉄V条件 2022年のパ・リーグは、オリックスが大逆転劇で…
1988年のパ最終戦は近鉄とロッテのダブルヘッダー、2連勝が近鉄V条件
2022年のパ・リーグは、オリックスが大逆転劇で連覇を達成した。10月2日のリーグ最終日、マジック「1」のソフトバンクがロッテに敗れ、わずかな可能性を残していたオリックスが楽天に勝利。残り3試合での直接対決で優勝を決められた2014年「10・2」の借りを返した。プロ野球では過去にも、ペナントを巡る数々のドラマがあったが、今でも様々な物語が語り継がれるのは1988年のロッテ-近鉄ダブルヘッダー「10・19」だろう。球史に刻まれる伝説の1日を、近鉄の2番打者として経験した新井宏昌氏が振り返る。(前編)
「This is プロ野球!」
試合途中から、急きょ始まった全国中継。実況のアナウンサーは興奮気味に叫んだ。一塁ベースを駆け抜けた新井氏がアウトのコールに怒りをあらわにすると、球場は異様な雰囲気に包まれた。
10月19日。川崎球場で行われたロッテと近鉄のダブルヘッダー2試合目、4-4の同点で迎えた9回表だった。2死二塁の場面で新井氏が放った三塁線への強烈な打球を、三塁手の水上は横っ飛びで好捕。抜けていれば悲願の優勝にグッと近づく状況だったが、好守に阻まれた。
「今であれば、リクエスト制度を確実に使うタイミングでした。自分のなかではベースを踏んだ感覚、ファーストが送球をつかんだ音でセーフだと思った。野球人生の中でも、ここまで確信を持ったのはなかった。普段は遊撃を守っていた水上が、この日は三塁。今振り返れば、色々と不思議な試合でした」
ダブルヘッダー第2試合、同点の9回にロッテ・有藤監督が猛抗議
近鉄が優勝するために必要な条件は、リーグ最終日での2戦2勝。1つでも敗れるか引き分けなら、すでに全日程を終えていた西武の優勝が決まる状況だった。この日、15時にスタートした第1試合では、同点の9回2死二塁から代打に出た梨田が中前適時打を放ち4-3で勝利。第2試合はわずか23分後に開始された。近鉄は7日から、13日間で15連戦という超ハードスケジュールを戦っており、ナインの体力は限界を迎えていたが、勝てば優勝が決まる一戦に死力を尽くした。
「ふだんのシーズン中なら負けても次がある。一喜一憂することはなかったが、メディアの報道は嫌でも耳に入っていた。ダブルヘッダーの第1試合でも中西コーチ(1軍打撃コーチ)は得点が入るたびに選手たちと抱き合うなど、チーム全体が最後の一戦にかけていた。仰木監督からも『お前のやることは分かっているだろ?』と。2番打者として何をしなければいけないかを、ずっと考えていました」
当時は「延長戦は4時間を過ぎて新しいイニングに入らない」という条項があり、近鉄ナインは時間とも戦わなければならなかった。試合は同点の8回にブライアントが勝ち越しソロを放ったが、その裏に阿波野がロッテ高沢にソロを浴びて再び同点。一進一退の攻防が続いていた。
近鉄は9回、冒頭の新井氏の一打を好守に阻まれ、勝ち越せなかった。そして裏の守備で事件は起こる。無死一、二塁のピンチで、マウンド上の阿波野が二塁へ牽制。高めに浮いたボールを二塁手の大石がジャンプし捕球すると、二走の古川と交錯しながらタッチ。二塁塁審はアウトを宣告したが、この判定にロッテの有藤監督がベンチを飛び出し、抗議に向かった。
「大石も受けたボールの勢いで走者がベースから離れた。これは一連の流れですから、アンパイアに従うしかない。時間制限は全員が知っている。『なんでそんなことするのか』『はやく終わってくれ』と。必要以上の抗議は正直、残念だった」
「事実かどうか分かりませんが『ロッテがわざと負けているのではないか』など西武ファンから投書が届いていたと聞きました。勝負事に熱い有藤さんですから。この日は気に入らない判定もあって、最後の最後で爆発したのではないでしょうか」
「4時間を過ぎれば新しいイニングに入らない」ルールで時間との戦いに
早く攻撃に移りたい近鉄。仰木監督もベンチを飛び出しロッテ側に迫り、試合再開を促した。ファンからは罵声と怒号が飛び交う中で、抗議は9分間を要した。すでに試合時間は3時間30分を経過し、“タイムリミット”は近づいていた。
結局、判定は覆らず1死一塁から再開。その後、阿波野は2死満塁のピンチを背負ったが、愛甲が放った左翼への浅い飛球を、淡口が猛チャージをかけ好捕。なんとか無失点に抑えると、試合は延長戦に突入した。
「全員が時間との戦いになるのは分かっていました。こちらの攻撃はもう1イニングしかない。もちろん、全員が打席に立つことはできない。『何とかしてくれ』と願うしかなかった」
残り時間的にも、延長10回の攻撃に全てをかけることになる。近鉄の首脳陣、ナインは奇跡の逆転優勝を信じて、疑わなかった。(後半に続く)(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)