11月に迫るカタール・ワールドカップへ向けて日本代表の準備が進むが、レベルアップに余念がないのはサムライ・ブルーだけで…
11月に迫るカタール・ワールドカップへ向けて日本代表の準備が進むが、レベルアップに余念がないのはサムライ・ブルーだけではない。各年代別の青いユニフォームを着る選手たちも、それぞれの目標に向けて、日々歩みを進めている。サッカージャーナリスト・後藤健生は今回、静岡県で行われた国際大会を取材。U-18日本代表に目を凝らした。
■引き出しの豊富な若い選手たち
U-18日本代表の冨樫剛一監督は「今の選手たちは映像などを見ていて知識が豊富だから、指示を伝えやすい」と言う。
たしかに、彼らは子供の時から映像で世界のトップクラスの選手を見ながら育ってきた世代だ。そして、Jリーグクラブのアカデミーに所属していれば、トップチームの選手を身近に見ながら切磋琢磨できる環境にいる。あるいは、ここ数年のJリーグのトップクラスのレベルの向上も影響を与えているのだろう。
そうした環境で育って、豊富な“引き出し”を持った選手たち。コミュニケーション能力もあるので、昔の選手たちと比較すれば短期間でまとまりやすいのだ。
これは、対戦相手だった静岡ユースの選手たちにも言えることだ。
静岡の鈴木啓史監督によれば、こちらもあまり準備期間はなく、「初めまして」という選手もいたそうだ。だが、それでも試合の中で選手同士でコミュニケーションをとりながら打開策を見つけることができたし、1戦目(ウズベキスタン相手にPK戦負け)の教訓も生かして戦っていたという。
このあたりにも、日本サッカー全体の底上げが感じられる。「サッカーIQの高さ」とでも言うべきだろうか。
■足りない「したたかさ」
もちろん、それで喜んでばかりはいられない。
戦術的なバリエーションが豊富で知識も持っているのだが、それを実際の試合の中でどう生かしていけるかというのはまた別問題なのだ。
冨樫監督の言葉を借りれば「知識は豊富だが頭でっかち」ということになる。
たとえば、静岡ユースとの試合。1点を奪って試合は終盤に差し掛かっていた。この時間帯にどのようにプレーして、リードを確実に勝点3に結びつけるか……。試合の最終盤に相手の選手が倒れて試合が中断した場面があったのだが、その後、相手にボールを渡すのはよいとしても、そのままプレッシャーをかけずに引いてしまったことについて冨樫監督は「したたかさが足りない」と指摘している。
たとえば、世界大会(FIFA Uー20ワールドカップ)出場権がかかったAFC Uー20アジアカップ(来年3月にウズベキスタンで開催)の、まさに世界への切符を懸けた準々決勝でこんな失点の仕方をしてしまったら悔やんでも悔やみきれないことになる。新型コロナウイルスの影響で、国際経験を積む機会が少なかった今の若い年代の選手たちにとっては、世界大会を戦うことは他の年代の選手たち以上に重要なのだ。
そういう意味では、静岡ユースは若い世代の日本代表に最高のレッスンを与えてくれたことになる。
こういうミスを減らすには、強い相手との対戦経験を重ねるしかない。そうした経験を積むためにも、世界大会に出場して1試合でも多く、いろいろなタイプの相手と戦ってほしいのである。
■日本代表のもう一つの課題
さて、Uー18日本代表は大会最終日にはウズベキスタンと対戦したが、この試合では日本のサッカーにとってのもう一つの課題が浮き彫りとなった。
ウズベキスタン戦の前半も、やはり日本がボールを支配した。素早い帰陣で相手にスペースを与えず、最後はセンターバックの高井幸大(川崎フロンターレUー18)がしっかり締める。一方、攻撃ではアンカーの位置に入った下田栄祐(鹿島アントラーズユース)からの深いパスが効果的で、何度か決定機を演出した。そして、17分にはやはり下田のパスで左サイドの名願斗哉(履正社高)が相手ペナルティーエリア内深くに進入。最後はサイドバックの坂井駿也(サガン鳥栖Uー18)がゴール正面で受けて、うまくターンして中央に決めた。
ただ、その後も日本が支配を続けたものの、2点目は奪えないまま後半を迎えることになってしまった。
後半に入ると、ウズベキスタンは両サイドに新しい選手を入れてアグレッシブに前に出てきた。そして、前がかりになるウズベキスタンを相手に、ボールを巡る激しい競り合いで日本は次第に劣勢に立たされ、クリアボールも拾われて自陣に釘づけにされてしまう。ボールを奪ってパスをつないで攻めても、最終的には1対1の競り合いで負けて突破を許してもらえないのだ。
ウズベキスタンの攻撃はけっしてテクニカルなものではなかったが、力強さが目を引いた。多少正確性を欠いてでも、素早くボールをスペースに送り込んで、競り合いの中でボールを自分たちのものにしてしまうのだ。
そして、日本が自陣ゴール前に釘づけにされていた60分にリアン・イスラモフにミドルシュートを決められて1対1の同点とされてしまった。
試合はそのまま終了し、PK戦でウズベキスタンが勝利。今年の大会はウルグアイが全敗に終わり、日本、ウズベキスタン、静岡の試合は3試合すべてが引き分け。PK戦で静岡と日本に勝ったウズベキスタンが優勝。日本は二度ともPK戦に敗れて3位という結果に終わった。