気温が39度に達した灼熱のスペインGP決勝を終えて、マシンから降りた角田裕毅(アルファタウリ)は疲労困憊の様子だった。「すごく長いレースでした。マイアミも結構きつかったですけど、今回は戦っているポジションが上だったので、全体的に考えると今…

 気温が39度に達した灼熱のスペインGP決勝を終えて、マシンから降りた角田裕毅(アルファタウリ)は疲労困憊の様子だった。

「すごく長いレースでした。マイアミも結構きつかったですけど、今回は戦っているポジションが上だったので、全体的に考えると今回が一番きつかったかなと思います」

 低速コーナーから高速コーナーまでマシンの総合力が問われるバルセロナでは、現状のAT03では苦戦を強いられることはわかりきっていた。



角田裕毅がスペインGPで大きな成長を示した

 中団グループのライバルがアップグレードを投入してきたこともあって、新パーツのないアルファタウリは金曜から苦しい戦いとなった。

 土曜午前のFP3でも依然としてマシンの仕上がりは芳しくなく、Q1突破さえ難しいのではないかという状況。さらにはピエール・ガスリーがトラブルに見舞われて1周しか走行できず、アルファタウリは極めて厳しい状況に直面することになってしまった。

 しかし、角田がガスリーの分も走り込んでデータ収集を進め、そこから予選までの2時間でセットアップをガラリと変更。これがきちんとハマり、さらにはドライバーふたりも最大限のドライビングで13位・14位という結果を絞り出してみせた。

「FP1からペースがよくなかっただけに、厳しい予選になることはわかっていましたし、Q2に行くのも厳しいのではないかと思っていました。今日もかなりマシンバランスには苦しんだんですけど、FP3からガラッと大きく変えたんで、それがうまくいってよかったです。

 チームメイト(ガスリー)がFP3で走れなかった分、僕はできるだけデータを収集して、その甲斐あって予選に向けていいクルマを作ることができました。予選アタックも納得できるアタックラップではあったので、そこは自分としても評価したいです」

 イモラ(第4戦)ではチームを牽引し、マイアミ(第5戦)では予選までは「これまででベストなビルドアップ」というレース週末の流れを組み立てることができた。決勝ではブレーキトラブルでペースを失ってしまったが、ここ数戦の角田はレース週末の組み立てが極めてうまくなってきている。その成長ぶりが、バルセロナ(第6戦)でも遺憾なく発揮されるかたちとなった。

レース後の角田は満足げな表情

 金曜のロングランでは、ペースも思わしくなかったが、トラフィックに引っかかって抜けずにいた。その対策という意味もあって、予選に向けて角田はダウンフォースを削り、最高速を伸ばしてきた。

 決勝では、これが功を奏することになる。

 スタート直後の混乱で2台が脱落し、角田は11位に浮上。中団グループ集団のなかでペースを維持し、最後はダニエル・リカルド(マクラーレン)をオーバーテイクすることに成功した。

 早めのピットインでアンダーカットしてきたフェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)もコース上でオーバーテイクしてポジションを取り戻してみせた。前のランド・ノリス(マクラーレン)よりも速いペースでじわじわとギャップを縮める強さも見せた。

 しかし、第3スティントで履いたソフトタイヤがなかなかグリップを発揮せず、先にピットインしていたアロンソに再逆転を許してしまい、角田はその点を悔やんだ。それでも10位のポジションを堅実に守って、貴重なポイントを持ち帰った。

「第3スティントのウォームアップがよくなかったので、それでアロンソに前に行かれてしまったのがターニングポイントでした。それがなぜだったのかを突き詰めたいです。あそこで抑えきれれば、最後までアロンソの前で行けたかもしれないですね」

 それでもレースを終えた角田は満足げな表情だった。

 苦しいレース週末のなかで、ドライバーとしてもチームとしてもやれるだけのことをやりきり、マシンのポテンシャルから言って最大限の結果を手にすることができた。アロンソを抑えきれた可能性もあったが、もともとアロンソは予選でトラフィックに捕まって後方スタートになっただけで、アルピーヌの実力がアルファタウリやマクラーレンよりも上だったことはエステバン・オコンの速さを見れば明らかだった。

 最終結果はライバルたちとの相対的な位置関係で決まるが、ライバルたちの速さはどうすることもできない。現状のマシンパッケージを物理的に変えることもできない。どうにかできるのは自分たちのパフォーマンスだけであり、目の前にあるマシンから最大限に性能を引き出すことしかできない。

昨年のアブダビGPに並ぶ出来

 スペインGP週末のアルファタウリと角田は、それが果たせた。

「今週のチームのポジションからすると、僕的にはいいポジションで終えることができたのかなと思います。こういう状況でポイントを獲ったことは今まであまりなかったので、すごく次につながるレースだったかなと思います。でも、ここで満足せずにそういったところをチームと話し合って、次に生かせるようにできればと思います」



スペインGPではフェルスタッペンが今季4勝目をマーク

 結果だけを見れば、角田のベストレースは昨年の最終戦アブダビGPの4位。そして今季の第4戦エミリア・ロマーニャGP(7位)も好走を見せた。しかし、レース週末全体の内容を見れば、苦境のなかでポイントを掴み獲ったスペインGPは値千金のベストレースだったと言っても過言ではない。

 22歳を迎えてからの初レースで、角田はこれまでになく大きな成長をはっきりと示してくれた。