1893年創立で、ブンデスリーガ発足後は3度のリーグ優勝を誇り、その優秀な育成組織からMFサミ・ケディラ(2021年引…

 1893年創立で、ブンデスリーガ発足後は3度のリーグ優勝を誇り、その優秀な育成組織からMFサミ・ケディラ(2021年引退)、DFアントニオ・リュディガー(現チェルシー)、MFヨシュア・キミッヒ(現バイエルン)、FWセルジュ・ニャブリ(現バイエルン)など数多くのドイツ代表を輩出してきたクラブ----それがシュツットガルトだ。

 ブラジル代表ドゥンガや、西ドイツ代表ギド・ブッフバルトら日本と縁の深い人物も現役を過ごしたそんな名門で、今シーズンからキャプテンを任されているのが、日本代表の主軸MF遠藤航である。



シュツットガルトの1部残留に大きく貢献した伊藤洋輝(左)と遠藤航

 しかしながら近年のシュツットガルトといえば、「名門」と呼ばれるにはいささか不釣り合いな時を過ごしている。

 岡崎慎司(現カルタヘナ)や酒井高徳(現ヴィッセル神戸)を擁してドイツカップ決勝進出を果たした2012−13シーズン以降はふたケタ順位が定位置となり、2016−17シーズンには実に40年ぶりの2部参戦を強いられることになった。そこから1年で1部復帰を果たすも、2018−19シーズンに再び降格が決定するなど、ジェットコースターさながら浮沈の激しい様相を呈していた。

 昇格組として迎えた2020−21シーズンは、1部残留を最低限の目標とするチームながら9位で終え、迎えた今季開幕戦はフュルト相手に5−1の完勝。チームだけでなく、先制点を決めた遠藤にとっても快調な滑り出しとなった。

 来季のヨーロッパカップ参戦を狙えるかもしれない----。そう思ったファンも少なくなかったのではないだろうか。

 ところが、主力メンバーに新型コロナウイルス感染や負傷者が相次いだことでチームの歯車は狂い、勝ち点を拾うことが難しくなった。特に大きかったのは、昨季リーグ6位の16得点を挙げたエースFWサシャ・カライジッチの離脱だ。

「相手がけっこうプレッシャーをかけてきた時とか、ゴールキック(の場面)もそうですけど、ふんわりあそこに(カライジッチめがけて)蹴るっていうだけで(相手を)はがせる。それは(攻撃の)オプションとして持てていると思うし、自分もあそこの近くにいればセカンドボールを拾えたりっていうのはある」

 遠藤もそう頼りにする長身ストライカーの不在は、甚大な被害を与えた。

ドイツで戦う遠藤航の決意

 結果、残留の行方は最終節までもつれこみ、遠藤の劇的なロスタイム弾のおかげで辛くも入れ替え戦を回避。なんとか生き残りを果たしたのだった。

 残留を達成したことで、来季もこの慣れ親しんだシュツットガルトに所属したままW杯カタール大会へ臨むことができるのは、遠藤にとっても大きいだろう。

 同大会のグループリーグでは、今現在の遠藤が主戦場としているドイツとの対戦もある。組み分け抽選の結果がわかった翌日、その鼻息は当然のごとく荒かった。

「個人的にはドイツとやれるんで。なんで自分がここに来たのかっていうところを含めると、ドイツっていうチームはね、本当に世界でもベストと言ってもいいぐらいのチームだと思うし。それはスペインもそうだと思いますけど、僕がブンデスに憧れて、こうやって(ドイツに)来て、実際にドイツ代表とやれるっていうのは、個人的にはすごく楽しみですね」

 直近3大会での優勝国のうち2カ国が同居するグループEについて、日本メディアの論調は「死の組」。だが、ドイツではそれとは異なり「順当なグループ」という報じられ方だった。つまり、ドイツとスペインが決勝トーナメントに進出し、日本とコスタリカorニュージーランドが敗退する「無風地帯」と見られている。

 しかし、ドイツでここまで3シーズンを戦い抜き、さらに2シーズン連続で1部のデュエル最多勝利者に輝いた遠藤は、頼もしいかぎりのコメントを発している。

「どうせやるのなら強いチームとやりたいと思っていた。グループリーグ(の抽選)もポッド2まで見た時に、どっちかというとE組に入りたいと思っていたぐらいなんで。

 せっかくのW杯で、もちろんベスト8という目標はありますけど、やっぱりできるのならどんどん強いチームとやって、上に行きたい。ベスト8に行くにも、どうせベスト16で強いとことやって勝たなきゃいけないので」

伊藤洋輝の代表入りも間近

 そしてもうひとり、忘れてはならないのが伊藤洋輝の存在だ。

 もともとは、ジュビロ磐田からシュツットガルト・セカンドチームへの期限付き移籍という話だった。だが、すぐさまトップチームの指揮官ペジェグリーノ・マタラッツォの目に留まり、今季はリーグ戦29試合、ドイツカップ2試合に出場するなど、今や完全なる主力という立場だ。

 相手との距離を詰めきれずにシュートを打たせてしまう場面も時々見られるが、本人も「W杯(の対戦相手)はどこも強い。まず(日本代表に)選ばれないとピッチに立てない。そこはもちろん意識してやっていきたいなと思っています」と話しており、今後の日本代表にとって楽しみな人材であることは間違いない。

 レンタルから完全移籍に移行され、ブンデス1部で日々揉まれる環境がこの先も継続されるのであれば、伊藤のW杯本大会メンバー入りも十分可能だろう。

 目利きのあるスヴェン・ミスリンタートSD(スポーツディレクター)が尚志高校から新たに獲得したチェイス・アンリも、現時点ではあくまでセカンドチームからスタートする見込み。だが、マタラッツォが指揮を執る以上、伊藤のように1軍へ抜擢されることもなくはないだろう。

 遠藤と伊藤に加え、このチェイスもレギュラー争いに加わってくれば、日本人ファンとしてはなかなか興味深い。ギリギリの残留劇から来季どのような発展をシュツットガルトが遂げていくのか、その行方も注目したい。