ブラジルと言えば、サッカー王国として知られる。今年開催されるワールドカップでも、優勝候補に挙げられる。その強国の歴史で…
ブラジルと言えば、サッカー王国として知られる。今年開催されるワールドカップでも、優勝候補に挙げられる。その強国の歴史でも、今回のセレソンは最強かもしれない。サッカージャーナリスト・大住良之が、ブラジル代表を解析する。
■すでに今大会限りでの退任を表明
2016年、チッチはワールドカップ予選の半ばでブラジル代表監督に就任。チームを立て直して予選を突破し、ロシア大会に臨んだが、ブラジルとしては不満の残る準々決勝での敗退(ベルギーに敗れる)となった。それでもブラジル協会のチッチ監督への信頼は厚く、さらに4年間の指揮を託した。チッチはすでに2022年ワールドカップを最後にブラジル代表監督を退くことを表明している。
チッチはコリンチャンスの監督時代の2012年にリベルタドーレス杯南米クラブ選手権を制覇し、その年の12月に日本で行われたFIFAクラブワールドカップでは決勝戦でチェルシー(イングランド)に1-0で勝利、「世界チャンピオン」の座についた。
興味深いのは、翌2013年末でコリンチャンスとの契約が切れると、たくさんのオファーを断り、世界のサッカーの潮流を知るために1年間の「研究生活」を送ることを決めたことだ。2014年ワールドカップ・ブラジル大会の試合も見たが、アーセナル(イングランド)を訪れてアーセン・ベンゲル監督と話したり、レアル・マドリード(スペイン)のカルロ・アンチェロッティと監督といった欧州の代表的な監督たちと交流をもったことで、いまのブラジル代表に通じる現代的なサッカーを学んだ。
■アギーレ以上の有力候補だったチッチ
この時期、ブラジル代表監督就任の要請もあったが、より可能性が高かったのが日本代表監督のポジションだった。2014年ワールドカップで惨敗後、アルベルト・ザッケローニ監督の後任を探していた日本サッカー協会はチッチと接触、チッチ自身はやる気になったが、残念ながら条件面で折り合いがつかず、日本協会はメキシコ人のハビエル・アギーレと契約することになる。
2015年、チッチはコリンチャンスと契約してピッチに戻ったが、2016年6月、コパアメリカ(大会設立百周年記念特別大会、アメリカで開催)でブラジル代表がグループ3位になって敗退すると、ブラジル協会はドゥンガ監督を解任、チッチを後任に指名した。
■驚異の「勝ち点率80.1%」
チッチの初指揮は9月1日のエクアドルとのワールドカップ予選アウェーゲーム。2018年ワールドカップの南米予選はここまで6試合を消化していたが、ブラジルは2勝3分け1敗と苦戦を続けていた。しかしチッチ監督就任とともにブラジルは息を吹き返した。ネイマールとガブリエウ・ジェズス(2得点)のゴールで3-0と快勝。ここから怒濤の8連勝。この間得点23、失点わずか2。アルゼンチンに3-0(ホーム)、ウルグアイに4-1(アウェー)という重要な勝利もあり、ワールドカップ出場を決めた。
ロシア大会では準々決勝でベルギーと対戦、試合序盤のオウンゴールの不運もあり、1-2で敗れたが、チッチ監督への信頼は揺るがなかった。ことし3月29日のボリビア戦まで、チッチ監督下のブラジル代表の成績は72戦して53勝14分け5敗。「勝ち点率=全勝で得られる勝ち点数に対する実際に得た勝ち点数の割合」は、実に80.1%にものぼり、ブラジル協会の判断が正しかったことが証明された。ちなみに、6年間を超す「長期政権」はブラジル代表では異例中の異例だ。