写真提供:共同通信社

 


 5月10日の阪神戦、2打席連続で右方向への本塁打を放ち、お立ち台に上った巨人・坂本勇人。昨年は初の首位打者、ゴールデン・グラブ賞など4つの年間タイトルを獲得し、3月にはWBCに主力として出場するなど、名実ともに日本を代表する遊撃手となっている。

 

 

■引っ張り中心の打撃は卒業?

 近年、打撃面で特徴的なのは逆方向への打球が増えたことだろう。かつての坂本は内角をうまくさばく姿が印象的だったが、ここ2年は打撃スタイルが変化している。上の表にあるように、例年は長打の多くが左(レフト)方向に引っ張った打球だった。しかし、昨年から右(ライト)方向への打球が増えており、今年に至っては長打の半分が右方向となっている。もはや、坂本はプルヒッター(※右打者なら左方向へ、左打者なら右方向へ引っ張った打球の多い打者)ではない。

頼れるキャプテン・坂本が逆方向へ2打席連発!! ハイライト動画【5/10 読売ジャイアンツ対阪神タイガース】

■「引っ張ったファウル飛球」も減少

 それでは、どのようなスイングが打球方向の変化を生んでいるのだろうか。ここでは、タイミングによって打球方向が大きく変わる「ファウル」のデータを見てみたい。
 この表ではファウルの飛球(※フライ、ライナーの打球。バットの上っ面に当たってバックネットに飛んでいった打球なども含む。邪飛は除く)がどちらの方向に飛んでいったのかを示している。真後は一塁線と三塁線の延長線上で囲われるバックネット方向のファウルゾーンと定義した。ご覧の通り、昨年に比べても左方向へのファウル飛球が大きく減少していることが分かる。
 バットが球を捉えるインパクトの瞬間は、多くの場合グリップ(手元)よりもヘッド(バットの先)の方が下方にある。バットに角度がついているため、タイミングが遅い場合だけでなく、早すぎても逆方向に飛球のファウルが飛ぶことはある。しかし、引っ張る方向にファウルが飛ぶ場合は、そのほとんどがタイミングが早過ぎて、かつ、ある程度捉えた当たりの場合と考えられる。つまり、ここまで打撃好調な坂本の左方向へのファウルが大きく減少しているということは、昨年に比べてインパクトの位置を捕手側にするように、常に意識していることを表していると推測できる。
 長打の打球方向を見ても昨年から逆方向を意識する傾向はあったが、WBCでの「ムービングファストボール」対策なども経て、今年はさらに一段と球を手元まで引きつけてのスイングを実践しているのだろう。

■変化球も引っ張らない

 もう少し詳しく、球種別のデータを見てみよう。ファウル打球を真っすぐ系(ストレート、ツーシーム、シュート)と曲がる系&落ちる系(スライダー、カーブ、フォークなど真っすぐ系以外すべての変化球)に分類し、その対応を見てみると、今年は緩い変化球でもタイミングが早すぎるという場面がまったくないことが分かる。
 真っすぐ系への対応は昨年から大きな変化はないが、今年は特に変化球を手元まで引きつけて、崩されないようなスイングを心掛けているのだろう。

■「前でさばくタイプ」と「手元まで引きつけるタイプ」

 ここで、曲がる系、落ちる系のファウル飛球の引っ張り割合について、その他特徴のある選手も見てみよう。2017年のまだサンプル数が少ない状況ではあるが、ランキングにはそれぞれ個性的な選手が名を連ねている。
 まず「前でさばくタイプ」について。右打者を見ると、ここ数年の「ミスター引っ張り」ともいえるDeNA・ロペスが58.8%と断トツの数値を残している。次点の広島・鈴木誠也は今年引っ張り打球の増えた選手で、対左投手はヒットの9割以上がセンターから左方向となっており、昨年のヤクルト・山田哲人をほうふつとさせるような状況だ。左打者の上位を見ると、巨人・阿部慎之助の後にソフトバンクの若武者・上林誠知の名前がある。今年ブレークしている上林の本塁打6本はすべてセンターから右方向。基本的には変化球を前でさばく選手だが、内角の変化球は捉えてもファウルになってしまっており、まだ内角で無安打という特徴がある。
 次に「手元まで引きつけるタイプ」について。右打者では今年復調したオリックス・小谷野栄一、左打者ではDeNA・倉本寿彦、ソフトバンク・柳田悠岐、日本ハム・中島卓也が特徴的だ。力強いスイングの柳田とカット打法の中島ではまったく打撃の結果は違うが、「手元まで引きつけて逆方向へ」という点は似ている部分もありそうだ。

■タイミングを変えると打球が変わる

 坂本に話題を戻そう。直球だけでなく、変化球までも手元まで引きつけて打つスイングに変えたことで、フェアゾーンにはどのような打球が飛ぶようになったのか。曲がる、落ちる系のフェアゾーン(※ここでは本塁打、邪飛も含む)への打球を

<性質>ゴロ、フライ、ライナー
<方向>左方向、中方向、右方向
<強さ>ランクA(強い打球)、ランクB(普通の強さの打球)、ランクC(弱い打球)

という3×3=27区分に分類し、昨年と今年のデータを比較した。上の「曲がる系、落ちる系の打球割合」の表はその中で特徴的な項目をピックアップしたものとなっている。

 まず、左方向のランクAの飛球(フライ、ライナー)がなくなり、同時に右方向のランクCの飛球も減った。昨年のように変化球を前で捉えようとする場合、ミートした時はレフト方向に長打性の打球が飛ぶものの、捉えきれない時は一塁側への力のない内野フライに倒れていた。今年は長打がない分、力のないフライも減っている。また、左方向へはゴロの打球が大きく増えているのも特徴で、これもおそらく手元まで引きつける打撃の影響だろう。

 曲がる系、落ちる系の打率と長打率を見てみると、結果として「打率はわずかに上昇」「長打率は低下」となっている。まだ5月中旬のデータではあるが、引きつけて打つスイングは利点だけでなく「変化球に対しては長打が減る危険性がある」ともいえそうだ。

 曲がる系、落ちる系の長打率が下がっていてもトータルで昨年以上の成績を残せているのは、真っすぐ系に対する成績が打率.452、長打率.839と抜群なためだ。確かに、投球の軌道をできる限り近くまで見極めてスイングできることの効果は、真っすぐ系に関しては特に大きいのだろう。

■打球ごとの期待安打、期待塁打を試算する

 ただ、現在の活躍がそのまま続くかどうか不安なデータもある。先ほど分類した打球タイプ別に、リーグの平均的な長打率を計算し、塁打数を計算したものが「打球タイプ別期待塁打、実塁打」の表となる。「期待塁打」が打球タイプから推定される塁打数、「実塁打」が実際の塁打数だ。ご覧の通り、ほとんどの打球で実塁打が期待塁打を上回っていることが分かる。

 この実塁打と期待塁打を三振を加えた打数で割って実際の長打率と推定長打率を算出し、その差分を見ると、規定打席到達者の中では坂本が最も大きい差のある選手となってしまう。あくまでもひとつの試算の結果ではあるが、現在の成績はやや運に恵まれている部分もあるのではないか?と思われるということだ。現状は常に手元まで引きつけるスイングを実践しているが、今後の成績次第では、どこかで変化球を強引に引っ張るスイングも解禁するのではないかと思われる。

 以上、坂本の詳細な打球データをもとに、スイングのタイプやタイミングの取り方を推察し、今後について検討を加えた。
 野球のプレーデータの分析は直近の試合の戦い方を決めるスコアラーの領域、主に選手の編成に生かすGMの領域が主なものだったが、近年では選手のパフォーマンス能力そのものをいかに向上させるかという領域が注目を集めている。
 選手のパフォーマンス能力向上に試合のプレーデータを生かすためには、スイングやフォームなど、結果ではなく選手の行為や動作のレベルへと話題を落としていかなければならない。技術の進歩によって行為や動作そのものをデータ化し、分析できる時代だからこそ、試合でのパフォーマンスそのものである一球ごとのプレーデータと行為や動作の関係性を知ることはとても重要なはずだ。
 今回の分析は選手のスイングという行為を推測する試みの初歩と捉えており、引き続きこの課題に挑戦していきたいと考えている。

※データは2017年5月11日現在

文:データスタジアム株式会社 金沢 慧