この春のセンバツ高校野球は、大阪桐蔭の4度目の優勝で幕を閉じた。 初戦の鳴門(徳島)戦こそ3点にとどまったが、新型コロナウイルス感染者が出たため不戦勝となった広島商戦を境に、準々決勝からの3試合で48得点。しかも大会本塁打数18中11本が…

 この春のセンバツ高校野球は、大阪桐蔭の4度目の優勝で幕を閉じた。

 初戦の鳴門(徳島)戦こそ3点にとどまったが、新型コロナウイルス感染者が出たため不戦勝となった広島商戦を境に、準々決勝からの3試合で48得点。しかも大会本塁打数18中11本が大阪桐蔭である。この圧倒的猛打には、目を見張るパワーと技術の高さがはっきりと見え、単なる「勢い」とは違う、大阪桐蔭打線のたしかな実力を感じたものだ。



センバツで2本の本塁打を放ったプロ注目の大阪桐蔭・松尾汐恩

 今回の優勝で大阪桐蔭の強さの秘密については、いろいろなところで語られてきた。スカウティング、選手個々の意識の高さ、練習環境の充実など、その理由は多岐にわたる。もちろん、今回の記録的猛打についても、上記の理由が関係していると思うのだが、それとは別にセンバツでの試合を見たうえで大阪桐蔭の「打撃力」について、あらためて考察してみた。

鳴門・冨田遼弥との対戦

 初戦で対戦した鳴門のエース・冨田遼弥の前評判は、正直、それほど高くなかった。しかし、昨年秋の四国大会のピッチングを見ていた私は、左腕から右打者のインコースに食い込んでくるクロスファイヤー、さらにスライダー、チェンジアップを両サイドに投げ分ける投球のうまさを知っていたので、さすがの大阪桐蔭打線でもそう簡単には打ち崩せないと踏んでいた。

 とくに、実戦経験に乏しいこの時期、複数の変化球とコントロールに自信のあるサウスポーとの対戦は最も避けたいはずだ。

 試合前、ネット裏の記者席では「大阪桐蔭が何点とるんだろう......」という会話があちこちから聞こえてきた。だが、大阪桐蔭打線が冨田の球を簡単に攻略するとは思えず、「いい試合になる」と予想していたら、そのとおりの展開になった。

 立ち上がりから、自慢のストレートを軸に大阪桐蔭打線に向かっていく冨田。ミットを構える捕手の土肥憲将が、とくに右打者のインコースを執拗に攻め、フルスイングをさせない。

 なかでも、プロ注目の3番・松尾汐恩と4番・海老根優大の、ふたりの右打者がとくに苦しんだ。

 タイミングをとりながら、左肩が中に入りすぎてしまう傾向のある松尾は、外のチェンジアップを意識させられながら、懐を突くクロスファイアーに差し込まれる場面が目立った。

 初めての甲子園にテンションMAXの海老根は、インコースのストレートに対し強くスイングしようとしすぎるため体の開きが早くなり、強引な空振りや思わぬ方向へのファウルを重ねた。

 冨田は走者を背負ったセットポジションからでも、常時130キロ台後半をキープして、ベース付近でも威力が落ちない「生きたストレート」を投げていた。ヒットこそ二塁打5本を含む8安打を許したが、要所で冨田のうまさが光り、大阪桐蔭は3得点にとどまった。

 それから中3日空いて迎えた準々決勝の市和歌山戦。松尾、海老根のふたりの右打者が打ち方を変えてきて驚いた。

 松尾は左肩を入れすぎず、構えた姿勢をキープしながら踏み込み、海老根もフルスイング一辺倒から丁寧にタイミングをとっていた。強く振ることに一生懸命になっていたのが、「振り出し以前」を大切にするようになり、過剰な力みがずいぶんと緩和されていた。

 おそらく、このふたりに限らず、初戦で冨田に厳しい投球をされ、窮屈なスイングしかさせてもらえなかったことが、逆によかったのだろう。「このままじゃダメだ」と、早々にバッティングを見直し、それ以降の打棒爆発につながったのではないか。

スイングするまでの意識

 大阪桐蔭のバッティングを見ていて、もう何年も前から感じていたことがある。それは「スイングをスタートするまで」にとても気を遣っていることだ。

 多くの高校生はいかに強く、速く振るか......その点ばかりに意識がいきがちだが、大阪桐蔭のバッターは、ボールを見やすい姿勢で構えて、上手にタイミングをとって、投手寄りの肩が開かないように意識づけている。そうすれば、バットは自然といい軌道となり、強く振れるという「理屈」を心得て、打席に入っているように見える。

 タイミングさえ合わせることができれば、渾身のスイングとなる。「とらえた!」の意識が自然の出力となって、力みすぎることなくバットが振り抜かれるからヘッドが走り、痛烈な打球が生まれる。それが大阪桐蔭打線のバッティングのメカニズムではないか。

 毎年のようにすばらしい打者を並べてくる大阪桐蔭打線だが、体格的に180センチ超えの大型が何人も揃っているわけではない。今回のセンバツでも、投手以外のレギュラー野手の平均身長と体重を計算すると、176センチ、78キロ。決して突出しているわけではなく、むしろ今の高校野球なら平均的なサイズだろう。それぞれの体格に合わせたスイング軌道から、ボールに強烈なバックスピンをかけるバッティングスタイルで、上位から下位までまんべんなく長打を打ちまくった。

 市和歌山の米田天翼や近江の山田陽翔といった大会屈指の好投手をいとも簡単に打ち崩したバッティングには目をむいたが、打った選手たちの表情を見ていると、「いつもどおりに打っただけ」というフラット感が見てとれた。

 その身の丈に合った、いつもどおりのバッティングのレベルが、じつはとんでもなく高い。それが大阪桐蔭の打撃なのだ。

全国クラスの投手陣

 圧倒的な強打で相手チームをなぎ倒してきた大阪桐蔭だが、一方でマウンドに上がった投手たちの能力の高さにも驚かされた。

 4試合中3試合に登板し、そのうち2試合が先発だった川原嗣貴は超大型(189センチ)の剛球投手のイメージだが、実際はカットボールで動かし、カーブ、フォークでボールを落としながら、要所で140キロ前後のストレートを速く見せて、淡々とアウトを重ねていく安定感抜群のピッチング。

 リリーフでマウンドに上がった別所孝亮は、角度ある140キロ超のボールで相手打者を圧倒。そして背番号11ながらエース格として君臨する2年生左腕の前田悠伍。先発でもリリーフでもまったく隙のない快投は、まさに難攻不落。前田は来年のドラフト候補だが、今年指名でも間違いなく1位で消えるはずだ。

 聞くところによると、今回ベンチ入りできなかった投手も、中学時代はそれぞれ将来を嘱望された逸材ばかりだそうだ。

 これほど高い能力を持った投手陣が、シートバッティング、紅白戦など、日常の実戦練習で登板して真剣勝負を繰り返していけば、自ずとバッティングは向上する。

 逆に、これだけの腕利きの打者を相手に投げていれば、投手たちの実戦力も上がり、底知れない相乗効果となる。

 どんな強豪を相手にしても、ひるむことなく、気負いもない。淡々と、普段の練習のように相手に向かい、得点を重ね、相手打線を封じていく。大阪桐蔭の圧勝劇には、そんな日々の鍛錬が色濃く反映されていた。