2019年に埼玉県川口市で日本初のエルゴ選手権大会を開催した一般社団法人カヌーホーム。だが2021年1月に予定していた現…

2019年に埼玉県川口市で日本初のエルゴ選手権大会を開催した一般社団法人カヌーホーム。だが2021年1月に予定していた現地開催はコロナ禍のため中止、代わりに「第1回オンラインエルゴ大会」が開催された。そして今年も3月5日(土)にオンラインでの開催が決定(当初の1月より延期)。昨年の参加者11拠点141名を大きく上回る16拠点170名(録画参加含)の参加が見込まれる。大会を主催したカヌーホーム理事の尾野藤直樹さんに話を伺った。

――エルゴ大会は、どんな経緯で開催しましたか?
尾野藤直樹(以下 尾野藤):2019年1月に第1回エルゴ選手権大会を川口の商業施設 ララガーデン川口で開催しました。翌2020年は規模が大きくなり2日間に渡り、ララガーデン川口で開催。アニメ化もされた『君と漕ぐ』の作者・武田綾乃さんのサイン会も行いました。

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――初開催してから3年が経つんですね。ところでクラス分けはどのようにしましたか?
尾野藤:「小学生」「中学生」「高校生」「シニア」「マスター」です。参加人数でいうと中学生や高校生が多いですね。参加した選手からは「また来年開催してほしい」「楽しかった」という声がたくさん届きました。

2019,2020年は川口ララガーデンで行いました。間近で一般の方々に観ていただく機会が少ないので良い経験になったという意見も届きました。

また普段、選手は水面で競技を行うため、一般の方々に間近で観られることが少ない。ですから「近くで声援を受け、良い経験になった」という意見も届きました。2年連続で出場してくれるチームや選手は多かったですね。

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ただ2021年はコロナ禍のため、現地開催が出来なくなった。しかしエルゴ大会を楽しみにしている方々が全国にたくさんいます。「開催しない」のがもったいないと。特に冬季はカヌー競技がシーズンオフになるため、各選手が県をまたいで交流することが少ない。これもエルゴ大会を開催した理由の一つです。ですからコロナ禍での大会開催をスタッフと模索しました。そこで思いついたのが「オンラインエルゴ選手権大会」です。Wi-Fi環境があれば日本中の選手とオンラインで繋がることができると。それで昨年オンラインでの開催に踏み切りました。

――最初「オンラインエルゴ選手権大会」を聞いた時、正直驚きました。確かにコロナ禍でオンライン上でのライブ観戦が当たり前になっている。それは視聴者があくまで「観戦」、情報を受け取るだけです。しかし「オンラインエルゴ選手権大会」は運営側と参加者、双方向のやり取りが行われます。
尾野藤:やはり学校の顧問の先生を始め指導者の方々の選手に対する思いが強い。コロナ禍で大会が中止になっている。選手たちに少しでも「競い合う舞台を用意したい」という気持ちが本当に伝わってくる。主催をしたのはカヌーホームですが、選手や指導者の方々の想いが一つになり「第一回オンラインエルゴ大会」が成功したと思いますね。

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――僕は第一回オンラインエルゴ大会の司会を担当させて頂きました。そこで印象に残ったのは参加する選手の笑顔です。大会に向けて日々苦しい練習に取り組んでいるのにコロナで大会が中止になり、「競う場を欲している」と。カヌーホームの取り組みは選手やチームに「競い合う場所」を提供する素晴らしい取り組みだと思いました。

尾野藤:でも選手は実際辛いんですよ(苦笑)。川や湖の大会と違い風景も変わりませんし、エルゴメーターのパドルをグルグル回すだけ。本来カヌーの楽しさは「水との戯れ」「漕ぐたびに感じる風の匂い」です。それでも楽しめるのは選手一人一人が「勝負する楽しさ」や「自分のやってきたことを披露する」という気持ちを持って大会に挑んでいるからだと思います。

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――僕もエルゴメーターで1000mチャレンジしましたが、メチャクチャ疲れました(苦笑)。ただ回すだけではなく、キチンと両手で均等にパドルを回さなければいけない。
尾野藤:カヌーの動きは非日常の動作です。それまで経験したことのない人だと難しく感じるかもしれないですね。

――両手を必死に回す動作は日常でしたことないので楽しかったです。昔の自動車の手動ウィンドウハンドルを思い出しました。あれを両手でぐるぐる回す感覚です(笑)。
尾野藤:なるほど、人それぞれ似たような感覚があるのかもしれないですね(笑)。

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――そういえばカヌー選手がエルゴメーターで練習している姿をインスタグラムで見る機会が多いです。
 

尾野藤:陸上でカヌーと全く同じ動きができるのがエルゴメーターです。ですから鍛えたい部分に、よりフォーカスできる。自分の漕いでいる強度・速度・ピッチも全て見えます。水上だと風が吹いて速度や出力が変わります。自分の中で出しているつもりでも出ていないことがある。そういった意味で自分の状態を可視化して練習するのにエルゴメーターは向いています。

また初めてカヌーに乗る方にもカヌーの動作を覚えるのに良いんですよ。水上だとカヌーに乗ること自体難しいので。

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――競技用カヌーは幅が約30cm、漕がずに水上でバランスを取るだけで3ヶ月かかる、とカヌー選手に教えて頂きました(苦笑)。ところで今後、コロナが落ち着いたらエルゴ選手権大会は現地開催を予定しているのでしょうか?
尾野藤:その方向で実施したいと考えています。ただアフターコロナになっても、どこか一つの場所に集まるのは難しいとなると「オンライン」という選択肢も残しておこうと思います。

――関東で開催する際に北海道から来るのはなかなか難しい。そこでオンラインで参加する選択もあるとエルゴ選手権大会への参加者が増える可能性もありますよね。
尾野藤:予選をオンラインで行い、上位の記録を出した人を「招待選手」としてイベント会場に来ていただくとか。未来を見据えイベントとして「エルゴ選手権大会」をより成熟させたものにしていきたいですね。
<おわり>

<インフォメーション>
2022年3月5日に第2回オンラインエルゴ選手権大会が開催されます。招待選手として中学からエルゴメーターを使用したトレーニングをし、パリオリンピックに向け練習に励む松代龍治選手が出場。詳細に関してはカヌーホームWebサイトをご覧ください

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尾野藤直樹/オノトウ ナオキ 愛知県出身
一般社団法人カヌーホーム 代表理事
日本オリンピック委員会 専任コーチングディレクター
高校でカヌー部に入部して以来、カヌーの魅力にはまり、高校・大学・社会人とカヌー漬けの毎日を送る。大正大学在学時には全日本チャンピオンになり、その後出場した国内のレースでは4年間負けなし。男子カヌースプリント競技の第一人者としてナショナルチームを牽引し、引退後は指導者へ転向。国立スポーツ科学センターでのスタッフ経験をもとに、科学的な知見に基づいた指導を行っている。カヌースプリントジュニアのヘッドコーチを務める傍ら、各地域における派遣指導、ジュニアの指導者育成なども行っている。

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