名将の花道を飾るにふさわしい、復活のV10だった。 1月9日、今季の大学王者を決めるラグビー大学選手権の決勝戦が東京・国立競技場で行なわれた。4年ぶり10度目の優勝を狙う帝京大学(関東対抗戦1位)と、3年ぶり14度目の王者を目指す明治大学…

 名将の花道を飾るにふさわしい、復活のV10だった。

 1月9日、今季の大学王者を決めるラグビー大学選手権の決勝戦が東京・国立競技場で行なわれた。4年ぶり10度目の優勝を狙う帝京大学(関東対抗戦1位)と、3年ぶり14度目の王者を目指す明治大学(関東対抗戦3位)が激突した。

 試合は序盤から「深紅のジャージー」帝京大がスクラムと接点で圧倒。27−14で明治大に勝利し、2017年度以来となる優勝を成し遂げた。帝京大10度目の優勝は、早稲田大の16回、明治大の13回に次ぎ、3大学目のふたケタ優勝回数だ。



決勝戦でトライを決めた2年生のNo.8奥井章仁

「勝っても負けても今日で(26年間務めてきた監督を)終わりにしようと思っていた」

 帝京大を率いる岩出雅之監督は試合後、退任することを発表した。63歳の名将は最後の試合を振り返り、「スコアは大きく開かなかったが、安定したゲーム運びをしてくれた」とフィフティーンを称えた。

 鋭い眼光でスクラムを組み、相手から反則を取るたびに新春の空に雄叫びを轟かせていた帝京大のキャプテンPR(プロップ)細木康太郎(4年)は、優勝を決めた瞬間、嗚咽した。「すごくうれしい。これまで応援やサポートしてくれた人、一緒に戦ってきた部員のみんながいたから、ここまで来られた」。

 この試合、帝京大は「徹底」というテーマを掲げて挑んだ。

 明治大の監督・キャプテンともに潔く「完敗」と認めるほど、すばらしい内容だった帝京大のひとつ目の勝因は、何と言ってもタックルだろう。「春からタフにやった」と監督が言うとおり、あらためて鍛え直してきたことによってV9時代の力強さが蘇った。

 関東対抗戦で全勝優勝を果たし、練習試合ではリーグワン1部チームにも勝利するなど、今季の帝京大は頭ひとつ抜け出していた。しかし、1月2日の大学選手権・準決勝では京都産業大学(関西1位)に大苦戦。残り2分で逆転勝利(37−30)できたものの、その試合が原点を振り返る教訓となった。

【大学生オリンピアンも脱帽】

「自分たちで隙を作ってしまった」(細木主将)と準決勝を反省し、この1週間はしっかりと体を当てる練習を繰り返したという。そして試合前、岩出監督は「ラグビーはコンタクトスポーツ、タックルが尽きる試合をしよう!」と選手たちを鼓舞してピッチに送り出した。

 その成果もあり、帝京大フィフティーンはまさしく「赤い壁」となり、素早く前に出続けた。個々が相手にしっかりと肩を当てて攻撃を止め続け、試合を通して崩された場面はほとんどなかった。また、相手を倒すだけでなく、ラックを乗り越えてHO(フッカー)江良颯(2年)やWTB(ウィング)二村莞司(3年)が相手ボールをジャッカルするなど積極的なタックルが光った。

 象徴的だったのは15−0で迎えた前半ロスタイムのシーンだ。帝京大のタックルの前に明治大が攻め急いでしまい、ロングパスを投げたところをWTB白國亮大(4年)がインターセプト。「長くて速いパスを投げてくることがわかっていた」と相手の判断を読み切ってトライをあげ、前半だけでハットトリックを達成した。

「帝京大のディフェンスのプレッシャーは予想以上に強かった。(攻撃の)オプションがなくなってしまって、少しテンパってしまった。周りが見えていなかったので、いつもと違う選択をしてしまい(インターセプトを)狙われた」

 大学生唯一のオリンピアン(東京五輪7人制ラグビー代表)である明治大WTB石田吉平(3年)は試合を振り返り、肩を落とした。

 帝京大二つ目の勝因は、FWのスクラムだ。特に後半23分、スクラムで明治大に勝った時は、細木主将が両手を挙げてこの試合一番の雄叫びを上げた。「明治大がメンバーを交替して、フレッシュな状態で(最初のヒットで)かなりプレッシャーを受けて少しメンタル的にくらったなと思ったが、後ろの押しをもらいながら押し勝てた。押し込めたことがうれしかった!」。

 6月の練習試合で対戦した時は明治大のスクラムと互角だったが、この決勝戦では帝京大FWが圧倒していた。元ヤマハ発動機(現・静岡ブルーレヴズ)の田村義和氏をコーチとして招聘し、1年かけて8人一体となるスクラムを作り上げたという。

【細木主将は涙を流しながら】

 FW出身の岩出監督は成長したFW陣について「マイボールスクラムが(相手の)ペナルティになるので、本当に計算し尽くせる。安心して見てられた」と胸を張り、細木主将は「スクラムで圧倒できたことは、これからの僕の人生においても、このチームの未来にも大きくつながる」と語った。

 最後3つ目の勝因は、今季のキャプテンに細木が就いたことだろう。岩出監督は「精神的に戦う気持ちの強さ、熱量をみんなに示してくれた」と語るほど、細木に全幅の信頼を寄せている。

 しかし、もともと細木はキャプテンをするようなキャラクターではなかったという。大学3年まで学年リーダーを務めることもなく、母校・桐蔭学園のコーチたちも「驚いた」と話す。

 今季の副キャプテンとなったFL(フランカー)上山黎哉(4年)もしくはCTB(センター)押川敦治(4年)が新キャプテンになると予想されていた。連覇していた時代なら、細木は主将に選ばれなかったかもしれない。だが、岩出監督は「最も勝ちたい気持ちを前面に出している」という理由で細木に託した。

 昨年6月、静岡で行なわれた明治大との練習試合に、岩出監督は部員全員を連れて臨んだ。帝京大4年生の代は入学してから明治大に勝ったことが一度もなかったため(2018年1月の大学選手権・決勝以来)、苦手意識をなくしたかったのだろう。練習試合ながら32−28で接戦に勝利し、細木主将はうれしさのあまり涙を流した。「今季の帝京大は強くなる」と確信したシーンだった。

 悲願だった優勝を成し遂げた細木主将は、涙を流しながらこう語った。

「(インタビューで)自然に涙が出てきた。うれしかったのと、今までのいろんなことを思って涙が出てきた。苦しい時でもスタンドにいる仲間を見て、グラウンドに一緒にいて戦っている(気持ちだった)。仲間の顔を見て、必死に一生懸命、頑張りました!」

 復活Vで締めくくった岩出監督は「監督冥利に尽きる」と語り、「次の監督がしっかりと頑張ってくれる。個人的には一番チーム充実がして、一番いい時に渡せた」と、すでに後任も決めているという。

 決勝戦ではHO江良颯やNo.8(ナンバーエイト)奥井章仁ら2年生が躍動し、昨季高校生だったLO(ロック)本橋拓馬(京都成章)、FL青木恵斗(桐蔭学園)、SH(スクラムハーフ)李錦寿(大阪朝高)といった将来有望な1年生たちも大きな経験を得た。

 彼らが来季、3年生、2年生となって主軸として活躍することは必至だ。春から公式戦無敗で頂点まで駆け上がった「赤き旋風」が、はたして新監督の手腕でどう輝くのか。