コロナ禍においてでも、東京五輪・パラリンピックなどで盛り上がった2021年のスポーツ界。そのなかでも、スポルティーバはさ…
コロナ禍においてでも、東京五輪・パラリンピックなどで盛り上がった2021年のスポーツ界。そのなかでも、スポルティーバはさまざまな記事を掲載。今年、反響の大きかった人気記事を再公開します(2021年5月3日配信)。
※記事は配信日時当時の内容になります。
過去から現在を含めた日本人サッカー選手で、各ポジションでナンバーワンと言える選手は誰なのか。これを同じトップレベルを経験した目線で、元選手に語ってもらう。今回は「司令塔」あるいは「ゲームメーカー」として優れた選手は誰か、ジュビロ磐田や日本代表の司令塔として活躍した名波浩さんに10名の選手をピックアップしてもらった――。
今回の「司令塔ベスト10」は、Jリーグで活躍した選手の中から選ばせてもらった。
自分が考える"司令塔"にはいくつかの定義があるけれど、大前提となるのは、「劇的にゲームの流れを変えられるワンプレーを持っていること」。それがドリブルなのか、スルーパスなのか、セットプレーなのかはともかく、一芸に秀でた選手ということだ。
10位 野沢拓也(元鹿島アントラーズほか)
野沢は華奢に見えて簡単に倒れないから、終盤まで厄介な存在としてずっとピッチに立ち続けられる。そのうえで、小笠原満男や本山雅志といったゲームをコントロールする選手の周りに、まるで"影武者"のようにいて、オイシイところを持っていく。その術をよく理解している選手だった。
だから、野沢はコンスタントにゴールに絡むことができ、得点やアシストが多い。自分が考える司令塔の定義のひとつは「ゴールできること」。だから、"名波浩"はこのグループには入れない(苦笑)。野沢のJリーグ通算70ゴールはスゴい数字だ。
初めに言った「劇的にゲームの流れを変える」という意味でも、やはり点を取れることは重要。このベスト10に名前を挙げる選手は、例外もあるけれど、軒並み多くの点を取っている選手ばかりだ。

名波氏が
「ドリブルの重要性を教えてもらった」という奥大介。photo by Getty Images
9位 奥大介(元ジュビロ磐田ほか)
ジュビロ磐田時代のチームメイトでもある大介は、ドリブルでゲームの流れを変えることができる選手だった。
自分自身、アマチュア時代も含めて、こういうタイプの選手とチームメイトになったことはなく、初めて一緒にプレーしたのが大介。そういう意味では、ドリブルの重要性は大介に教えてもらったようなものだ。
例えば、スピードの変化を意味する"緩急"という表現がある。自分は前後のパスの出し入れで時間を作るけれど、大介はドリブルのストップ、ターンで時間を作ってしまう。そういう選手がひとりいることは、パスサッカーに取って大事なんだと気づかされた。
でも、大介はキャリアを重ねるうちにパスも覚え、繊細なボールも出せるようになったし、FKもバンバン決めるようになった。その成長が通算62ゴールにつながっている。
8位 青山敏弘(サンフレッチェ広島)
ボランチと2列目、ボランチとサイドバック、ボランチとセンターバックが連結するのは当たり前だったけれど、それに加えて、ボランチとセンターフォワード(CF)の間に1本線路を引いたのは、青山。その意味で、ボランチの概念を変えた選手だと思っている。
自分も含め、従来のボランチもCFにパスは出していたが、青山ほどには意識していない。佐藤寿人がサンフレッチェ広島からいなくなっても、そこは変わることがなかった。
青山は時々、ハーフラインくらいからのロングシュートを打つことがあるけれど、おそらくCFをとらえた視野の延長線上にゴールも見えているから。実際、何年か前に超ロングシュートも決めている。
きっとバレーボールのセッターみたいな感覚でピッチ全体が見えていて、「あそこが空いているから、ツーアタックを打とう」という感覚でプレーできるのだと思う。
7位 小野伸二(北海道コンサドーレ札幌)
伸二はJリーグ通算29ゴール(5月2日時点。以下同)しか取っていないけど、その数だけでは"小野伸二"は語れない。伸二の存在を消しにくるディフェンス陣を脇役にしてしまい、自分のパスやボールコントロールで自分自身を彩り、さらにそれをまた違う色にしてしまうような演出ができる。
どう言葉で表現したらいいのかわからないけれど、お客さんだけでなく、味方のベンチとか、相手のベンチとか、ピッチ外で試合を見ている人が考えつかないプレーで度胆を抜くというか、サッカーIQがずば抜けて高く、今まで日本にいなかったタイプの司令塔だ。
たぶん本人に聞けば、「僕なんて(プレーする時は)何も考えてないですよ」って言うと思うけれど、実はちゃんと計算していて、"何も考えていないように思わせる"緻密さがある。だから、あれだけファンタジーあふれるプレーを連続してできるんだと思う。
6位 土居聖真(鹿島アントラーズ)
まずは、単純に彼のプレースタイルが好き。仕掛ける意識があって、ドリブルの姿勢がいい。だから、周りの選手を使う時でも、自分自身も、パスの受け手も、ノッキングしない。そういう形を意識しているんだと思う。
それに、小笠原やレオ・シルバ、あるいは遠藤康とか、自分がコンビネーションを組む選手の特徴を把握している。この選手はここにパスが出てくるだろうとか、この選手はここに走ってくれるだろうとか、そういう"無意識のなかの意識"が、頭の中に強くあるんだろう。
そしてもうひとつ、自分が考える司令塔の定義があって、それは「ゴールへの道筋を描くのが早く、そのルートの数が多いこと」。土居にはこれが当てはまる。彼がいなかったら、鹿島は点が取れなかった試合がたくさんあったはず。まだ28歳でJリーグ通算44ゴールだから、最終的に60ゴールは必ずいくだろう。

名波氏にとって
「憧れの存在」という澤登正朗(中央)。photo by (C)Shinichi Yamada/AFLO SPORT
5位 澤登正朗(元清水エスパルス)
自分にとって、憧れの存在。左右のCKを左右別々の足で蹴り分ける選手なんて初めて見たから。
自分が小学生だった頃、大榎克己さんのことがサッカー誌で「スケールの大きなMF」と紹介されているのを読んで、当時は「どういう意味だ?」って思っていたけれど、ノボリさんを見て、その意味が理解できた。左右両足の技術の高さやスルーパスだけでなく、サイドチェンジとか、ミドルシュートとか、ダイナミックなプレーを躊躇なくやれる選手が「スケールが大きい選手」なんだな、と。
だから自分も中学時代、ノボリさんのプレーを見て、サイドチェンジを練習するようになった。ノボリさんがボールを蹴る時のフォームも好きだった。
あとはFK。止まっているボールを蹴る技術も高かった。Jリーグ通算85ゴールは本当にスゴい。
4位 中村憲剛(元川崎フロンターレ)
憲剛のスゴいところは、何と言っても空間認知だ。鄭大世とか、ジュニーニョとか、速いFWにグラウンダーのパスを出してきたから、そういうことが得意に思われがちだけれど、浮き玉のラストパスがうまい。伸二同様、ボールをフワッと落とす技術は抜群だ。歴代日本人選手でもトップクラスだと思う。
あとはサイドチェンジ。風間八宏監督の時のショートパス主体の川崎フロンターレで、ボールの距離を変えるのはだいたい憲剛だったから。憲剛に1試合70回以上ボールを触られたら、どんどん局面を変えられてしまうから、川崎に勝つには、とにかく憲剛へのパスを寸断するしかなかった。
それに、憲剛はパスを出したあとも足を止めずに動いているから、点も取れる。嗅覚というより、ゴールへの執着心を併せ持った司令塔だった。あまりPKを蹴っていないのにJリーグ通算74ゴールが、それを表している。
3位 中村俊輔(横浜FC)
一般的に司令塔と言うと、攻守両面でゲームを司るような選手がイメージされるかもしれないけれど、俊輔は言わば"攻撃的司令塔"。ゲームを作ることよりも、ゴールを演出することへの意識がかなり強い。攻撃偏重かもしれないけれど、そのプレーの質が高すぎるから、やはりトップ3に名を連ねる。
止まっているボールのキックは言うまでもなく、インフロントキックのミドルパスも本当に質が高い。でも、それ以上に彼の技術がずば抜けていると思うのは、インサイドキックだ。俊輔が19歳で初めて日本代表で一緒になったときから、「こいつ、オレよりうまいな」って感じていた。
サッカーは常にトレンドが移り変わっていくし、試合中の局面もどんどん変わっていくけれど、そのなかでも見ている人が「やっぱり、中村俊輔はこうじゃなきゃ!」って思ってくれるプレーをこれからも見せてほしい。
2位 家長昭博(川崎フロンターレ)
大宮アルディージャ時代からそうだったけれど、味方がボールを奪ったあとのファーストプレーでは、だいたい家長にボールが入る。なぜなら、ボールロストしないからだ。常に(相手から)逃げることができるエリアにボールを置いておく技術がすばらしい。彼自身、そういう役割を感じながらプレーできているんだと思う。
右サイドでコンビを組む選手、今だったら山根視来だけど、そういう選手のよさを自分で解釈しているから、特長を邪魔せずにスペースを使わせてあげられる。だから、お互いにアクションが速くなり、ボールロストの可能性も低くなる。
それに家長は、実は意外とスピードもある。相手選手はそれを警戒し、はがされそうだと思うと一瞬距離を開けてしまう。そのスキにボールを持ち直して、クロスとか、シュートとか、決定的な仕事ができる。彼の才能を考えれば、遅咲きだったかもしれないけれど、まだまだステップアップしている感はある。

名波氏が日頃から
「日本で一番うまい」と言っている遠藤保仁。photo by AFLO
1位 遠藤保仁(ジュビロ磐田)
自分は常々「ヤットが日本で一番うまい」って言っているんだから、当然の結果だ。
PKも蹴っているとはいえ、Jリーグ通算103ゴール。ポジションがボランチに下がってからもコンスタントに得点に絡み続け、1シーズンに8~10点くらいは取っているのだからスゴいことだ。西野朗さんがガンバ大阪の監督だった時代も、負けている時にはヤットを一列上げたりして、まさにゲームの勝敗を決める立場にいた。
ヤットのスゴいところは、考えるスピードが人より速いこと。例えば、縦パスを出せないと思ったら、普通は一旦横パスで逃げたりするけど、ヤットの場合はここがダメでも、次を刺す。ファーストチョイスだけでなく、セカンドチョイスも、もしかしたらサードチョイスも前(方向のパス)だと思う。
あとは、ボールの出し入れのタイミングが抜群にうまい。それによって自分が考える時間を作ったり、味方が動く時間を作ったり。これこそ、まさに司令塔の技だと思う。
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最後に、次点として加えておきたいのは、二川孝広(FCティアモ枚方)、小笠原満男(元鹿島アントラーズほか)、柴崎岳(レガネス)。
また別枠にはなるが、現代風司令塔として、FW的な動きをしながら落ちてきてゲームを作れる江坂任(柏レイソル)。そして、ボールが集まるエリアでプレーするという意味で、坂元達裕(セレッソ大阪)の名前も挙げておきたい。