ヤクルトとオリックスの日本シリーズがついに開幕する。オリックスの絶対的エースである山本由伸に対し、強打のヤクルト打線が…
ヤクルトとオリックスの日本シリーズがついに開幕する。オリックスの絶対的エースである山本由伸に対し、強打のヤクルト打線がどう挑むのか──まずはそんな構図が浮かび上がる。そしてもうひとつ注目したいのが、その山本と投げ合う投手は誰なのかということだ。
今回の日本シリーズは予告先発がないため、試合当日まで誰が投げるかわからない。とはいえ、信頼できる投手のフル回転が予想される短期決戦において、エースに第1戦を託すのはもっとも理にかなった策であるのは間違いない。
自ずと第1戦は"エース対決"となり、山本とのマッチアップの最有力候補として名が挙がるのが、2年目の奥川恭伸である。

高卒2年目ながら今シーズン9勝をマークしたヤクルト奥川恭伸
今シーズンの奥川は、18試合に登板して9勝4敗、防御率3.26の成績を残しているが、強烈なインパクトを与えたのは、巨人とのクライマックス・シリーズ(CS)ファイナルだった。
日本シリーズをかけた大一番の初戦を任された奥川は、巨人打線を6安打に抑え、無四球完封勝利。しかもこの日投じた球数はわずか98球と、文句のつけようのない完璧なピッチングを披露した。
奥川のピッチングについて、解説者の吉見一起氏は次のように語る。
「突っ張って投げるタイプですが、地面の力をうまく利用して投げていますし、しっかり上から腕が振れるのでボールに角度がある。フォークの落ちもすばらしく、打者にしてみれば高低の見極めはすごく難しいと思います。さらにスライダーの曲がりもいいので高低だけなく左右でも揺さぶってくる。そこに緩急も入れてくるのでピッチングが立体的ですよね。打者は慣れるまでに相当時間がかかると思います」
同じく解説者で、侍ジャパンの投手コーチとしても東京五輪金メダル獲得に貢献した建山義紀氏は、奥川の投球術に舌を巻く。
「フォークの精度が高く、打者としては追い込まれるまでに勝負したいと思うのですが、ボールのキレはもちろん、コントロールがすばらしいから容易にとらえることができません。とにかく打者に的を絞らせない。これが20歳のピッチングか......という感じです。すでに打者を打ち取る術を知っていますね。首脳陣としては安心してマウンドに送り出せる投手です」
投球術のうまさについて、解説者の秦真司氏は往年の名投手を引き合いに出す。
「一つひとつのボールにしっかりとした意図があって、逆算してバッターを仕留めているイメージがあります。ただ投げるのではなく、しっかりピッチングしていますし、マウンドでの立ち居振る舞いも高卒2年目の投手には見えない。ストレートの伸びや変化球のキレ、制球力の高さは全盛期の桑田真澄を彷彿とさせます」
驚異的な成長を続けている奥川だが、これから取り組むべき課題はなんなのだろうか。前出の建山氏が言う。
「あえて今の奥川に足りない部分があるとすれば"経験"だと思います。ただこれも今のピッチングを続けていけば自ずと経験は積めますし、実際、この前のCSファイナルで投げ、今回の日本シリーズもマウンドに上がるわけですから、まったく心配していません。おそらく来年はエースとしての働きが求められます。相手エースとの投げ合いも多くなるでしょうし、中6日のローテーションで投げなければいけなくなる。そうなった時にどんなピッチングができるかでしょうね」
プロ野球選手にとって最高の舞台である日本シリーズ。そこで20歳の奥川はどんなピッチングを見せてくれるのだろうか。一挙手一投足から目が離せない。