今夏の東京2020オリンピックで、女子アメリカ代表をヘッドコーチとして7大会連続の金メダルに導いたドーン・ステイリーが、所属のサウスカロライナ大学女子バスケットボールチームのヘッドコーチとして、2027-28シーズンまでの7年間におよぶ2…

 今夏の東京2020オリンピックで、女子アメリカ代表をヘッドコーチとして7大会連続の金メダルに導いたドーン・ステイリーが、所属のサウスカロライナ大学女子バスケットボールチームのヘッドコーチとして、2027-28シーズンまでの7年間におよぶ25.5億円越え(US1ドル114円換算)という巨額契約更改を行った。同大学評議委員会が10月15日付で承認したことを、女子バスケットボールチーム公式サイトが報じている。

 

東京2020オリンピック期間中のズーム会見に応じた際のステイリーHC


 今回の契約は、アメリカの大学女子バスケットボール界におけるアフリカ系アメリカ人ヘッドコーチとして最高額とされるだけではなく、プロも含めた女子バスケットボール界全体のコーチとしても最高レベルの高額契約だという。


 アメリカの大学バスケットボールは、女子も男子も日本とは異なる土台の上に成り立っており、ヘッドコーチの去就が事業としてのバスケットボールチーム運営、ひいては大学全体の価値に大きく影響する。大学側とすればプレーヤーの勧誘、テレビ放映契約の取得や各種媒体での露出度の拡大などの核にもなる人事であり、今回の契約更改は、ステイリーHC個人に対する非常に高い評価や期待感とともに、女子バスケットボールというスポーツのアメリカ社会における存在感を強く印象付ける一報だと言える。同大のレイ・タナー体育局長は契約更改発表会見で、「ステイリーHCをサウスカロライナ大学にとどめることができたのは、我々にとって非常に素晴らしいニュースです。ファンの皆さん同様、彼女の下で我々のプログラムがこれからも偉業を達成し続けていく様子を楽しみにしております」と力強く語った。


 一方のステイリーHCは、「サウスカロライナ大学の名を背負うことを、常に誇らしく思ってきました。今回の契約更改は、大学が私と私たちの女子バスケットボールチームの活動に対し、全面的な支援を約束してくれたことを意味しています」と話した。「契約更改の交渉は難しいものでしたが、今後ほかの大学が女子バスケットボールにどのように投資していくべきかの指標にもなる、特別に重要な過程だと認識していました。我々のスポーツは成長しており、さらなる飛躍に向け機が熟していますが、それには男子の活動と同じだけの資源・資金投下によりその成長を助けていく必要があります」とのコメントには、今後の女子バスケットボール界全体の環境改善を視野に入れた、深みのある将来展望が感じられた。


 ステイリーHCは冒頭で触れたとおり、今夏のアメリカ代表をオリンピック金メダル獲得に導いたことが記憶に新しい。しかしバスケットボールキャリアにおけるプレーヤーとして、またコーチとしての実績は、優秀という言葉では表しきれないほど輝かしいものだ。


 ゲームクックス(Gamecocks=闘鶏)というニックネームで親しまれているサウスカロライナ大学女子バスケットボールチームは、ステイリーHCが率いた13年間に、低迷期を抜け出して全米屈指の強豪へと躍進を遂げた。2010-11シーズン以降、パンデミックでシーズンが半ばでキャンセルとなった2019-20シーズンを除くすべてでポストシーズンのビッグトーナメントに出場を果たし、チーム初となる全米チャンピオンを2016-17シーズンに勝ち取った。ファイナルフォーも同シーズンを含め3回(2014-15、16-17、20-21)ある。


 プレーヤーとしてオリンピックで3度金メダルを獲得し、WNBAではオールスター選出5度という栄光のキャリアを築いたステイリーは、ジェームス・ネイスミス記念バスケットボール殿堂入りも果たしている。その経験を十分に活かし、勝てるだけではなくプレーヤーの意欲を引き出し育てる能力も高いことは、これまでに8人の教え子がWNBAドラフトで指名を受けている事実からも感じられる。今夏のアメリカ代表に名を連ねたエイジャ・ウィルソン(ラスベガス・エイセズ)もその一人だ。

 

東京2020オリンピック準決勝、対セルビア戦でタイムアウト中に指示を出すステイリーHC(写真/©fiba.basketball)


 NCAAでは、特に社会的不正が大きな問題となった昨年以降、女子バスケットボールと男子バスケットボールの環境に生じている格差をなくしていく方向性の議論が盛んにおこなわれている。ステイリーHCの実績と手腕、そして今回の巨額契約更改は、その動きを加速するきっかけになりそうだ。


文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)