福田正博 フットボール原論■欧州サッカーの新シーズンに臨む日本選手たち。新たにヨーロッパへ渡った選手たちも含め、顔ぶれが変わった。シビアな戦いが行なわれる各リーグで、各選手の活躍が望まれるが、そのなかでも福田正博氏が期待を寄せる選手たちを挙…

福田正博 フットボール原論

■欧州サッカーの新シーズンに臨む日本選手たち。新たにヨーロッパへ渡った選手たちも含め、顔ぶれが変わった。シビアな戦いが行なわれる各リーグで、各選手の活躍が望まれるが、そのなかでも福田正博氏が期待を寄せる選手たちを挙げてもらった。



レンタル移籍3季目となる久保。結果を出したいシーズンだ

 冨安健洋が8月31日の移籍市場最終日にセリエAのボローニャから、イングランドのアーセナルへ移籍して、9月11日にプレミアリーグデビュー。冨安の今後のキャリアを考えれば、この移籍はさらに高みを目指すためのいいステップアップになるのではないかと期待している。

 この冨安を含め、2021-2022シーズンも多くの日本選手が欧州クラブでのプレーをスタートさせた。新たに海外移籍をした選手、ヨーロッパの中でリーグやクラブを変えた選手がいる。

 残念ながら日本代表のW杯アジア最終予選の中国戦でケガをしてしまったが、新シーズンのスタートがもっともいい形だったのは、ヴィッセル神戸からスコットランドのセルティックに移籍した古橋亨梧だ。デビューからゴールを重ねて公式戦8試合6ゴール。瞬く間にチームの中心的な存在となった。

 古橋にとって大きかったのは、セルティックを率いるアンジェ・ポステコグルー監督の存在だ。6月まで横浜F・マリノスを率い、対戦していた古橋をよく知り、セルティックに引き入れた存在。それだけに、古橋はスタートから自分の特長を存分に発揮するプレーができたのではないかと思う。

 また、そうした活躍もあって、W杯アジア最終予選を戦う日本代表にも選出された。森保一監督は、新たに海外移籍をした選手は日本代表に招集しないケースが少なくない。それは招集した選手が、日本までの往復の長距離移動によって調子を崩したり、所属クラブで居場所を失ってコンスタントに試合に出られなくなるような点に配慮しているからだ。

 それでも古橋が日本代表に名を連ねることができたのは、彼に揺るぎない信頼を持っているポステコグルー監督が大きく影響していたのではないか。

 復帰後の古橋がセルティックでコンスタントに結果を残せるかは、やはり代表活動による負荷を乗り越えられるかが大きなポイントになるだろう。リーグ戦やヨーロッパリーグなどを戦いながら、来年3月までW杯アジア最終予選は続いていく。

 試合数の多さと長距離移動によって疲労が溜まっていくなかでも、開幕時のような強いインパクトを残していけるのか。それができれば来季のステップアップにつながるだろうし、カタールW杯本大会の日本代表にも近づくのではないか。

 古橋とともに6月までJリーグで得点王争いを繰り広げたオナイウ阿道も、今夏に横浜FMからフランス2部のトゥールーズへ移籍した。移籍後4試合はゴールが遠かったが、その後は2試合連続ゴール。初ゴールはワントラップから右足で決め、2得点目はヘディングでゴールネットを揺らした。

 その後、試合出場はなかったが、W杯アジア最終予選の中国戦を戦う日本代表へ追加招集された。そして、チームに戻ると次の試合でまたゴールを決めた。3試合連続得点だ。

 Jリーグではフィジカル面の優位さで得点力を高めたオナイウが、自身よりもフィジカル面で上回る海外リーグのDFに揉まれながら飛躍を遂げていくのを楽しみにしている。

 東京五輪組ではオーバーエイジを除くと、冨安、板倉滉(今季からシャルケ/ブンデス2部)、中山雄太(ズウォレ/オランダ)、橋岡大樹(シント=トロイデン/ベルギー)、堂安律(レンタル先から復帰してPSV/オランダ)、三好康児(アントワープ/オランダ)、久保建英(今季からマジョルカ/スペイン)が海外組だったところに、五輪後に新たに3選手が海外クラブ所属となった。

 三笘薫は川崎フロンターレからベルギーのサン=ジロワーズへ、田中碧が川崎からブンデスリーガ2部のデュッセルドルフへ、林大地がサガン鳥栖からベルギーのシント=トロイデンへと移籍した。どの選手にも新天地で結果を残しながら成長してもらいたいと思う。

 以前に比べて海外移籍へのハードルが低くなり、「成功したい」という野心を持って海を渡る若い選手が増えた。彼らには眼前のチャンスには貪欲になって、そのチャンスを何としてモノにしようとする気概を見せてもらいたい。

 その点で久保建英の今シーズンには大きく期待をしている。その理由は、東京五輪の3位決定戦でメキシコに敗れてメダルを逃して発した「次のチャンスが自分にあれば、チーム(日本代表)の勝利に貢献したい」とのコメントに彼の覚悟を感じたからだ。

 普通に考えれば、久保のような抜きん出た才能を持った選手には今後もチャンスは何度も与えられるだろうし、本人だって「次もまたチャンスが来る」と思っても不思議ではない。そうしたメンタリティーにある場合、おそらくは「次のチャンスには~」という言葉が自然と出てくるのではないかと思う。

 しかし、久保は「チャンスがあれば」と発信した。これは久保自身が、期待されてチャンスを与えられているうちに結果を残せなければ、次の機会はめぐってこないと理解しているからだろう。

 若さの特権は多くの時間を有していることだ。それもあって選手の多くは、「この経験を次に生かせるように」とコメントする。だが、実はこの言葉には決定的に欠けている意識がある。深く考えて発していない可能性はあるものの、「次のチャンスがあるとは限らない」のだ。

 プロの世界で生き残っていくためには、起用されるチャンスが訪れたら結果を残さなければいけない。結果が出せないのであれば期待値は下がり、チャンスは下の世代へまわっていき、やがては淘汰されてしまう。

 久保は子どもの頃に日本を飛び出して、世界中の天才少年が集まるバルセロナの育成組織で力をつけてきた。そこは子どもであっても目の前にあるチャンスで結果を出さなければ、次のチャンスはめぐってこないような厳しい生存競争のある世界。プロの世界を生き抜く厳しさを子どもの頃から知っているからこそ、期待されているうちに結果を残さなければいけないことを理解しているのだろう。

 レアル・マドリードに加入して3シーズン目の今季は、マジョルカにレンタル移籍した。来季こそレアル・マドリードの一員としてシーズンを戦うためには、今シーズンが勝負だと久保自身が一番よくわかっていると思う。

 東京五輪が終わってからマジョルカに合流し、時間のあまりないなかで開幕を迎えたが、ピッチでの久保のプレーからは「期待されている今年こそ結果を残す」という気迫が伝わってくる。それだけに今シーズンの久保からは目が離せない。

 そして、この久保のような覚悟を持って、すべての日本選手たちにはシーズンに臨んでもらいたいと思う。世界中からサッカーで一旗揚げようとする選手たちが集まるヨーロッパで、チームの信頼を勝ち取るのは容易くはない。

 それだけに、まずは目の前にあるチャンスで結果を出すことに、とことんこだわってほしい。それができる選手が、今シーズンを通じてひとりでも多く現れることを願っている。