プロダーツプレーヤーの岩田夏海趣味や娯楽として気軽に楽しむことができるダーツ。一方、スポーツ競技として世界的に普及してき…

プロダーツプレーヤーの岩田夏海
趣味や娯楽として気軽に楽しむことができるダーツ。一方、スポーツ競技として世界的に普及してきており、プロとして活躍する選手が日本にも数多くいる。その中で近年、人気・実力ともに大きく飛躍を遂げているのが、プロダーツプレーヤーの岩田夏海だ。
2018年に開催された、女子プロ選手が参加する年間を通じたダーツトーナメント『JAPAN LADIES』の広島大会で初優勝を遂げると、翌19年には国内年間ランキング2位と躍進。軸のブレないフォームと強気なスタイルで、一気に実力派プレーヤーへと上り詰めた。"おなつ"の愛称で親しまれ、試合以外でもファンや愛好家との交流を図り、各地でダーツの魅力を伝えている
今回、そんな岩田にインタビュー。ダーツとの出会いやプロの道へ進んだきっかけ、あまり知られていないダーツのプロの世界について語ってもらった。
ーーダーツを始めたきっかけを教えてください。
岩田夏海(以下、岩田) 20歳の時に地元の千葉県内にある小さなバーで働いていて、そこにダーツマシンが置いてありました。お客さんと一緒に投げて遊んでいるうちに楽しくてのめり込んでいき、一気にハマって、すぐに「マイダーツ」も買いました。

岩田は
「ダーツの楽しさを知ってもらいたい」と語る
ーープロを目指そうと思ったのはなぜでしょう?
岩田 もともとダーツにプロがあることを知らなかったのですが、22歳の時、知り合いから「うまくなってきたし、プロ試験を受けてみなよ」と言ってもらって、初めてプロの存在を知りました。正直、自分がダーツだけで食べていけるほど実力があるとは思っていませんでしたが、一度挑戦してみようと決めて、受験料1万円(当時の金額)を握りしめながら会場に向かいました。
すると、自分でも信じられませんでしたが、実技試験をほぼストレートでクリアできて。翌週には筆記試験が残っているのに、うれしさが爆発して、バーのお客さんたちとフライングしてお店で乾杯しちゃいましたね(笑)。筆記にも受かり、晴れて「プロ」になれたのでホッとしながらも、どこかまだ実感が湧いていない感じでしたね。
ちなみに日本には『JAPAN(女子のみは『JAPAN LADIES』)』と『PERFECT』という2つのプロ団体がありまして、私の所属は前者になります。どちらも実技と筆記試験に通ることが合格条件となりますが、18歳以上(高校生を除く)なら誰でも受験できるので、年齢や性別関係なく挑戦できますよ。
ーー実力は必要ながらも、比較的プロにチャレンジしやすい競技なのですね。試験合格後、プロ一本で活動しているのですか?
岩田 いえ、プロの活動どころか、最初はダーツすらほとんどできませんでした。というのも当時、保険の営業の仕事をしていて。大会がある土日は休みではなく、働く時間も不定期。加えて私にはすでに2人の子どもがいたので、家事や育児も忙しく、ダーツに当てる時間がなかったんです。
ーー仕事や家庭とプロ活動を並立するのは難しそうですね。
岩田 本当に大変でした。12年の年末にプロ資格を取得してから、年間18戦あるツアーのうち13年は2回のみの出場、14年は一回も出られませんでした。せっかくプロになったのに、毎年かかる更新費(3万円)を支払うだけ。それって、もったいないじゃないですか。だから保険の営業は辞め、プロ活動に影響が少ない仕事を探そうと考えました。そして見つけたのが、ダーツバーのお仕事。働きながら練習もできたので、私にとってうってつけの環境でしたね。
それからはツアーを回れるようになり、15年から3年間の活動の中で、ありがたいことに多くのスポンサーさんが支援してくださるようになりました。おかげさまで18年からバイトを辞め、ダーツに専念できるように。ファンの方々にも応援していただき、翌19年には年間ランキング2位まで上がれました。
ーー大会の賞金は大きな収入源だと思います。優勝するとどれくらいもらえるのですか?
岩田 『JAPAN LADIES』は各大会それぞれ50万円、男子もいる『JAPAN』は選手のエントリー数がかなり多いので、120万円と倍以上。ダーツプロは大勢いますが、大会に精力的に参加している人数は女子で150人、男子は450人くらいだと思います。後者の大会はおのずと金額も高く設定されているんです。さらに、年間ランキング上位者にも賞金があって、19年度に2位だった私は75万円(1位は100万円)いただきました。
ーーそれでも各大会で常に優勝争いをしていないと、獲得賞金だけで生活するのは大変ですよね?
岩田 そうなんです。なので、安定した収入を得るためには、試合以外の活動も欠かせません。中心になっているのは、全国の各店舗に出張してレッスンを行なうダーツのインストラクターの仕事です。でも私にとっては、お金を稼ぐためだけじゃなく、やりたいからやっていることでもあるんですよ。
というのも、ダーツはプロとアマチュアとの距離が近いのが特徴で、仲が深まりやすく、親身になって応援してくれる方が多いんですね。私としては支えてもらうばかりではなく、皆さんに少しずつでも恩返しがしたい。そういう気持ちが強いんです。だからファンとの交流ができるインストラクターの仕事は大切にしています。
ーーただ、レッスンや大会出場が主な活動となると、コロナ禍の影響は大きかったのではありませんか?
岩田 もう大打撃でした。昨年の大会は全て中止になってしまいましたし、営業できない店舗も多くて......。年間通じて活動できていた時と比べ、私の収入としては3分の1以下にまで減ってしまいました。「どうしよう」「今後どうなっていくのかな」という感じで、お先真っ暗みたいな気持ちでしたよ。
ーーその中で「おうち時間」はどのように過ごされていたのでしょう? やはり練習でしょうか?
岩田 いえ、自粛期間中はずっとテレビを見ていました。昔のドラマを見あさってましたね(笑)。そもそも私、コロナ禍でなくても家ではまったくダーツをやらないんですよ。
ーーまったくですか? 意外です。
岩田 はい、休む時は休むと決めているので。なぜならダーツは"体(フォーム)を固めるスポーツ"だと思っていて、やりすぎると肘や肩、腰などをすぐに痛めちゃうんですよ。もし家にダーツ台を置いたら、延々とやってしまいそうです(笑)。
投げる時は片腕しか挙げないから疲れて肩が凝ったり、ずっと立ちっぱなしだから脚が張ったり、真横に構えて真正面に投げるので体が歪んで腰痛を引き起こしたり。さまざまな症状が出てくるので、体のメンテナンスが必須なんです。
ーートレーニングはしていますか?
岩田 体を鍛えるための筋トレは、いっさいやりません。筋肉痛で体が動かなくなるのは嫌ですし、そもそもダーツに筋肉は必要ないと考えているので。力を入れるより、余分な力を抜くほうが重要ですからね。もちろん人によって感覚はそれぞれですが、筋力アップより、いつでも普段どおりのパフォーマンスを出せるよう体をケアしていくのが、私は大事だと感じています。自宅であればストレッチをしたり、できるだけ湯船に浸かったり、体の疲れを取るのに時間を費やしています。
ーーダーツは技術や精神面が重要なのですね。
岩田 ダーツは心理的要素が結果を左右する「メンタルスポーツ」。体のコンディション維持は精神の安定にもつながり、本来の自分の技術力を発揮しやすくなります。
ーー心のコントロールが、手先の繊細なコントロールを引き出す、と。
岩田 そうですね。そのために選手によってさまざまなルーティンがあります。例えば、大会当日でいうと、試合の何時間前にどんな食事して、どんな栄養素を摂取するのか。飲み物であれば、なるべくカフェインを摂らないよう心掛ける人もいるし、その逆もしかり。一番自分の実力を発揮できる精神状態にもっていくために、決まった行動をとる選手が多いんです。といいつつ、私はそういったこだわりは全然ないんですけどね(笑)。
ーーご自身が考えるダーツの魅力とは?
岩田 やはり、老若男女、運動の得意不得意に関わらず楽しむことができるのが、ダーツの最大の魅力。誰でもできるのでダーツを通して、仲間の輪がどんどん広がっていきます。スポーツ競技としてはもちろん、コミュニケーションツールとしても大きな可能性を秘めているんです。
ーー最後に今後の目標をお願いします。
岩田 今年、大会が開かれるのであれば全力で期待に応えたいですし、仮にまた全試合中止になってしまったとしても、感謝の気持ちを忘れずにファンの方々に恩返しをしていきたいですね。もう、ファンありきの岩田夏海ですから。みなさんに「ダーツが楽しい」と思ってもらえる環境とベースづくりを継続していけたらなと思っています。
【Profile】
岩田夏海 いわた・なつみ
1990年、千葉県生まれ。「JAPAN LADIES」所属。2012年にダーツプロの資格を取得。2018年、「JAPAN LADIES 2018 STAGE 8 広島」で初優勝を挙げ、19年には国内年間ランキング2位へと躍進。"おなつ"の愛称でファンに親しまれている。
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撮影協力●ビリヤード&ダーツ バグース錦糸町店