とりわけ熱狂的なファンを持つ阪神タイガースだからこそ、「ファンのために、地域のために」という思いがある。そんな背景から、社会貢献を通じてファンとの絆を深めるDream Linkプロジェクトが発足。今回は同プロジェクトに関わる事業本部振興部・部長の畑野幸博さんにお話をお聞きした。

――2010年、球団創立75周年を機にDream Linkプロジェクトが誕生しました。まずは、社会貢献活動をプロジェクト化した経緯を教えてください。

畑野 ご存知の通り、タイガースは昔から非常に熱量の高いファンの皆様に支えられてきました。しかしながら、球団のほうからファンの皆様に対して積極的な発信をする機会は少なかった。そんな中で、球団のブランド価値をさらに高め、ファンの方々にも「もっと応援したい」と思っていただけるように、ファンサービスはもちろん、社会貢献や野球振興も含めて一丸となって取り組んでいこうということでDream Linkが発足しました。その名の通り、夢を通じてファンとの絆(Link)を構築するという思いが込められています。

――このプロジェクトは、どのような部署が業務を行っているのでしょうか。

畑野 立ち上げた当初はファンコミュニケーション部で推進し、兼務で5~6名のスタッフが関わっていましたが、今ではDream Linkというのは業務というより球団の理念みたいなものになっているので、特定の部署ではなく、各部署のスタッフが思いを共有してこのプロジェクトに携わっています。だからこそ、Dream Linkを通じて球団に一体感が生まれているという要素はありますね。

――Dream Linkでは具体的にどんな活動をされているのか教えていただけますか。

畑野 選手個々の社会貢献活動が大きな柱の一つです。Dream Link自体、「社会に何か還元したい」という選手の思いが基盤にあって成り立っています。我々はそういった選手の思いをサポートする役割ですね。これまでチーム内で社会貢献の機運を高めるような働きかけも球団として行ってきましたが、最近は我々がそういった工夫をしなくても選手自身が起点となって動き出すことが多いです。

――それは、選手たちの意識が変化しているということでしょうか。

畑野 はい。Dream Link立ち上げ当初は「こういうプロジェクトをやるから、こんなことをやってみよう」とこちらから呼びかけることもあって、もしかしたら距離感を覚えたり、自分事と思えなかったりする選手もいたかもしれません。でも近年は、「選手はもっと社会的なアクションを起こすべきではないか」というムードが選手の中で普通になってきているように感じます。むしろ、Dream Linkというプロジェクトがあるからやるのではなく、野球人として行動を起こすことが大事なのだという考えが選手たちに浸透してきています。

梅野隆太郎選手、大山悠輔選手による学校訪問の様子。ユニフォーム姿で、子供たちに野球の面白さを伝える。©HANSHIN TIGERS

――タイガースには「若林忠志賞」という、社会貢献に尽力した所属選手が表彰される制度があります。これについて詳しく教えてください。

畑野 この表彰はDream Link発足翌年の2011年から行っています。当初は「Dream Link賞」という名称がいいのではという意見もあったのですが、若林忠志さん(1940年代に前身の大阪タイガースに所属。「タイガース子供の会」を立ち上げ、施設を慰問するなど慈善活動に努めた選手だった)の功績を称えるべくこの名称になりました。この表彰があることで選手たちが社会貢献について考えるきっかけもできますし、一社会人として評価されることによって意識に変化が生まれることもあると思います。

――その他には、Dream Linkでどのような活動をされていますか。

畑野 もう一つの柱として「野球振興」があります。私が担当している女子野球のクラブチーム「阪神タイガースWoman」の運営もその活動の一つです。女性に“観戦”を通じて野球を好きになっていただくことについては、これまでも「カープ女子」や我々だと「TORACO」など、プロ野球全体で様々な仕掛けがあり、ある程度浸透してきたかなと感じています。一方、“プレー”することからの野球振興は、女性においてはなかなかできていません。今回はタイガースとしてそこに挑戦しようということで、埼玉西武ライオンズさんに続きNPBでは2球団目としてアクションを起こしました。

2021年1月に創設された女子硬式野球クラブチーム「阪神タイガースWoman」の選手たち。それぞれ仕事や学業の傍ら日々練習に励んでいる。©HANSHIN TIGERS

――新たにチームを保有するというのは大きな挑戦ですね。

畑野 関西エリアでいうと、高校の女子硬式野球部は少しずつ増えてきていますが、大学やクラブチームはまだまだです。その状況を受けて、高校まで野球を頑張ってきた女子選手たちの受け皿になれないかという思いがありました。タイガースでは子供向けの野球アカデミーも運営していますが、そこにいる女の子たちから「タイガースWomanに入りたい」という子が出てくればいいな、と。そんな流れをこれから5年、10年で作りたいです。その間に、ほかのプロ野球球団でも女子チームを保有する動きがどんどん出てきたら面白いですね。

―――女子野球への進出は、ジェンダー平等が叫ばれる時代の中で、「社会における野球の在り方」を意識した結果でしょうか。

畑野 今回の女子野球の取り組みが世の中の動きと重なったのはたまたまではありますが、実際には我々も潜在的にどこか意識していたのかもしれないですね。球団職員としても、社会に対してどうあるべきかには目を向けていかなくてはという思いはあります。

――実際に女子野球に関わってみて、可能性や将来性を感じますか。

畑野 女子野球の選手たちは、想像していたよりもずっとカッコいいんですよ。野球にひたむきに取り組む姿もさることながら、実際に試合を観てみると、技術のレベルが非常に高いことがわかります。たしかにスピードやパワーの面では男子の野球にかなわない部分はあるのかもしれないですが、プレー技術に関して言えば、男子と同じくらい観るのが面白い。女子野球にカッコよさを感じるという方もこれからどんどん増えるのではないかと思います。

――畑野さんご自身、Dream Linkに関わってどんなやりがいを感じますか。

畑野 選手の学校訪問や病院訪問に同行することもあるのですが、その際に子供たちの目が一気に輝いたり、子供たちだけでなく先生方や医療従事者の方々も年代問わず喜んでくださったりするのを見ると、「プロ野球選手が持っている力ってすごいな」と純粋に感じます。選手のほうも、訪問するたびに「パワーをもらった」と言いますが、それは彼らの本音だと思います。私たちスタッフもそうですからね。そういう選手の精神的な変化や成長をそばで見られるのはとても嬉しいです。野球振興のほうでも、アカデミー事業でタイガースOBやタイガースWomanの選手がコーチとして野球を教えている姿、そして、その指導を受けて子供たちが楽しんで野球をやっている姿を間近で見ると、この仕事をしていてよかったなとつくづく感じます。

北條史也選手による病院訪問の様子。病気の子供たちや医療従事者と対面することで、選手たちにもプロとしての使命感が芽生えるようだ。©HANSHIN TIGERS

――今後、Dream Linkをどのように成長させていきたいですか。

畑野 当初はプロジェクトの存在を選手にもファンの皆様にも知っていただいて活動を推進していこうという思いがありましたが、その名称を浸透させるフェーズはもう終わったかなと感じています。今は名称を打ち出すよりも、選手それぞれの思いや行動ありきで、さらにそれが引き継がれていくことが大事。Dream Linkがあるから活動するのではなく、その名前がなくても社会貢献をやっていくんだという文化を積み重ねていくことが、次の5年、10年の課題かなと思っています。とはいえ、このフェーズまで来られたのは、Dream Linkという名称を打ち出したからこそですけどね。野球離れが叫ばれる中、まだ関西には次世代に野球の素晴らしさを伝えていく土壌が少なからずあると感じていますので、今後もその環境を活かしながら活動していきたいと思います。

<お話を伺った人>

阪神タイガース 事業本部振興部 部長 畑野幸博さん

学習院大学卒業後、音楽業界で音楽制作ディレクターに従事。 2005年楽天野球団に入社しファンクラブ事業などを担当。2006年阪神タイガースに入社しチケット、ファンクラブなどを担当。2021年から現職。