全国区のスター選手を擁し、プロ野球界を牽引してきた読売ジャイアンツには、その知名度と人気を様々な形で社会に役立ててきた長い歴史がある。その歴史の積み重ねを経て、2015年に球団の社会貢献プロジェクト「G hands」が発足した。今回は、ファ…

全国区のスター選手を擁し、プロ野球界を牽引してきた読売ジャイアンツには、その知名度と人気を様々な形で社会に役立ててきた長い歴史がある。その歴史の積み重ねを経て、2015年に球団の社会貢献プロジェクト「G hands」が発足した。今回は、ファン事業部でこのプロジェクトを担当する吉野逸人さんにお話を伺う。

――まずは、2015年3月にG handsが発足した経緯を教えてください。

吉野 球団として、また、選手個人でも、それ以前から被災地支援や地域貢献などの活動を当時のファンサービス部、さらにさかのぼれば広報部や総務人事部が中心となって行っており、その歴史は数十年に渡ります。そういった社会的な活動を総括し、社内横断的なチームを作ろうという方針が打ち出されたのが2015年。それを受けてG handsが誕生したというのが発足の経緯です。

――当初はファンサービス部、現在は社内改編で同部を受け継いだファン事業部がG handsの活動を行っていますが、ファンと関わる部署が社会貢献活動を担当されているのですね。

吉野 はい、その名の通り、球団(選手・職員)とファンの方々が“手を取り合って支援の輪を広げていこう”というのがG handsのコンセプトです。もちろん、その名称がない頃から選手たちは社会貢献活動に力を貸してくれていましたが、プロジェクト名ができたことによって「これはG handsの一環ですね」といったように球団の中に共通言語が生まれ、みんなのマインドが一つになったような気がしますね。わかりやすさがある分、きちんとチーム内にも浸透して、それだけ向き合い方も変わってきたと感じます。

――それでは、具体的にG handsの活動内容について教えていただけますか。

吉野 まずは大きな柱として、選手個々の支援活動のサポートがあります。選手たちはプロ野球という厳しい世界に身を置いているので、なるべく彼らの負担を減らしてあげながら、「世の中の役に立ちたい」という思いを実現できるようバッグアップすること。これが我々の大きな役割の一つです。最近はある程度成績を残すと社会貢献への関心が高まる傾向が強くなり、相談される機会はどんどん増えています。

――今シーズンは、丸佳浩選手の「丸メシプロジェクト」が新たに発表されましたね。

吉野 彼は広島東洋カープ時代にも西日本豪雨災害の際に寄付金を送ったりしていて、もともとそういうマインドの持ち主であることを我々も理解していたので、ところどころで支援活動の話を持ち掛けていました。彼のほうも、ぜひやりたい、と。ただ、きちんと責任を持ってやりたいということで、支援先や支援内容については半年以上に渡って話し合いました。選手が愛着を持って支援活動をすることはとても大事ですし、寄付となるとお金も絡むことになりますから、話し合いのプロセスは丁寧に行うべきだと思っています。

丸選手は今シーズンから安打と四死球ごとに1万円を積み立て、認定NPO法人カタリバに寄付。経済的な事情などで十分な食事を摂ることができない子どもたちを支援する。©読売巨人軍

――ほかにも、震災・災害時には義援金を送ったり、パラスポーツの普及に協力したりと、G handsの活動は多岐に渡っています。こういった選手個々の寄付以外の取り組みにおいて、活動資金はどのように捻出しているのでしょうか。

吉野 選手個々からの寄付金、巨人軍選手会からの寄付金、球団の寄付金に加えてチャリティーオークションの売上金があります。おおまかには、パラスポーツの普及活動はヒーローズプレート(お立ち台の選手や記録を達成した選手がアクリル板にサインしたもの)のオークション、被災地支援には選手及び選手会と球団からの寄付金に加えてユニフォームなどのオークションで集まった資金を充当していますが、どの資金をどの活動に割り当てるかはその年によって変わることもあります。ヒーローズプレートはとても好評で、ファンの方々にも大変喜んでいただいています。

コロナ以前は、学校訪問や被災地訪問などの活動もG handsで実施していた。写真は岡本和真選手の母校訪問の様子。©読売巨人軍

――G handsのホームページには様々な企業のロゴが掲載されていますが、企業はどのように関わっているのですか。

吉野 活動を資金面で後押ししていただいています。ただ、こちらから積極的に営業をかけているわけではなく、企業さんのほうから「ジャイアンツの社会的な活動をサポートしたい」と賛同してくださることがほとんどです。中には、単に後方支援していただくだけにとどまらないケースもあります。例えば、伊藤園さんが自社で行っているCSRの中に「桜の木の植樹」の活動があるのですが、我々も植樹活動の一部をお手伝いするといったコラボレーション展開もしています。

――昨年のコロナ禍では、ジャイアンツ所属選手・首脳陣から東京都に6000万円の寄付がありました。不測の事態には、いち早く動いている印象があります。

吉野 早ければいいというわけではないのですが、やはりプロ野球、そしてジャイアンツの持つ影響力は大きいので、私たちが動くことによって世間の関心が集まり、大きなムーブメントにつながると思うんです。プロ野球選手が誰より早くアクションを起こすことで、勇気を与えられたり、元気になってもらえたりと、人々の精神的な支えにつなげられることもあるでしょう。ですから、「ぼんやりしていたら時間が過ぎてしまった」という事態だけは避けたいという思いはありますね。プロ野球、ジャイアンツという看板を背負って関わらせていただいている以上、やはりスピード感は意識します。

――社会貢献に関心を持つ選手が増えているとのお話でしたが、その要因は何だと思いますか?

吉野 私が知る限りでは、先輩選手の影響が大きいと思います。現在のジャイアンツの選手たちは、投手であれば内海哲也選手(現埼玉西武ライオンズ)、野手であれば長野久義選手(現広島東洋カープ)の背中を見て育ってきました。二人とも社会貢献に非常に熱心で、「自分たちの行動によって後輩の行動も変わる」という自覚を持った選手でした。菅野智之も彼らの思いを継承して介助犬の支援や啓発の活動を行っていますし、さらに若い選手たちもその背中を間違いなく見ています。今の選手には、野球だけやっていればいいという感覚はもうないでしょうね。「アスリートとして」「人として」という要素は、普段の会話の中でも非常に大事にしているなと近くで見ていて感じます。

菅野選手による介助犬の啓発活動で、吉野さんはTシャツなどチャリティーグッズのデザイン案にも関わっている。©読売巨人軍

――球団の社会貢献を行うにあたって、目指していることは何ですか。

吉野 12球団とか、プロスポーツ界とか、ある程度大きな枠で一枚岩になって活動できる環境が整備できるといいですよね。とはいえ、チームによって社会貢献の方針も地域の課題も違うので、一つになるには当然ハードルもあるでしょう。であれば、今はお互いに刺激を与え合える存在でいたいなと思います。その結果として、違うアプローチだったけど蓋を開けたら同じ方向性で支援活動を行っていたね、なんてこともあるのではないでしょうか。まずはそこを目指していきたいですね。個人的には、やはりいち早くアクションを起こす立場でありたい、刺激を与える存在でいたい。もちろん、私自身もいろんなチームから学ばせていただきたいという思いもあります。

――吉野さんご自身は、G handsにおいてどんなやりがいを感じていらっしゃいますか。

吉野 有難いことに、この活動をとても楽しませてもらっています。私一人の力では何もできないですけど、選手や球団の看板を上手に活用することで、被災者の方々や支援団体の方々にこんなにも喜んでもらえるんだ、と。次はこんなことをやったら喜んでもらえるかな?と考えるのがとても幸せですね。選手たちとも「こんなことができるよ」「それはすごいですね」と、いつも楽しくディスカッションしています。プロ野球選手は世の中にとって常に憧れの存在で、人々の人生を変えられる影響力を持っているので、少しでも社会に勇気を与えられるよう、これからも彼らの可能性を最大限に引き出していきたいと思います。

<お話をお伺いした人>

読売巨人軍ファン事業部 ファンサービス・G hands担当 吉野逸人さん

上智大学卒業後、2004年に読売巨人軍入社。国際部、ファンサービス部、広報部、営業企画部を経て2015年12月年より現職。