高校の各スポーツ大会では、全国的に知られる名門校や強豪校が存在する。例外はあるものの、スポーツに力を入れている部活動のイメージは、だいたいこんなものではないだろうか。 中学時代にスポーツ優秀だった生徒が、狭き門であるスポーツ推薦で強豪校に…
高校の各スポーツ大会では、全国的に知られる名門校や強豪校が存在する。例外はあるものの、スポーツに力を入れている部活動のイメージは、だいたいこんなものではないだろうか。
中学時代にスポーツ優秀だった生徒が、狭き門であるスポーツ推薦で強豪校に通うか、越境留学して寮生活を送る。朝練をこなしてから学校で授業を受け、15時くらいから日が沈むころまで部活動に励む。平日は厳しい練習を行ない、土日は遠征したりして1日中、練習試合を行なう。主要な大会の時には数時間かけて移動し、数日間、共同生活を送りながら、試合をする。
これらのイメージは "全日制"高校の部活動を前提にしている。ほとんどの競技において、「結局強くなるのは、そうした高校だろう」と思っている人が多いのではないだろうか――。しかしそのイメージを覆すスポーツが存在する。それが「eスポーツ」だ。
eスポーツで強豪校として真っ先に名前が挙がるのは"通信制"高校、つまりオンラインで授業を受ける高校だ。事実、3月13日・14日に行なわれる「第3回全国高校eスポーツ選手権」の決勝大会に臨むチームの多くは通信制高校だ。「リーグ・オブ・レジェンド」部門のベスト4の全チーム、「ロケットリーグ」部門のベスト4のうち1チームが通信制もしくは通信制のコースを持つ。
昨年度優勝したN高の
「KDG N1」。今年度もベスト4に2部門計3チームが上がってきている
ではなぜeスポーツでは通信制高校が、強豪校となりつつあるのか。上述の決勝大会にコマを進めたN高等学校とルネサンス高等学校、2校の通信制高校への取材をもとに、その理由を探った。
単刀直入に「なぜ通信制高校が強いのか?」という質問に対し、両校に共通していたのは「(授業以外で)自由な時間が多い」という理由だ。ルネサンスでeスポーツコースを担当する西添和寿氏はこう分析する。
「本校に限らず、通信制高校はオンラインでレポートを提出するため、毎日の通学が必要なく、時間の効率がいいと言えます。全日制の学校に比べて、練習に充てられる時間は間違いなく多くなります」
ルネサンスでは授業を受ける時間の指定がないため、オンラインゲームにとってのゴールデンタイムである夜間に練習試合を行ないやすい。授業の時間が最優先の全日制の部活動だと、半分寝ぼけながら朝練をしたり、ボールが見えなくなるまで午後練をしたりするが、通信制ではこの仕組みの違いから、練習の量と質どちらの面でも全日制の部活動にはないアドバンテージを生み出している。
練習の効率性についてはN高とルネサンスに共通性があるが、同じ通信制でもeスポーツの活動においては違いがある。まずN高だが、こちらは練習拠点がないのが特徴だ。
「通信制高校では生徒がスポーツの部活を行ないたくても一カ所に集まって練習することが物理的に難しく、仮に部を作ったとしても学校の運営体制上、既存のスポーツ大会に参加することが難しいという現実もあります」(N高eスポーツ部顧問教職員)
つまりN高にとって、チームの結成、ミーティング、練習試合、大会出場などのすべてをオンラインで完結できるeスポーツは、部活動を行なうための最適解。学校の授業の延長線上で、もっともストレスなくスムーズに部活動ができるスポーツだと言える。
またN高の強さの要因の一つが学校独自の校風だ。
「当校は生徒の得意な分野、やりたいことを最大限支援する方針です。その結果、eスポーツに限らず一芸のある生徒が各分野から集まりやすいと考えています」(N高)
実際、N高eスポーツ部に所属し、今回の決勝大会にも出場する大友美有さんは、eスポーツ部に入りたくて、埼玉の公立高校から転校している。N高は5年前の2016年に設立され、初年度の入学生は約1,500人だったが、大友さんのように「一芸のある生徒」も含めて入学者数が急増し、昨年12月時点で全国に16,000人強の生徒を抱えている。
リアルスポーツの強豪校はグラウンドや施設の大きさ、寮に入れる人数にも制限があるため、入りたくても入れない生徒がいたり、入っても十分な練習時間を確保できなかったりするが、オンラインであればその制約はない。実力がある人、好きな人がどんどん入学して、オンライン上での部活を楽しみ、入学後にめきめき上達することは十分に考えられる。
しかもほとんどのeスポーツ大会が、1校から複数チームエントリーすることが可能となっているのも、生徒にとっては魅力的だろう。
強い生徒が集まりやすいことが強さの理由――と表現すると元も子もないようにも感じられるが、リアルスポーツの世界でも校風や有名なOBに憧れて進学先を選ぶというケースは決して珍しい話ではない。通信制ではその門戸が広いことで、実力のある生徒の数が必然的に多くなるというのが、強さの秘けつなのだろう。
一方、ルネサンスではeスポーツの扱いが異なる。同校は日本で初めて「eスポーツコース」を採用した高校であり、eスポーツを授業の一環として捉えている。eスポーツコースでは数学や英語などの一般科目をオンラインで受講しながら、eスポーツの授業はキャンパスに集まって対面形式で行なう。
例えば西添氏が担当する新宿代々木キャンパスでは、週に2日「eスポーツの授業日」を設け、実技指導やプログラミング、動画編集などゲームにまつわる幅広い項目を指導している。
さらに実技指導にはプロゲーミングチーム在籍経験のあるコーチを招き、高いレベルのコーチングを行なっている。グループ校である大阪や名古屋のキャンパスと練習試合を組むことも多く、カリキュラム内で「座学と実戦」という上達のための環境が整っているのだ。
このルネサンスは、スポーツコースを持つ全日制の高校に近い。授業のカリキュラムの中にスポーツを組み入れて練習時間を増やし、トップレベルの指導者の下、切磋琢磨して競技力を上げていく。練習時間の質と量によって強くなっていく仕組みは同じだ。
スポーツコースを持つ高校が、各スポーツで全国上位に入る例も多いため、ルネサンスも同じ傾向の学校とも言えるが、集まっての練習が週2日であとはオンラインで練習することを踏まえると、スポーツコースの良さと、通信制の良さの両方をミックスした学校と言えるのではないだろうか。
ともあれ、小学生の「なりたい職業」としてプロゲーマーが上位に挙がっていることもあり、高校生を含めた学生eスポーツシーンはさらに発展していくことが予想される。N高、ルネサンスとも、eスポーツシーンはさらに拡大すると予想している。
「どんな競技でも、楽しかったはずの練習が上達する段階で徐々に苦しみに変わっていくものです。ただ、ゲームは短時間で勝敗がつき、オンラインで簡単に同じくらいの腕前の相手と練習ができるので、達成感が得やすいという特徴があります。こうした要因からか、他のスポーツをやっていた生徒もeスポーツを楽しむようになりつつあると感じています」(ルネサンス西添氏)
勝利や成功による達成感が、人の自己肯定感を高める要因の一つと言われていることを考えると、リアルスポーツで活躍できず、達成感を十分に味わえなかった生徒が、eスポーツに転向するのもうなずける。現に市立船橋高校サッカー部でほとんどトップチームに関われなかったスレッジ選手が、現在「FIFAシリーズ」のプロプレーヤーで活躍している例もあるように、今後eスポーツへ転向するプレーヤーが増えてくる可能性もある。
今まさに成長しつつある高校生eスポーツシーンの行方を、今後も見守っていきたい。