ダービージョッキー大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」 今年も冬の東京開催最終週に行なわれるGIフェブラリーS(2月21日/…

ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」

 今年も冬の東京開催最終週に行なわれるGIフェブラリーS(2月21日/東京・ダート1600m)から、中央競馬のGIシリーズが幕を開けます。

 その分、注目の一戦となりますが、昨年末のGIチャンピオンズC(12月6日/中京・ダート1800m)を制したチュウワウィザードは、海外遠征を選択。フェブラリーSの前日(現地時間)に行なわれるサウジカップ(2月20日/サウジアラビア・ダート1800m)に出走予定です。

 また、2年前のフェブラリーSで大敗を喫して以降、地方交流重賞を主戦場としている実力馬オメガパフュームも、地方交流GI川崎記念(1月27日/川崎・ダート2100m)から始動。今年もフェブラリーSには見向きもしませんでした。

 さらに、昨年覇者のモズアスコットや、フェブラリーSで3年連続連対(2017年~2019年)の実績があるゴールドドリームらが、チャンピオンズCを最後に引退。今後のダート界を引っ張っていく存在として期待されているクリソベリルも故障で戦列を離れていて、今年はかなり手薄なメンバー構成になったと言わざるを得ません。

 ただ、メンバーが手薄だからといって、レースがつまらなくなることはありません。今年はどの馬にもチャンスがあるということで、出走馬の陣営はどこも色気を持って臨んでくるはずです。各馬横並びの大混戦ゆえ、相当熱い戦いが期待できるのではないでしょうか。

 今年は4歳馬から8歳馬まで、各世代に上位争いに加わってきそうな存在がいます。なかでも注目は、前哨戦のGIII根岸S(1月31日/東京・ダート1400m)と、GII東海S(1月24日/中京・ダート1800m)を制した5歳世代。とりわけ、根岸Sを勝ったレッドルゼル(牡5歳)は、一気にGI制覇まで遂げてもおかしくない器だと思っています。

 前走の根岸Sが初の重賞勝利でしたが、それまでもダート戦では抜群の安定感を誇っていた馬。そして、主戦が北村友一騎手から川田将雅騎手に代わってからは、単なる先行馬ではなくなって、競馬ぶりに幅が出てきました。

 唯一懸念されているのは、これまで1400m以下のレース経験しかなく、今回が初めて挑むマイル戦になること。その点は、関係者やファンの間でも可否の意見が渦巻いていることでしょう。実際、同馬を管理する安田隆行調教師や川田騎手も事前のインタビューでは「距離に関しては走ってみないとわからない」と話しています。

 それでも、個人的にはマイルは問題なくこなしてくれると踏んでいます。そう思うのは、馬体や血統といった要素ではなく、川田騎手がフェブラリーSを勝つために、ここまでのレースでいろいろと考えて騎乗してきた――それが今回、「実を結ぶはずだ」と期待しているからです。

 根岸Sのレース後のインタビューでも、「マイル戦のフェブラリーSを見据えた乗り方をした」と川田騎手や安田調教師が話していましたが、個人的にはその前のGIIIカペラS(2着。12月13日/中山・ダート1200m)、復帰初戦のオープン特別・室町S(1着。10月24日/京都・ダート1200m)の段階から、将来的に距離を延ばしていくためにはどうしたらいいか、ということを考えてレースに臨んでいたように見えました。

 以前のレッドルゼルのように、先行して能力差だけで押し切るといった競馬を続けていたら、根岸Sまでは勝てても、フェブラリーSでは距離の壁に泣いていたと思います。しかし、長期的な視野で脚質転換に取り組み、競馬を教えながら同時に結果も出してきた今のレッドルゼルと川田騎手のコンビならば、マイル戦でもしっかり対応してくれるでしょう。

 続いて、有力候補に挙げたいのは、7歳世代のサンライズノヴァ(牡7歳)です。

 フェブラリーSには今年で4年連続の参戦となりますが、冒頭で記したようにメンバーが手薄。相手関係を考えれば、悲願達成へ最大のチャンスと言っていいでしょう。

 東京のダートでは重賞3勝を含め、通算7勝。同じ左回りの地方交流GIマイルCS南部杯(盛岡・ダート1600m)も制しています。

 同馬は、チャンピオンズCや2000m前後の地方交流重賞よりも、フェブラリーSこそが1年の最大目標というタイプ。7歳となると、普通は勝ち切るまでは難しいように思えますが、今年のメンバーであれば、十分に戦えるはずです。

 7歳世代には他にも一昨年の覇者インティ(牡7歳)が、6歳世代には昨年の南部杯を驚異的な時計で勝っているアルクトス(牡6歳)や伸び盛りのソリストサンダー(牡6歳)がいます。さらに、明け4歳のカフェファラオ(牡4歳)、8歳世代のワンダーリーデル(牡8歳)やエアスピネル(牡8歳)らも、東京のダート戦での好走例があって侮れません。まさに今年は突出した存在がいないからこそ、面白いレースになると思います。



3連勝中のオーヴェルニュ。フェブラリーSでも勝ち負けが期待される

 さて、今回の「ヒモ穴馬」にはレッドルゼル同様、前哨戦の東海Sを制した5歳世代、オーヴェルニュ(牡5歳)を取り上げたいと思います。

 オープン特別のリステッド競走を2連勝して、前走の東海Sでは重賞初挑戦で快勝。今回は3連勝の勢いに乗って、初めてのGIに挑むことになります。

 東海Sもオーヴェルニュ自身が2番人気に推されたように、インティ以外は手薄なメンバーでした。しかも、そのインティが自滅に近い形で敗れたため、オーヴェルニュの勝利にどれだけの価値があるのか、疑問視する人も多いかもしれません。今年のフェブラリーSはいくら実績馬が不在といっても、オーヴェルニュにとっては一気の相手強化となりますから、なおさらです。

 とはいえ、この3連勝中は走るごとに"強くなっている"というのが、強調すべきポイントです。デビュー当時は440kg台だった馬体も、前走では過去最高の476kg。ダート馬としてはまだ線が細いほうですが、今が充実期であることは間違いないでしょう。

 オーヴェルニュは中距離路線から久々のマイル戦という形になりますが、レッドルゼルとは逆で、この距離でもスピード負けしない先行力があるのはプラス。展開次第で勝ち負けも大いに期待できる1頭だと思っています。