サッカースターの技術・戦術解剖第44回 ルイス・スアレス<ボックス内の状況を一瞬で把握> アトレティコ・マドリードのディ…
サッカースターの技術・戦術解剖
第44回 ルイス・スアレス
<ボックス内の状況を一瞬で把握>
アトレティコ・マドリードのディエゴ・シメオネ監督は、ルイス・スアレス(ウルグアイ)との移籍交渉で「反逆児としての彼を見つけた」のだという。バルセロナから放出されたスアレスに、並々ならぬ意欲を感じとったようだ。

アトレティコ・マドリードで、ストライカーの才能を爆発させているルイス・スアレス
アトレティコに移籍して第21節時点で14ゴール、得点ランキングのトップにいる。チームも2位バルセロナに10ポイントの差をつけて首位を走る。
ここ数年のアトレティコは、攻撃の増強に努めてきた。堅守速攻でラ・リーガにレアル・マドリードとバルセロナの二強時代を終わらせたが、攻撃力不足が足かせになっていた。試行錯誤しながら今季の3バックにたどり着いている。
引いた時は5バックになる守備の堅実さを残しながら、マルコス・ジョレンテ(スペイン)、トマ・ルマール(フランス)、ジョアン・フェリックス(ポルトガル)、アンヘル・コレア(アルゼンチン)のアタッカー陣を最大限に活用。MFの構成はジョアン・フェリックスをトップ下に置くダイヤモンド型、コレアを右サイドに配したフラット型と使い分けているが、アタッカーを従来よりも多く起用している。
そのなか、不動のセンターフォワードを張っているのがスアレスだ。
第21節のカディス戦ではFKを直接決めている。バルセロナ時代はリオネル・メッシ(アルゼンチン)がいたためにほとんど蹴る機会がなかったが、蹴らせれば相当うまいことを思い出した。得点に関しては万能と言っていい。主にボックス(ペナルティーエリア)内で勝負する。足でも頭でもゴールできて、クロスボール、こぼれ球、ドリブルシュート、裏抜けと何でもあり。
エゴイスティックな印象があるが、アシストは多い。バルセロナ時代はメッシに最も多くのアシストをした選手だった。正確な技術や体幹の強さを感じさせるボディバランスだけでなく、瞬間的にボックス内の状況を把握する能力が抜群なのだ。
GK、DF、そして味方の動きを一瞬で把握している。いつ、どこへ、シュートすればいいのか、あるいはパスしたほうがいいのか。周囲の敵味方がどう動いているか、動こうとしているか、それを同時に一瞬に読み取れる才能が圧巻である。
<軸足を「抜く」鋭角ターン>
アヤックス(オランダ)でプレーしている時から、不思議な選手だった。
軽快ではなく、むしろ重い感じなのだが、異常にキレがある。「太っちょ」というニックネームのとおり、182㎝、86㎏は重戦車の迫力だ。しかし、切り返しは急角度で、ぶった切るようにマークを外していった。
スアレスの急角度の切り返しは、トレードマークだ。深く切り返しているのに、瞬時に方向を変えられる。軸足を抜くのがうまい。
例えば、右足のキックフェイントから切り返すなら、右足でボールを左方向へ動かしたあとに体重は右足にかかる。この時、スアレスは両足で踏ん張らない。両足で踏ん張ってから左方向へ動こうとはせず、左足を抜いてしまうのだ。地面からすぐに放してしまうのである。
すると、左足が「ない」ので体は左側へ大きく傾く。スアレスはその傾きを利用し、抜いた左足のツマ先の方向を変えてから着地させ、左足→右足の素早い体重移動で相手の左へ動く。ナタでぶった切るような切り返しのわりに、ステップは意外と細かいのだ。
通常と同じく体重の移動は右足→左足なのだが、右足→(左足抜き)→左足という足さばきなので、その後の左足から右足への運びも速い。おそらくこのほうが速く方向転換ができるし、より鋭角的なターンになる。
あまりに急角度なので、足を滑らせて転ぶ時もあるぐらいだ。対面の相手がこの急旋回についていけず、オブストラクション気味に体をぶつけてしまうこともあるが、その時は重戦車のようなパワーで押し切ってしまう。
密集にドリブルで突っ込んでいくスアレスは、頭を下げて頭から突っ込んでいく。これも切り返しで足を「抜く」のと似ていて、頭を前へ出すことで体重移動をしているのだろう。わりと重めの体を素早く動かすための体の使い方が、本能的に身についているのだと思う。
<真のストライカーのプレーを満喫>
アトレティコでは「第一ヴァイオリン」と認定されていることも、スアレスのゴール量産につながっている。バルセロナではメッシが優先だったが、アトレティコでは言わばスアレスにシュートさせるために周囲が動いている。それが「第一ヴァイオリン」と呼ばれる理由だ。
守備能力も高いスアレスだが、アトレティコでは最初に守備をやめていい選手になっている。前線中央の守備をふたりで分担する時もあるが、それ以上のタスクはない。メッシの分を守らなければならなかったバルサ時代との違いだが、アトレティコ自体もかつての10人ブロックではなく、9人で守備をするケースが増えている。
2トップを4-4の守備ブロックに接続して、ヨーロッパで減少傾向だった4-4-2のシステムを復活させたアトレティコが、今季はスアレスを前線に残す5-4-1のブロックに移行しているのだ。
中盤の守備の圧力は若干弱くなったかもしれないが、引いた時の5人のディフェンスラインには穴が空きにくい。MFにコケ(スペイン)以外は攻撃型を並べていることもあり、中盤でのボール奪取に以前ほど重きを置かなくなったのは合理的な選択だと思う。ただ、やはりスアレスを獲得したのが大きいのではないか。
シメオネ監督は真のストライカーをどう使うかの塩梅を心得ていて、スアレスはアトレティコで真のストライカーとしてのプレーを満喫しているように見える。