【堀越高校サッカー部“ボトムアップ”革命|第1回】東京都予選5試合で34ゴール3失点、選手自らが“楽しい”スタイルを貫く…

【堀越高校サッカー部“ボトムアップ”革命|第1回】東京都予選5試合で34ゴール3失点、選手自らが“楽しい”スタイルを貫く

 全国高校サッカー選手権で、29年ぶりに堀越が東京都代表を勝ち取った。5試合通算で34ゴール、3失点。何より常に主導権を握り、選手たちが楽しいと感じるスタイルを貫いての勝利だった。

 チームを率いる、というより、選手と一緒にチームを作り上げてきた佐藤実監督が語る。

「欧州、Jリーグも含めて、良い映像をたくさん見てきた世代の選手たちです。もちろんトレンドは変化するわけですが、大筋でみんなが見てきて、やりたいサッカーは共通している。堀越で最も大事にしているのは、プレーの優先順位です。いたずらに繋ぐばかりではなく、しっかり蹴る時は蹴る。ただ優先順位を選んだうえで、誰もが表現したいと思うサッカーに近づけてあげようと、大人が理解し補佐してきました」

 佐藤は8年前に、堀越にボトムアップ理論を導入した。上意下達ではなく、選手たちの主体性を尊重し、彼らが自ら考えて構築していく部活を目指した。成果はすぐに表れた。選手主導に移行して3年目、4年目には連続して東京都予選の決勝に進出。だが全国大会出場まで、あと一歩まで迫ってから足踏み状態が続いた。

「グラウンドに出てボールを蹴りながら、サッカーが上手くなるために学び合う。そんな充実して楽しい部活ができている手応えはありました。当然楽しいだけではなく、チームとして選手としてやるべきことをこなすことが大前提ですが、ここでは罰走、球拾い、長時間の素走り、延々と筋トレなどということはありません。ただ良いことをやっているというだけで終わらないようにしないとね、とは常々選手たちにも話してきました」

 転機は2020年が明け、新チームのスタートとともに訪れた。佐藤は以前からスタッフとの話し合いを重ね、温めてきたプランを提示。選手たちも賛同する形で、それからはスタッフと選手たちが意見交換を進めながら精度を高めてきた。

「堀越なりのゲームモデルを作り、目指すサッカーを構築するための柱になるもの、方法論を共有しました。以前は各チームにリーダーがいて、そのリーダーの色が反映されるので、チームとして伝統のスタイルがなかった。でも毎年あまりコロコロ変わると、選手たちが戸惑います。やはり基準になるものがあり、それを毎年ブラッシュアップしていくほうが、選手たちにも分かりやすいだろうと考えたんです」

決勝の終了間際に追いつかれるも「選手たちは僕以上に落ち着いていた」

 ゲームモデルが全体で共有されると、部活動が想像以上に整理されスムーズに進むようになった。

「僕以上に生徒たちが、これを共有しよう、みんなで合わせよう、と発信し続けてくれた。コロナ禍で活動期間が制限されるなかでも、選手たちの急速な成長を実感できました。今まで組織論や精神論には自信があったんですが、サッカーに関してはもう一歩、二歩足りない感じだったので、僕らスタッフも選手たちに良いものを与えてもらったと思います」

 東京都大会Bブロック決勝では、対戦相手の大成が敢えて主力を温存し、極端に守備的な戦いを選択してきた。それだけでも今年の堀越が、本命視されてきたことが窺えた。

「大成さんも準決勝までは真っ向勝負をしてきたんです。でも決勝のスタメンを見て、それまでとは少し立ち位置を変え、堀越に疲れの出る時間帯に主力を投入してくるんだろうな、という感じでした」(佐藤)

 序盤から大成は、中央を閉めることを意識し、低めのブロックを形成。堀越に主導権を握られるのを想定したうえで、GKもDFも後方からのロングボールを多用した。しかし前半12分、堀越は逆に空いたサイドのスペースを流動的に活用し突破口を切り拓く。3-4-3の堀越は、シャドー、ウイング、ボランチの三角形が連動。大成の守備網を広げて混乱を誘うと、最後は中央でフリーになった尾崎岳人がプッシュした。

 だが後半に勝負を賭けた大成も、終了2分前にCKから同点。高校生にとって、終始ボールを支配しながら土壇場で追いつかれる展開は、大きなダメージが予想された。

「あの流れだと、もう一発入れられて終わるか、延長やPK戦にもつれ込むものです。でも選手たちは僕以上に落ち着いていたようです。『もう一発食らわなければ、PK戦も含めて勝機はある』『相手は前がかりに来ているから、逆にチャンスあるぞ』と声をかけあっていたそうです。自分たちの残りのパワーと、相手がやろうとしているパワーのバランスを見極めて、何をすれば勝利を持ってこられるか。冷静に考えていたみたいですね」(佐藤)

 追いつかれてから4分後、堀越に決勝ゴールが生まれる。中央のポッカリと空いたスペースに入り込んだ日野翔太が、山口輝星の横パスを呼び込み、ダイレクトで冷静に流し込んだ。(文中敬称略)(加部 究 / Kiwamu Kabe)

加部 究
1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近東京五輪からプラチナ世代まで約半世紀の歴史群像劇49編を収めた『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』(カンゼン)を上梓。『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(ともにカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。