1年春から野手では唯一ベンチ入りを果たし、スラッガーとしての期待を一身に背負ってきた吉澤一翔副将(スポ4=大阪桐蔭)。調子の波が激しく、2、3年時にはメンバーから外れることもあったが、今季は2番・三塁に定着し、打線のつなぎ役として自身の役…

 1年春から野手では唯一ベンチ入りを果たし、スラッガーとしての期待を一身に背負ってきた吉澤一翔副将(スポ4=大阪桐蔭)。調子の波が激しく、2、3年時にはメンバーから外れることもあったが、今季は2番・三塁に定着し、打線のつなぎ役として自身の役目を全うしている。今年度は副将を務め、チームを引っ張ることの難しさも感じた。そんな吉澤に、ここまでの東京六大学秋季リーグ戦(秋季リーグ戦)の振り返りや早稲田での4年間について、そして、悲願の優勝がかかる早慶戦を間近に控えた今の心境を伺った。

※この取材は11月1日に行われたものです。

「大きいのを狙わずにシングルという気持ちを持って」


笑顔で質問に答える吉澤

――ここまでの秋季リーグ戦を振り返っていかがですか

 上手くいったこともありますし、なかなか上手くいかなったこともあるのですが、とにかく早慶戦で優勝が決められるので良かったと思います。

――リーグ戦で三塁を守ってみて、ご自身の守備の手応えはどうですか

 そんなに難しい打球は飛んできていないのですが、前の試合は一つエラーをしてしまいました。でも、それまできっちり守れていたので、まあ合格じゃないですかね。

――2番打者を務めてみていかがですか

 初回で金子か先頭で出たりするとサインプレーが出てくるので、その辺は2番バッターの難しいところだと感じました。でもそこでしっかりつなげていくことが2番の仕事だと思いますし、早慶戦では必ずその場面があると思うので、しっかり練習していきます。

――バスターで何回かいい打球を打っている場面がありましたが、バスターやバントなどの小技は得意ですか

 一見苦手だと思われることが多いのですが、高校の時に毎日練習していたので、大阪桐蔭高出身者はバントやバスター、エンドランなどは上手いと思います。

――中川卓也選手(スポ2=大阪桐蔭)が2番でバントが上手いというのも、大阪桐蔭高出身だからでしょうか

 そうですね。卓也もバント上手いですし、岩本(久重、スポ3=大阪桐蔭)も4番を打っていますが、バントも多分できますし、得意まではいかなくても普通にできると思います。

――2番になって打席に入るときの気持ちの変化などはありましたか

 5番6番に比べてチャンスメイクが多いので、大きいのを狙わずにシングルという気持ちを持って打席に立っています。

――印象に残っている打席として明治戦のタイムリーヒットを挙げられていましたが、この打席を選んだ理由を教えてください

 初戦で緊張していて、チャンスで回ってきたので、あれはエンドランだと思うんのですが、あそこで1点きっちり取れたので一番記憶に残っています。

――ご自身で一番理想的な打撃ができたと感じるのはどの打席ですか。やはり明治戦でしょうか

 やはり打点を上げられるというのがバッターとして嬉しいことなので、明治戦の初戦できっちり1点を取れたことがうれしいです。

――逆に悔しさの残る打席を挙げるとすると、どの打席ですか

 (法大1回戦で)鈴木昭汰(4年)からチャンスの時に、サードフライを上げてしまった時があるので、その打席が一番悔しいです。

――今のご自身の点数として30点をつけられていて、チームの中での役割についても「打ってチームを引っ張ること」とおっしゃっていますが、満足のいくプレーをするために今はどんなことに取り組まれていますか

 とにかく守備ではエラー0で、声出してという部分でチームを引っ張って、バッティングの面ではやはり自分がヒットを打たないとチームを引っ張ることもできないし、人に言うこともできないので、とにかく結果を出せるようにしっかり調整しています。

――大きいのを狙わずに単打を打つようなイメージだとお聞きしましたが、もともとはパワーが持ち味というところがあったと思います。長打を打ちたいという葛藤などはあるのでしょうか

 もちろんホームランは打ちたいですが、やはり自分の今の役割はそこじゃないのかなと感じています。2年の頃はがむしゃらにやって、フルスイングしておけという感じだったのですが、今は最上級生になって2番バッターというところで、3~7番でもしっかりつなげれば帰してくれると思うので、2番としてチャンスメイクを意識した結果、単打を狙いにいくという意識に変えました。

――それは例えば、2死走者なしの場面であっても変わらないのでしょうか

 1本シングル出して、盗塁して、3番4番は長打出やすいバッターなので、そこで自分がホームラン出すことよりも確率は高いのかなと思っています。

――盗塁を何本か決められていると思いますが、得意不得意などありますか

 行けたら行くみたいな感じです。得意不得意などはあまりないです。

――今季打率は2割前半というところで、最初から単打を打つなどコンスタントに打っていると思いますが、ご自身として打率であったり安打の出具合であったりどのように感じていますか

 自分の場合は、打率を考え出したら全くだめなので。今は2割前半ですけど、そこはあまり気にせずに、とにかく2番バッターは犠打などがすごく多くなってしまうので、打率はあまり気にしないです。といっても気にしてしまうのですが、やはりもう少し打ちたいとは思います。

――一番はやはり役割を全うした上で、もう少し打ちたいということでしょうか

 そうですね。3割くらい打ちたいです。

――小宮山悟監督(平2教卒=千葉・芝浦工大柏)からかけられた印象に残っている言葉として「力んで打てる訳がない」という言葉を挙げられていましたが、この言葉を選んだ理由を教えてください

 打席に入る前に、たまに(監督に)呼ばれるのですが、その時はほとんどその言葉をかけられていて、力んだら力が入ってバットのヘッドが遅くなるぞと言われるので、監督との会話の部分ではこの言葉が1番印象に残っています。

――昨日は徳武定祐コーチ(昭36商卒=東京・早実)とゆっくりお話をされる機会があったそうですが、どのような話をされたのか教えていただけますか

 徳武さんは早慶六連戦にキャプテンとして出ていて、その経験のお話をいただいたり、あとは優勝するというのをもう一度確認としてお話しされたりしました。

「自分でチームを引っ張るのはもちろん、周りを頼るのが理想」

――では、ここからは早稲田での4年間についてお伺いします。まず、早稲田の野球部に入ろうと思ったきっかけを教えてください

 高校の監督(大阪桐蔭高・西谷浩一監督)から早稲田はどうやとお話をいただいたのですが、早稲田というのは自分の中でパッと思い浮かばなくて。監督が「俺やったら人生をやり直すなら早稲田行きたい」と言っていて、プロに入るより難しいぞみたいなことを確か言われたので、そんなにすごい大学なんやと思って、行きますという決断をしました。

――振り返ってみてどんな4年間でしたか

 いろいろなことがありました。自分の場合は1年から試合に出させてもらっていて、2年3年になってメンバーを外されたこともありましたし、いろいろな経験をさせてもらって、いろいろなことを学びましたし、野球だけじゃなくて人間性の部分でも少し成長できたのかなと思います。

――アンケートでこの4年間を「優勝」という言葉で表していましたが、この言葉を選んだ理由を教えてください

 常に六大学で優勝するということを目指して1年の頃からずっとやってきました。その中で3年間優勝できなくて、4年の最後にやっとそのチャンスがやってきて、優勝するということが自分の1番のやり抜くというところだと思うので、この言葉を選びました。

――刺激を受けた同期の方はいらっしゃいますか

 早川(隆久主将、スポ4=千葉・木更津総合)と瀧澤(虎太朗副将、スポ4=山梨学院)です。2人はしっかり練習しますし、常に自分が打つためとか押さえるためとかということを考えていて、それを目標にしてしっかり練習しているところを自分も見て、しっかりやらないとなという気持ちにさせてくれたので、2人には感謝していますし、刺激になりました。

――4年間を通して印象に残っている試合があれば教えてください

 2年の秋にメンバーから外されて、初めて早慶戦をスタンドから見た時です。勝ち負けは覚えていませんが、とにかくスタンドで見るというのがめちゃめちゃ悔しくて、正直素直に応援できなかったというのがすごく印象に残っています。

――1年間副将を務められてきましたが、副将の理想像はどのようなものですか

 今年に関しては、キャプテンがピッチャーなので少し特殊でした。やはりメインは野手で練習をするので、そこで自分と瀧澤が力を合わせていました。ほぼキャプテンみたいな立ち位置になるので、逆に1人でキャプテンとしてやらずに、瀧澤とか金子(銀佑、教4=東京・早実)とか信頼できるメンバーがいるので、そこにしっかり頼るというか。副キャプテンとして自分でチームを引っ張るのはもちろんですが、周りを頼るというのが副キャプテンとしての理想という考えを1番に持ってやっていました。

――副将としてチームを引っ張る中で、ご自身が意識してきたことを教えてください

 自分に関しては、練習での雰囲気を任されていました。主にキャッチボールとシートノックというのが練習のメインになるので、そこでその前に集合とかするのですが、そこでチームの状況によってかける言葉を変えたりしていた部分があるので、そこは自分が気を使いながらやっていました。

――副将というのはどのようにチームに貢献できると思いますか

 やはりキャプテンがいるので、キャプテンにチームを引っ張ってもらって、それを副キャプテンがサポートするというのが役割です。正直自分が高校でキャプテンの時に副キャプテンの役割がいまいち分からなかったのですが、副キャプテンは大事な役割だなということが最近よく分かってきました。とにかくチームを引っ張ることがキャプテンもそうですが、副キャプテンも大事になるのかなと思います。

――高校では分からなかったけれど、大学に入って副キャプテンが重要だと思うようになった具体的なポイントは何ですか

 キャプテンをやっていた時は、全部自分でやっていた部分があって、終わった時に思ったのは、もう少し周りを頼った方が良かったなというのが高校の時の反省でした。大学で副キャプテンになって、キャプテンはピッチャーなのでというのがあるのですが、そこで副キャプテンが大事だというのがありますし、キャプテンだけでは厳しいなというのも感じたので、キャプテンがピッチャーというところが一番大きいかなと思います。

――キャプテンに頼られる存在になりつつ、他の同期にも頼りながらまとめていくということでしょうか

 そうですね。

――この1年間を振り返ってみて、副将の難しさを感じた経験はありますか

 チームのリーダーって難しいので、副キャプテンだからということではなくて、チームを引っ張るという面で、やはりチームには波というのが絶対にあるので。できるだけ波をなくして、常にいい練習をしなければいけないというプレッシャーもありますし、悪いシートノックとかしたら監督に怒られますし、なるべく怒られないようにというのもチームのリーダーとして考えながら、キャッチーボールも意識しましたし、シートノックも意識していました。やはり思い通りにいかないことが多いので、そこは難しいところだなと思いました。

――主将の早川選手、副将の吉澤選手と瀧澤選手で、それぞれ役割などはあったのでしょうか

 キャプテンは早川で、副キャプテンの自分と瀧澤の役割としては、自分は練習面で引っ張っていくという感じで、瀧澤はやはり試合に強いので、試合で引っ張ってくれるという役割で回していました。

――吉澤選手から見て、早川選手と瀧澤選手はどのような主将、副将ですか

 早川は、背中で示してくれるというか。ピッチャーの中でも1番走っていますし、人一倍練習しているので、その姿を見るだけでもみんな引き締まりますし、緊張感を与えてくれるというのが早川です。瀧澤は、結構大人しい性格なので、人前で話すとか、ミーティングで話をするということはないのですが、その代わりにバッティングとか走塁面での意識の高さでチームを引っ張ってくれているので、やはり瀧澤も役割をしっかり全うしてくれたのではないかと思います。

――ピッチャーとしての早川選手はどんな印象がありますか

 今はやはりすごいじゃないですか、見た通り。でも1〜3年の頃はよく打たれていましたし、途中まで良いピッチングをしていても一発打たれてしまうという部分があったのですが、4年になってそれが見事になくなって。もう飛んでくる気がしないんですよね、あいつが投げていると。それくらいのピッチャーになっているというか、すごく信頼しています。

――キャプテンになって変わったという部分があると思いますか

 自分でも最上級生になったら強いと言っていたので、責任感というか、最後というのもありますし、そういう部分が大きいのではないかと思います。

――ここがすごいというのを挙げるとすると何ですか

 向上心ですかね。いろいろな情報を聞き入れて、自らやるというか。例えば、トレーナーに言われたことを試してみるということはすぐにしますし、うまくなりたいとかもっと速いボール投げたいとかという向上心はすごいところだと思います。

――改善してほしい部分は

 改善してほしい部分はないですが、ルーティンが多いです(笑)。まあルーティンが多いのは自分関係ないんですけど(笑)。

――新体制対談の時に掲げていた「日本一のチームをつくる」という目標に近づけていると感じていますか

 優勝決定戦を目の前にして、今日も練習したのですが、みんなの意識も変わってきましたし、やはりキャッチボールやノックの意識も全然違うので、最初の頃に比べて良くなっているのかなと思います。

「勝利打点をたたき出して、優勝したい」


明大1回戦で適時打を放ち、喜ぶ吉澤

――では、ここから早慶戦についてお伺いします。今季の慶応の印象を教えてください

 負けないというか、きっちり勝ってくるチームだなと感じています。普通にやったら同じレベルくらいの実力の差だと思うので、あとは気持ちかなと感じています。

――慶応で警戒している選手はいらっしゃいますか

 ピッチャーはヤクルト1位の木澤(尚文、慶大4年)です。プロで即戦力で使われるくらいレベルの高いピッチャーですし、普通にやっても多分打てないと思うので、そこは工夫しながら打っていきたいと思います。

――早慶戦を早慶共に無敗で迎えるにあたって、今のチームの雰囲気はいかがですか

 チームの雰囲気はかなり良いのですが、早慶戦が楽しみというかそういうのがチームの雰囲気であって、そこで雰囲気が緩くなってしまったらだめだなと。やはり勝ちにいくという気持ちをもう少し出していかなければと思っています。

――勝利するためにキーマンとなるのは誰だと思いますか

 1、2、3番の4年生(金子、吉澤、瀧澤)じゃないかなと思っています。

――早慶戦ではご自身のどういったところに注目してほしいですか

 最後なので、2試合で自分の全てを出し切るというか、終わった時に動かれへんくらい全部を出し切りたいと思います。

――早慶戦でのチームと個人の目標をそれぞれ教えてください

 個人としては、2試合で4本くらいヒットを打ちたいなと思っていて、その中でも勝利打点をたたき出して、優勝したいなと思っています。チームに関しては、優勝しかないと思っているので、ベンチ入りメンバーだけじゃなくて、スタンドにいるメンバーもそうですし、早稲田のOBもファンも一体となって、慶応を倒すことです。とにかく団結力を持って、チーム一丸となってやっていきたいと思います。

――最後に早慶戦に向けて意気込みをお願いします

 優勝したいので、とにかくみんながしっかり出し切れるように、あと1週間準備したいと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 芦澤りさ)

◆吉澤一翔(よしざわ・かずと)

1998(平10)年5月29日生まれ。172センチ、77キロ。大阪桐蔭高出身。スポーツ科学部4年。内野手。右投右打。1年生の頃から常に勝つことを意識してきた吉澤選手。4年間を表す一言として「優勝」を選ぶところからも、その思いが伝わってきます。「終わった時に動かれへんくらい全部を出し切りたい」。4年間の集大成となる最後の早慶戦、必ず勝利を挙げ、悔いのない最後を飾ってくれるでしょう!