+1だからこそ、できること 東京五輪出場をかけた一発勝負の舞台、日本選手権が中止に。幌村尚(スポ4=兵庫・西脇工)も、ここに照準を合わせていたアスリートの1人だ。部活動も停止になり、およそ2か月間、水から離れることを余儀なくされる。それでも…

+1だからこそ、できること

 東京五輪出場をかけた一発勝負の舞台、日本選手権が中止に。幌村尚(スポ4=兵庫・西脇工)も、ここに照準を合わせていたアスリートの1人だ。部活動も停止になり、およそ2か月間、水から離れることを余儀なくされる。それでも幌村は「自分にできることを」と、オンラインを通じた筋トレなど地道に努力を重ねてきた。7月から早大水泳部の練習に合流している幌村に、この期間を経て感じたこと、そしてこれからの想いを伺った。

泳ぎの正確性に定評がある幌村

 2015年世界ジュニア選手権、男子200メートルバタフライで優勝したことから、五輪出場を本気で目指すようになったという幌村。高校3年生で、リオ五輪の年を迎える。代表権を決める2016年の日本選手権では、3位フィニッシュ。順位とタイム、どちらも届かなかった。一方、当時早大生であった瀬戸大也(平28スポ卒=現ANA)、坂井聖人(平30スポ卒=現SEIKO)が、同種目でリオ五輪の切符を掴んだ。そして坂井は、見事に銀メダルを獲得する。「聖人さんや大也さんの姿をみて、自分も早稲田に行きたいな」と世界で互角に渡り合う彼らの姿を見た幌村は、新たなステージに歩み出す。入学後さらに力をつけた幌村は、2018、2019年の日本学生選手権では、男子200メートルバタフライで、2連覇を果たす。また2018年の日本選手権では同種目で初優勝を飾るなど、五輪への距離を縮めてきた。

2018年には日本選手権で瀬戸らを抑えて初優勝を飾った(右)

 2020年。東京五輪出場を目指す幌村は、2・3月にアメリカでの高地合宿を行い、一生懸命に体を追い込んできた。だが新型コロナウイルスの影響で、東京五輪の延期が決まる。代表権を争う場である、日本選手権は中止に。「また1年後、きついことをやらなければならなければならないのか」と、たくさんの努力を積んでいただけに、ショックもあった幌村。日本選手権中止の決定から、ほどなくした3月末、部活動までもが停止となった。当たり前のように泳げていたことが、当たり前ではなくなってしまった。だが、この期間を「ただ体を動かさない休養期間じゃなくて、練習できた時に向けての体づくり」と、幌村は先を見据えていた。水泳部の仲間と、ZOOMを通じての筋力トレーニングに取り組んだ。それほど体重が変動することなく、自粛期間を乗り越えていくことができた。

 部活動停止及び大学の授業のオンライン化を受けて、地元、兵庫県に帰省していた幌村。再びプールに入ることが実現したのは、6月。実に2か月以上、水から離れていた。競泳選手にとって、長期間プールに入ることができなくなるとは、想像もしていなかった事態だ。幌村も例外ではない。2週間のオフが最長であった幌村にとって、2か月以上という期間は、未知の領域だった。久しぶりの泳ぎを前に、「どんな感じだろうか」とドキドキしていた幌村だが、いざ入ってみると、今までのように水を掻くことはできなかった。それでも「泳げるということは、ありがたいこと」と、水泳ができる環境への感謝を強く感じていた。場所は、かつて通っていた、スイミングスクール。懐かしの地で、歳が10以上離れた小学生と一緒の練習から、再スタートを切った。「ちょっと気まずかったのですが(笑)」という幌村だが、かつて練習を共にしていた仲間との水泳は、楽しい時間だった。

 「1人で泳ぐ時は、がんばってはいても、限界が来たら、そこで終わってしまう。隣で競っていると、限界が来ても、そこからさらに頑張れます!」7月中旬、早大水泳部の練習に合流した幌村は、張り合う仲間の存在のありがたさを感じている。ライバルや仲間から受ける刺激が、幌村を突き動かすパワーになっているのだ。また、早大部活を支えているコーチ、マネジャーに対しても、「サポートしてくれる人と選手がいてこそ、アスリートがスポーツできる」と、支えてくれる彼らに改めて感謝し、日々の練習に取り組んでいる。

2019年日本学生選手権でも仲間に見送られて決勝の舞台へと上がった

 取材を行った7月中旬では、「泳いで1か月以上経ちますが、まだ体力とか全然戻ってきていないので、これから地道な努力をしていかなければならない」と、現状を伝えてくれた幌村。この期間の影響は避けきれない。それでも、水泳の楽しさ、そして仲間の大切さを、改めて強く感じることができた幌村は、「コロナの自粛期間だからこそ、できたこともあった」と前向きに捉えている。今年は早大生としてラストイヤーだ。「最後になるので、4年間の集大成を見せられたら」と、今後のレースを見据えている。その先に、日本選手権、東京五輪が待っている。+1で、さらに成長した幌村が、躍動する瞬間が待ち遠しい。

(記事 樋本岳)