導入は、正解だったようだ。 8月10日に開幕し、17日に閉幕した「2020年 甲子園高校野球交流試合」。今回、出場した…
導入は、正解だったようだ。
8月10日に開幕し、17日に閉幕した「2020年 甲子園高校野球交流試合」。今回、出場した32チーム中14チーム(明徳義塾、天理、創成館、平田、明豊、智弁学園、鹿児島城西、桐生第一、帯広農、健大高崎、日本航空石川、鶴岡東、大阪桐蔭、智弁和歌山)が今春から使用が許可された白スパイクを使用した。

甲子園で初めて白スパイクで登場した明徳義塾ナイン
白スパイクとは、文字どおり白色のスパイクのことで、近年の猛暑による熱中症対策として昨年5月に高野連から使用可能のアナウンスが出された。
甲子園で最初に白スパイクを履いたのは、大会初日の第2試合に登場した明徳義塾だった。導入の理由を馬淵史郎監督は「泥臭い明徳でも(スパイクを)白にしたらスマートに見えるやろ」と冗談を飛ばしたあと、こう言った。
「選手には好評ですよ。聞くと、『熱を感じない。履きやすい』と言うね。素材も違うのか、軽く感じるらしいですよ」
白スパイクの効果については、スポーツメーカーのミズノから「表面温度は20度」「内部温度は10度」も低いという研究結果が発表されている。
はたして、本当にそうなのか。
実際に使用した球児たちに感想を聞くと、「あまり変わらない。気分だけです」(平田/黒田秦司)という意見もあったが、ほとんどが歓迎コメントだった。
「(中村良二)監督に『どっちにするか決めろ』と言われて、キャプテン中心に話し合って、白スパイクに決めました。白スパイクだと熱さが全然違います。足からの熱がないので、風が涼しく感じます。黒スパイクのときは、足がやけどみたいに水ぶくれになったこともありました。とくに人工芝の球場とかはきついですね」(天理/田中勝大)
「独自大会から使用しています。黒スパイクより熱くなりにくいので使いやすいです。軽くて動きやすい感じがします」(創成館/二日一涼介)
練習時から白のスパイクを使用していた帯広農・前田愛都はこう言う。
「熱さが全然違います。黒スパイクは熱すぎて、攻撃中のベンチでときどき脱いでいました。白にしてからはしなくなりました。白スパイク、いいです」
導入初年度の今年から来年は移行時期と位置づけられ、チーム内で黒スパイク選手と白スパイク選手が混在してもいいことになっている。甲子園出場チームは全員統一しているが、独自大会では混在のチームがあった。
甲子園で明徳義塾や天理、大阪桐蔭といった名門校が使用したことで、今後、白スパイクを履く選手、チームが徐々に増えていく可能性はある。
また、白スパイクをきっかけにほかの道具にも変化が表れている。今大会、明豊は白スパイクにしただけでなく、攻撃時のヘルメット、捕手用のヘルメットもこれまでの濃紺から白に変更した。
じつは、これについても黒と白の温度の違いについて、あるメーカーの調査結果が出ている。
ヘルメット/マイナス3度
帽子/マイナス4度
アンダーシャツ/マイナス1度
今夏から白のキャッチャー用のヘルメットを使用した明豊の賀来竜馬は言う。
「これまでは頭が熱くなることがあり、そうなると集中できない。白になってから熱さはなくなりました」
青森の独自大会で白のキャッチャー用ヘルメットを使用した弘前学院聖愛の松平翔もこのように語っていた。
「触っても熱くないですし、これまで(濃紺)は被っていて、湿気がたまるというか、『暑いなぁ』とボーッといた感じになることもあったんですけど、それがなくなりました。熱中症を気にせずにプレーできました」
ヘルメット以外も、やはり色による影響は大きい。岩手・久慈高の柴田護監督は、軽米高の監督時は青の帽子、アンダーシャツだったが、前任の盛岡三高ではユニフォーム、アンダーシャツ、帽子すべてが白。久慈高に来て、白の帽子、エンジのアンダーシャツのユニフォームに袖を通した。
「(盛岡)三高で白のアンダーシャツに慣れていたので、久慈でエンジのアンダーシャツを着たときはびっくりするぐらい暑さを感じました」
自身の経験から、エンジだったアンダーシャツ、ストッキングを白に変更。現在は、帽子からユニフォーム、アンダーシャツ、ストッキングまですべて白にした。
「逆に、もし出られるとしたら、秋の東北大会の時期は寒いので、その時はエンジのアンダーシャツに戻すのもいいですね。とにかく沿岸部の久慈の子は暑さに弱いので、白はいいですね。スパイクも次に買うときは白にしようと言っています」
ちなみに、従来どおり黒スパイクを使用していた中京大中京の高橋源一郎監督はこう語っていた。
「うちはユニフォームの色(ユニフォームは白で、帽子、アンダーシャツは黒)を考えたら、白だとちょっと......というのがありますね。それに黒スパイクのほうが締まって見えるので。温度のことを聞くと、ゆくゆくは(白スパイクの使用を)考えなければいけないかもしれないですけど、今のところ予定はないですね」
見た目以外で問題があるとすれば、コストだろう。明徳義塾の馬淵監督は「練習から白スパイクを履いていると、(汚れて)黒くなってくるんよ」と語っていた。それなら練習用に黒スパイク、試合用に白スパイクと使い分ければいいが、それだと2足買う必要が出てくる。ただでさえ、野球道具は数が多いうえに高額なものが多い。費用の問題で2足は持てないという選手が出てくる可能性はある。
ただ、それも来年までの移行期間で解消されるだろう。入学の時点で「うちの学校は黒スパイクです」「うちは白スパイクです」とわかっていれば、全員が入学時に買い揃えることができる。
黒に比べて汚れやすいのは否めないが、毎日しっかり磨き、手入れさえすれば問題はクリアできるはずだ。それよりも10度も熱さが軽減されることを考えれば、白スパイクは「あり」と言えるだろう。
今夏も全国各地で酷暑が続き、今年から関東甲信越で試行された熱中症警戒アラートは連日発令されている。少しでも球児の体への負担を軽減するためにも白スパイクはもちろん、ヘルメット、アンダーシャツを白にするチームは、今後増えてくるかもしれない。