写真提供:多村仁志

-Global Baseball Bizの記事一覧はこちら-

 今回は、元プロ野球選手の多村仁志さんにお話を伺った。現在は日本プロ野球はもちろんのこと、メジャーリーグの試合解説も多く務め、2019年のMLBワールドシリーズは全試合を通して解説を担当している。

■野球を始めたきっかけはメジャーに対する憧れ

 多村さんが野球を始めたのは、兄の影響もあったが、父親に観せられたメジャーリーグのビデオがきっかけだった。当時深夜や早朝に放送されていたメジャーの試合放送を録画してくれていたのだという。

「(映像を観て)まず『かっこいいな』と思って、そこから始まったんです。幼少期から日本の野球よりメジャーの方に興味を持って小・中・高校と過ごしてきました。プレースタイルも影響を受けていて……もちろん基本も練習していましたが、バックハンドで捕ったり下から投げたりとかをやっていた子どもでした。周りにはそういう子どもはいなかったので、珍しがられていましたね」

 自宅の庭で兄と野球をやるときも、当時のメジャーの選手の名前を言い合ってプレーの真似をしたそうだ。そんな多村さんが当時憧れていたのは、あの名手の偉大な記録を阻止した選手だった。

#OTD 20 years ago, infielder Jay Bell signed with the #Dbacks to become the club's first Major League player. #DbacksMemories pic.twitter.com/gCcocUKYJ9

— Arizona Diamondbacks (@Dbacks) November 18, 2017

「当時ピッツバーグ・パイレーツにベル(ジェイ・ベル)というショートストップの選手がいて、その選手の映像を父親から観せてもらったとき、ひと目でファンになったんです。その時は成績などのデータは見ていなかったんですが、ただ格好良くて、同じポジションをやっていたということもあって憧れていました」

 打撃ももちろんだが、華のある守備に惹かれていたのだという。自身もショートをやっていたことから、同じポジションのベルのファインプレーの映像を観てはテンションを上げ、グラブとボールを持って家の外へ出る。プレーの真似をしながら壁当てをして過ごした子供時代だった。

「自分がプロ野球選手になってから、そういえばあの選手はどんな成績を残していたんだろうと思って調べてみたことがあったんです。そこでベルが名手オジー・スミスの13年連続受賞中だったゴールドグラブ賞を阻止したということを知って、子どもの頃に直感で好きになった選手の実力が本物だったんだなと。自分の”見る目”は間違っていなかったと思いました(笑)」

■メジャーリーガーと向き合って感じたこと

 後にプロ野球選手としてキャリアをスタートさせた多村さんは、その実力と活躍から、2004年開催の日米野球の代表選手として選出される。憧れていたメジャーリーガーと直接対決する機会を得たのだ。

【写真提供:共同通信社】日米野球第1戦 1回米選抜2死、空振り三振に倒れるラミレス(レッドソックス)。投手上原(巨人)=東京ドーム

2004年日米野球のMLBオールスターといえば、ロジャー・クレメンス、ジェイク・ピービー、マニー・ラミレス、デビッド・オルティーズ、ミゲル・カブレラなど、錚々たる顔ぶれが揃っていた。

「オフシーズンではありましたが、メジャーリーガーと対戦して、プレーも間近で観て。それまではただ観ているだけの世界でしたが……ホームランダービーで実際に対決したら勝ったので、もしかしたら、という気持ちも少し芽生えましたね。自分もメジャーリーガーに近づいたのかなと思える瞬間はありました。

その翌々年の2006年にはWBCがあって、実際にメジャーの球場でやれたというのも大きかったです。子どものころから向こうに憧れていた自分からしたら最高の出来事でしたね」

■野球とベースボールの違い

 現役時代は、外国人選手と一緒にプレーする中で日米の野球の違いを感じることもあったという。

「ロバート・ローズがベイスターズにいたときに、僕もセカンドを少しやっていたんですが、彼からは『ボールは逆シングルで捕れ』と言われました。僕はメジャーをずっと観ていたので意図を理解出来ましたが、当時日本にはこういうプレースタイルは浸透していませんでした。今は少しずつ増えてきたんじゃないでしょうか」

【写真提供:共同通信社】横浜―巨人15  横浜―巨人 1回裏横浜無死一、三塁、ローズが中越えに3試合連続の本塁打を放つ。捕手村田真=横浜

 ステップを省略しハンドリング次第で素早く送球動作に移れる、というのが逆シングルで捕る理由だ。一秒でも速くアウトにするためには効率の良い動作が望まれる。日本のいわゆるゴロ捕球の基本動作とはかけ離れているが、かと言って日本が劣っているわけでもない。効率の良さを追求しているだけであって、そもそもの野球のアプローチの仕方に違いがあるのだ。

その違いを知ってもらうためにも、解説時に心掛けていることがあるという。

「野球はアメリカが発祥のスポーツなので、メジャーの文化やトレンドを日本でももう少し浸透してほしいなという気持ちを持って話しているときはあります。言葉のチョイスにしても、例えば内角高めのボールを『ハイファストボール』『インハイ高め』と言い換えて二回言えば、(視聴者に)こういう言い方があるのかと知ってもらうことができますよね。

【写真提供:多村仁志】

馴染みがなさ過ぎて通用しない言い回しはさすがに使いませんが、球種の表現は積極的に使っていますよ。カーブにしても、”パワーカーブ”や”スパイクカーブ”、普通のカーブを”レギュラーカーブ”と呼んだり。近年は視聴者の方の野球に対するレベルも上がっているので、それに合わせるのではなくこちらが先陣を切ってやっていくくらいじゃないと面白くないですから」

■活きたメジャー知識を持つ多村さんが注目するWBSCプレミア12出場選手とは

 多村さんはメジャー球団のキャンプやMLBオールスターゲームなどの海外現地取材にも積極的に足を運んでおり、国際大会に関しても同様に高い関心を抱いている。今回のWBSCプレミア12のアメリカ代表は、2大会連続で現役メジャーリーガーの参加は見送られたが、次世代のメジャーを担う有望若手選手が多く選出された。その中に注目選手がいるという。

「アメリカ代表選手の中でも、注目株はジョー・アデル(ロサンゼルス・エンゼルス)です。エンゼルスのプロスペクト選手です。今年のオールスター・フューチャーゲームの際にインタビューをしたんですが、まだ20歳と若く優秀で、とてもきれいな目をした選手でしたね」

【写真提供:多村仁志】

 幼少期にジェイ・ベルのプレーに一目惚れしたというその目に狂いはないはずだ。WBSCプレミア12はぜひこの選手の活躍に注目してみてほしい。また、多村さんの試合解説時はぜひ用語にも注目して視聴してみてはいかがだろうか。知見が広がることで、また少し野球を見る楽しさも増えることだろう。

文:戸嶋ルミ