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 プロ、アマを問わず野球界にかかわるさまざまな人々にスポットを当てる連載。今回は、前回に引き続き前慶應義塾高等学校野球部監督で、現在は神奈川県学童野球指導者セミナー代表として野球人口普及活動に励む上田誠氏を取り上げる。後編では、野球人口普及の活動内容を含め、野球界に対する思いを語ってもらった。

■野球人気にあぐらをかいてきたツケが回ってきた

──ここ10年で高校の野球部員数が3万人以上、中学校にいたっては14万人以上と、野球をプレーする子どもたちが減少しています。この現状をどのように見ていますか?

上田 本当に危機的な状況だと思います。今の子どもたちは二極化が進んでいて、やらないと決めたら絶対にやらない。昔は、野球部に入っているけど、友だちとバンドもやっていますという子などもいました。でも今は、バンドをやる子はバンドだけ。複数のことをやろうとはしません。

 あと、坊主頭が嫌だから野球をしないという話も聞きます。これは高校に限らず、中学、少年野球の現場からも聞こえてくる話です。いろいろ原因はありますが、野球界全体が人気にあぐらをかいてきたツケが回ってきているともいえるでしょうね。

──昔の風習に固執しているのも野球減少の要因になっているわけですね。

上田 野球の場合、統括する団体が多すぎるのも新しいことができない一つの理由だと思います。アマチュアだけでもいくつもの連盟があり、独自で動いているので統一感がないんです。だから、新潟の高野連が球数制限を導入しようとしたときに、ストップがかかるということも起きてしまう。組織が統一されていないと、新しいことをやるにもなかなか前に進まないんです。

■球数制限だけでなく試合日程も改革すべき

──高校野球の球数制限は近年いろいろと議論されていますが、今年は、岩手・大船渡高校の佐々木朗希選手が決勝戦で登板しなかったことをきっかけに、日程の問題も話題になっていますが。

上田 球数制限だけでなく日程についても、改革しなければいけない時期だと思います。夏の予選は都道府県で出場校数に大きな違いがあっても、開催時期はほぼ横並び。出場校が少ない地域はいいですが、神奈川のように180近い学校が出場すると、雨で予定が変更になったら8日間で5試合という過密スケジュールになるわけです。

 しかも、7月中旬から下旬の暑い時期に。気温も昔とは違っていますから、今の選手は本当に大変だと思います。だから、出場校数の多い地域は、6月ぐらいに開幕して7月下旬に決勝と長いスパンでやればいい。そうすれば、監督も選手のケアも含めて起用法もいろいろと変わってくるはずです。

──ちなみに、高校野球監督の経験者として、決勝戦で佐々木選手を登板させなかったことについてはどう思われましたか。

上田 当事者ではないのでなんとも言えません。でも、勇気ある決断をしたと思いますよ。結果として今までと違うことをやってたわけですから。

■多くの子どもたちに野球の楽しさを伝えたい

──現在、教師を続けながら「神奈川県学童野球指導者セミナー」の代表として野球の普及に取り組んでおられますが、どのような活動が中心になりますでしょうか。

上田 SNSを使っての情報発信に、筑波大学の川村卓教授や北海道日本ハムファイターズでスカウト部長をされている大渕隆さんなどとも協力して、野球人口を増やす施策に取り組んでいます。川村教授が考案した「並びっ子ベースボール」を子どもたちに経験させるなど、まずは、野球が楽しいスポーツなんだと思ってもらえるようにすることが、今の大きな役目だと思っています。

──純粋な楽しさを伝えれば、子どもたちも興味をもってくれますもんね。

上田 野球を好きにさせるというのは、高校で監督をやっているときから、自分の役割だと思っていました。一人でも多くの生徒が野球を好きになってくれれば、将来その生徒が親になったときに、子どもに野球をやらせようと思うじゃないですか。

 僕自身、野球が大好きなおじいちゃんに球場に連れて行ってもらって、ナイター照明で照らされた芝がきれいだなって思ったのが、野球を始めるきっかけでしたから。だから、今は指導者としてではなく、一歩引いた立場で、野球人口を増やしていきたいと思っています。

▼プロフィール
上田誠/1958年、東京都生まれ。1991年秋に慶應義塾高校の監督に就任。
“ エンジョイ・ベースボール” を掲げ、春夏合わせて4度の甲子園出場。
2015年の夏の大会を最後に、監督を勇退。その後は、野球人口減少問題に取り組み、神奈川県学童野球指導者セミナーを設立し、さまざまな事業を展開している。
2019年6月には、日本高野連から育成功労賞が贈られた。

取材・文/松野友克