サッカースターの技術・戦術解剖
第12回 セルヒオ・アグエロ

<ボックスの王>

 セルヒオ・アグエロ(マンチェスター・シティ/アルゼンチン)は身長173cmと小柄だが、ボックス(ペナルティーエリア)内で勝負するストライカーは、むしろ小柄なタイプが多いかもしれない。



マンチェスター・シティでゴールを取りつづけるアグエロ

 空中戦が得点源というタイプは高身長だが、それよりも小柄で俊敏なFWのほうが得点を量産している印象がある。史上トップクラスのゴールゲッターであるゲルト・ミュラー(当時西ドイツ)とロマーリオ(ブラジル)は、共に小柄だった。

 小さなストライカーの武器は速さだ。30mを走れば決して速いほうではないが、スタートは速い。初速の2、3歩が速いのが特徴である。そして足が短い。体幹が強い。O脚も共通点だ。ただ、こうした外見上の特徴よりも、得点力の秘訣はもっと見えにくいところに隠されているようだ。

 優れたゴールゲッターはシュートがうまい。ただ、シュートがうまいのはキックのうまさとイコールではない。もちろんキックもうまいのだが、パスとシュートは違うところがあるのだ。たとえば、パスのターゲットになる味方は動いていることが多いが、シュートのターゲットであるゴールは動かない。もう1つ、シュートの場合、相手はフィールドプレーヤーだけでなく、GKがいる。

 相手のDFとGKとゴール。優れたゴールゲッターは、少なくともこの3つを常にイメージできる。イメージと書いたのは、必ずしも目視する必要はないからだ。実際、ゴール前のごく限られた時間でシュートするので、多くのケースでゴールゲッターはGKもDFも見ておらず、ゴールも見ていない。シュートの瞬間にゴール、GK、DFが目視していなくても把握できること。つまり、イメージできることが決め手になる。

 とくにボックス内でシュートするタイプのFWは、シュートの瞬間に顔を上げる動作をほとんどのケースでしていない。ボールに集中して、蹴るべきポイントを蹴る。ボックス内からのシュートの場合、ゴールは見なくても間接視野でとらえることは可能だが、アグエロのように自分がボックス内のどこにいるかを俯瞰的にとらえるのは簡単ではない。

 バスケットボールの選手もリンクの位置を感覚的にとらえているという。サッカーの場合、ゴールエリアのラインは1つの位置情報になる。フラメンゴでプレーしていた頃のジーコは、ゴール裏で撮影しているカメラマンの位置から自分のいる場所を割り出していたそうだ。そのため、カメラマンには常に赤いシャツを来て、同じ場所で撮影するように頼んでいたという。ボックスの王にとって、位置感覚が重要な能力であることがわかるエピソードだ。

<イメージと記憶でゴールする>

 位置感覚があるとしても、どこへどんなシュートをするべきかは、イメージに左右される。ターゲットはゴールの枠内と決まっている。基本はゴールの四隅だ。4つのポイントのどこを狙うかは、GKがどこを塞いでいるかをイメージすること。

 アグエロは、どうも自分とボールの関係からGKの位置を把握できているように見える。シュートの瞬間の感覚でGKはここにいるとわかっている。自分とボールの関係だけでシュートしておらず、その時の感覚にGKが入っているようなのだ。ニアサイドの上を打ち抜く、ファーサイドへ低く流し込む、どれもない時はGKの足の間を狙う……。ただ打つだけでなく、シュートが入るイメージで蹴っている。だからシュートの成功率が高い。

 しかし、シュートがうまいだけでも得点は取れない。シュートするチャンスをつかまなければならない。当たり前だが、たくさん得点する選手はたくさんシュートも打っている。

 ゴール前は一種のカオスで、偶発的なことも頻発する。最初にパスを受けようとしたタイミングでボールが来なければ、すぐに次のチャンスを探さなければならない。動きと思考の連続性が問われる。

 人はじつのところ考える前に行動するそうで、とくにゴール前では考えるより先に体が動いているタイプが強い。アグエロは動きが俊敏なだけでなく、状況に応じて動き直すのも早い。常にDFの逆を取りつづけて一瞬でもフリーになるチャンスをつくりつづける。こうした動きの連続性は習慣であり、経験または記憶でつくられている。勝手に体が動いているというレベルである。

 子どものころからの習慣になっているところもあるだろうが、アグエロの場合はそうでもないらしい。アトレティコ・マドリードでプレーした時(06-11年)のアグエロは、当時のハビエル・アギーレ監督によると「ボールが来るまでは全然動かなかった」と言うから、ゴール前で足を止めない連続性は、トレーニングで勝ちとったものなのかもしれない。

 1974年西ドイツW杯の決勝で決勝ゴールをゲットしたゲルト・ミュラーは、その時に右からのグラウンダーのクロスを体の後方へ止めている。右後方へ止めてから、ステップバックして得意の反転シュート。ボールはタックルしたDFの足の間を抜け、ファーポストへコロコロと転がりながらゴールインしているが、ミュラーはシュートしたあとにボールを見ていない。すでに喜んでいた。

「あそこしかなかった」

 後年、本人にあの後方へ置いたトラップについて聞いたらそう言っていたが、すぐに言い直してもいた。

「いや、止めたらあそこだった」

 やはり思考より行動のほうが早いのだ。そしてDFとGKの動きをイメージできていて、ゴールの四隅がどこにあり、どこへ蹴れば入るかがわかっている。あの一発はまさにゴールゲッターの天分が集約されていて、ロマーリオやアグエロのゴールシーンにも頻繁に感じられるものでもある。