Never give up! 
日本フィギュアスケート2019-2020総集編(4)

 カナダのモントリオールで開催予定だった世界フィギュアスケート選手権が、新型コロナウイルスの影響で中止になり、2019-2020シーズンが終了。今季も氷上で熱戦を繰り広げた日本人スケーターたちの活躍を振り返る。

 今シーズン、コーチ不在でスタートした宇野昌磨。結果も内容も悪く、非常に苦しみながらも、最後は復活。スケートを楽しむ境地を得た。その心の変化をつづる。



今シーズンは全日本選手権で4連覇を達成した宇野昌磨

 2019年12月の全日本選手権で、宇野昌磨(22歳)は4連覇を飾っている。2019-20シーズン、コーチ不在による不調が伝えられていたが、全日本に臨む宇野の表情は晴れやかだった。そして喜びに満ちた様子のまま、ショートプログラム(SP)で2位につけ、フリーでは1位と、鮮やかな逆転優勝を勝ち取ったのだ。

「(復活に)秘訣は一切ありませんよ」

 ステファン・ランビエルコーチは、静かだが明瞭な口調で言った。ランビエルは全日本開催時点で宇野の正式なコーチではなく、臨時だったが、2カ月足らずで復調に導いていた。

「(宇野)昌磨は、(全日本のSP、フリー)2つのプログラムを楽しんで演じていました。ジャンプだけでなく、ほかの技術点の部分などすべてそうで。アグレッシブな姿勢で滑ってくれたことを、コーチとしてうれしく思います。彼はスケートを楽しめる。厳しい練習の中でも、楽しさを感じられるのです」

 流ちょうな英語でそう答えるランビエルは、Enjoy(楽しむ)という単語を強調していた。そして、Confidence(自信)という言葉も使った。

「私はラッキーでした。昌磨の周りにいる人々が、コーチとして仕事をするための環境をつくってくれたのです。そのおかげで、短い時間で成果を出せました。昌磨が自信を取り戻す、そのためのトレーニングが十分にできるようになった。それが(優勝に至った)真実です」

 ランビエルは、宇野がリンクで自信を取り戻し、滑ることを楽しめるようになれば、自ずと結果は出ると信じていた。たとえ全日本で順位が悪くても、復活の足掛かりになるはずだと。その信頼は、宇野の不安を打ち払った。彼なくして、この復活劇はない。

 しかし、あくまで主役は宇野だ。

「ステファン(・ランビエル)のおかげで楽しめるようになりました」

 宇野はこともなげに言う。しかし、楽しむことは楽をすることではない。むしろ、厳しさと対峙することだ。

 宇野昌磨、22歳の全日本王者の実像とは--。

 2019-20シーズン、宇野は苦しみ抜いている。コーチ不在でスタートせざるを得なくなって、自分の滑りを狂わせていった。練習でも迷いが増幅し、ジャンプが決まらなくなっていた。

 そしてグランプリシリーズ初戦、フランス杯でジャンプの転倒が相次ぎ、8位に低迷。シニア転向後、最低の結果だった。グランプリファイナル出場の望みも事実上、消えた。

 最悪の時期だが、宇野は全日本の優勝会見で当時をこう振り返っている。

「フランス杯が終わって、(スイスでランビエルの指導を受けるようになり)気持ちが一つ切り替わったと思います。あれだけぼろぼろのフリーを経験することで、勝手に背負っていたものが下りたというか。つらい演技だったけど、あのつらいフランスがあってよかった。それがあったから今ここにいられると思っています」

 自らが背負った”常勝の重荷”に、心が潰されそうだったという。

「平昌(五輪)が終わって、自分も”もっとアスリートらしくしなくては”と思うようになりました。強く、もっと強くなってオリンピックで(優勝を)って。でも、思った以上に結果そのものを背負ってしまった。自分の場合、やっぱりスケートを楽しみたい、と思ったんです。僕はそこまで(結果に)厳しくはなれない。それはアスリートとしての自覚がない、と言われるかもしれないですけど、自分は(リンクで)楽しみたいんだって思ったんです」

 それは誠実な告白だった。

 昨シーズンは勝利への執念を見せ、全日本ではケガを押して挑み、見事に優勝を果たした。それは一つのドラマだった。誰にでもつくり出せるものではない。しかし、心身ともに摩耗していた。そこで新コーチを探す必然性を感じ、前に歩みを進めたが、苦境に立たされることになった。

「あきらめなくてよかったです」

 宇野は、そう洩らしている。

「スケートをやっていて、つらい、と思うことがいちばん多いシーズンで。うれしさが苦しさに代わっていました。頑張らないと、やらなきゃ、で自分を(追い込んで)見失ってしまった。(全日本に向けては)楽しく練習できて。(本番でも)失敗を失敗と思わず、演技をやり続けられたのがよかったと思います。ミスを引きずらず、最小限に抑えられました。スケートをやってきてよかったな、と」

 彼は苦難を乗り越えることによって、楽しむ境地を得た。それが劇的な復活の中身だろう。無心でスケートを楽しむ--。それが新しい時代の王者の流儀だ。

「つい最近まで、僕はあっち側にいたんですが」

 全日本での優勝会見、宇野は3位に入った6歳年下の鍵山優真へ目線をやりながら言った。

「男子も、(ジュニアに)すごくうまい子が出てきているので。自分も、一緒にうまくなっていきたいです。追われるだけでなくて…僕もまだ22歳なので、もっと上を目指し、成長していきたいです」

 宇野は、どこまで高く舞うことができるのか。



宇野は苦難を乗り越えて、スケートを楽しむ境地を得た

 全日本後にランビエルコーチは、大会では回避した4回転サルコウや大技トリプルアクセル+4回転トーループの連続ジャンプの投入も示唆していた。そして今年2月、宇野はオランダでのチャレンジカップで4回転サルコウを着氷し、優勝している。可能性は広がるばかりだ。

「世界で1位になりたい、と気負うのではなくて。楽しめそうだなぁ、という気持ちを大事に。練習から臨みたいです」

 喜色にあふれた宇野が、氷の世界で人々を楽しませる。

【2019-2020シーズンの主な成績】
■フィンランディアトロフィー(255.23/1位)
■フランス杯(215.84/8位)
■ロステレコム杯(252.24/4位)
■全日本選手権(290.57/1位)
■チャレンジカップ(290.41/1位)