~第26回目~ 菊池教泰さん(きくち・のりやす)さん/40歳 柔道選手→会社経営(デクブリール) 取材・文/奥田高大 ※スポーツ庁委託事業「スポーツキャリアサポート戦略における{アスリートと企業等とのマッチング支援}」の取材にご協力いた…

~第26回目~
菊池教泰さん(きくち・のりやす)さん/40歳
柔道選手→会社経営(デクブリール)

取材・文/奥田高大

※スポーツ庁委託事業「スポーツキャリアサポート戦略における{アスリートと企業等とのマッチング支援}」の取材にご協力いただきました。

中央大学3年生のときに、全日本学生柔道優勝大会優勝などの成績を残し、卒業後は柔道の名門JRA日本中央競馬会に入会(入社)。2005年に選手を引退し、職員として働き続けた菊池さんだが、メンタルを崩してしまい、05年12月にJRAを退会(退社)することになってしまった。

将来を期待されたエリート実業団の選手から一転、仕事も目標も失ってしまった。だが、その後体調が回復し、会社員として働いていたころに、また新たな出会いが訪れた。それは、知り合いを通じて知った米国コーチング界の祖として知られるルー・タイスさんの教えだった。その教えに感銘を受け“自分は人と組織の可能性を最大化させるような教育の道に進みたい”と強く感じたという。

「大学時代にメンタルトレーニングを勉強してきたつもりでしたが、”なぜ自分はメンタルを壊してしまったのか?”、ずっと分からなかった。でも、タイスさんを通じて科学的なことを勉強することで、少し理解できたような気がしたんです」

この出会いをきっかけに、さまざまな体験や書籍を通じて知見を重ね、組織作りに悩むリーダーをサポートする『株式会社デクブリール』を09年に設立。

会社が軌道にのるまでに時間もかかったが、少しずつ実績を重ねていき、現在は企業対象の組織変革コンサルティングを中心に、スポーツ指導者や選手への研修・コーチングなどを実施。

また部活動等、スポーツチームのガバナンス構築を目指す一般社団法人日本スポーツチームアセスメント協会(JSTAA/ジェスター)を設立。代表理事に就任するなど、ビジネスとスポーツの世界をまたいで活躍している。 柔道選手としての目標は失ったものの、引退後、競技以上に情熱を傾けられるものを見つけることができた菊池さん。自身の経験から、アスリートは3つのタイミングでセカンドキャリアを考えるべきだという。

「セカンドキャリアについて考える時期を“現役中”、“引退間近”、“引退後”の3つに分けています。まず“現役中”は、自分は何が好きなのか、どんなことに興味があるのかを知っておく。食べることでも、もの作りでも、遊びでも何でもいいんです。競技に打ち込んでいるときに、将来の仕事について考えるのは難しい。だから、自身が好きなこと、興味のあることを把握し、情報のアンテナを立てておく。

思い起こせば、私は自分なりに考えて試し、上手くいったことを理論化していくようなプロセスが好きでしたし、JRAでは人事の面白さを知ることができた。こうしたことが今の仕事につながっているといえます」

2番目の“引退間近”では、視野を広げることに注力する。

「これまで自分がいた“スポーツ界”を飛び出して、いろいろな人と会い、自分の世界を広げること。次に情熱を傾けられるものの選択肢を増やすための行動をはじめる。人は、自分に知識がないものは無意識のうちに見逃してしまうもの。だから、この時期にいろいろな人と会って話を聞き、スポーツ以外にもたくさんの世界、選択肢があることを知ってもらいたい」

そして3番目の“引退後”では、常に『ゴールを再設定』し、自身の可能性を広げ続ける。

「私の専門である認知科学コーチングの観点からも”感情”はとても大切です。“ワクワクする!”といった、ポジティブな強い感情が乗るようなゴールを設定し、達成が近づいてきたら『ゴールを再設定』する。人間はゴールが近づくと、エネルギーが落ちてしまうという習性があります。自身の感情を注視し、再設定を繰り返すことで、可能性を広げ続ける事ができます。

そして、引退後のアスリートのエネルギーをビジネス界に転化することで、日本経済の底上げにもつながると確信しています」

一方で、これからの競技団体や指導者にも取り組んで欲しいことがあるという。

「実際、現役時代は競技のことしか考えられない選手がほとんどだと思います。その人たちが次の世界に進もうとした際、競技団体や指導者の世界観が、選手たちの未来に直結します。だからこそ競技団体や指導者のみなさんが、ビジネスの世界の方と常に交流して情報交換することで、選手たちの引退後の可能性が広がると思います。企業もスポーツも人の集まりが組織である以上、本質的には変わりません。

これは、私が企業とスポーツの現場、両方で活動しているからこそ断言できます。スポーツとビジネスが、本質的には同じものであることを伝える“架け橋”になりたいと思っています」

競技に打ち込んできたアスリートだからこそ、現役時代が人生のピークであってほしくない。それが菊池さんの願いだ。

【プロフィール】
菊池教泰さん(きくち・のりやす)
1980年3月生まれ、北海道出身。中央大学3年のときに全日本学生柔道優勝大会優勝などの成績を残し、卒業後は柔道の名門JRA日本中央競馬会に入会(入社)。2005年に退会(退社)し、09年に株式会社デクブリールを設立。19年には一般社団法人日本スポーツチームアセスメント協会(JSTAA/ジェスター)を設立し、代表理事を務める。

※データは2020年3月10日時点