宮司愛海連載:『Manami Memo』第12回

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フジテレビの人気スポーツニュース番組『S-PARK』とweb Sportivaのコラボ企画として始まった宮司愛海アナの連載『Manami Memo』。今回は、番組で同じくメインキャスターを務める中村光宏アナと一緒に先日行なわれた「四大陸フィギュアスケート選手権 2020」について語ってもらいます。



『S-PARK』で見事な掛け合いを見せる宮司アナと中村アナ

宮司 今回は、2月上旬に韓国で行なわれた四大陸フィギュアスケート選手権の取材後記をお届けします。私はいつも中村先輩のことを『ミツさん』と呼んでいるので、今回もミツさんで進めていきたいと思います。ミツさん、よろしくお願いします。

中村 あれ? 前回の西岡(孝洋)さんとの対談を読んだけど、扱いが雑じゃない?(笑)

宮司 いやいや。あれはもう大先輩からお話を伺える貴重な機会でしたので。

中村 なんか、いつも僕への扱いが軽いんだよなぁ、宮司は。7歳も下なのに(笑)。

宮司 そんなことないですよ(笑)。それでは、さっそく始めますけど、ミツさんはフィギュアでは女子の実況を担当していますが、今回の四大陸選手権にはどんな感想を持っていますか?

中村 日本女子フィギュア界のターニングポイントになった大会だと思うよ。順位だけを見れば、紀平梨花選手が優勝、樋口新葉選手が4位、坂本花織選手が5位。だけど、この大会が契機になって、来季は日本女子選手のジャンプの高難度化が加速していくことになると思うな。

宮司 この大会では樋口選手がトリプルアクセルに、坂本選手が4回転トウループにチャレンジしました。ほかの日本選手たちも刺激を受けたでしょうね。

中村 間違いないよね。この大会では回避したけれど、紀平選手の4回転サルコウ、樋口選手のトリプルアクセルへの挑戦は事前に報道されていたよね。でも、そこに加えて、坂本選手が4回転トウループにチャレンジした。これには驚かされた。

宮司 一気に2022年の北京冬季五輪に向けて、照準を合わせてきた感じを受けました。

中村 それもあるし、アレクサンドラ・トゥルソワ、アンナ・シェルバコワ、アリョ-ナ・コストルナヤという『ロシア3強』への意識もあるよね。ただ、坂本選手、樋口選手、紀平選手にとっての四大陸選手権の意味合いには、それぞれ違いがあったと思っているんだ。

宮司 坂本選手にとっての意味合いというのは?

中村 彼女にとって今シーズン最後の国際大会で、新たな挑戦をした。これは来季を考えれば大きな経験になると思う。プログラムに4回転トウループの大技が入るだけで、選手が感じるプレッシャーや緊張感は増えるし、体力的な部分や神経の使い方でも大きな変化はあるはず。そこを大会で感じ取れたのが収穫だと思う。ただ、坂本選手は4回転トウループに挑むより先に、トリプルアクセルをやるんだと勝手に思っていたから、このチャレンジは驚いたなあ。

宮司 坂本選手のダブルアクセルのジャンプの高さを考えれば、1回転増やす方が現実的なのかなと思いますもんね。

中村 そうでしょ。僕は紀平選手の次にトリプルアクセルをプログラムに入れるのは坂本選手だと思っていたのだけど、ジャンプとはそういうものではないらしい。前向きにジャンプして、後ろ向き着氷するアクセルは決めるのが難しくて、それよりは後ろ向きで飛び出して後ろ向きで着氷するジャンプの方が坂本選手は身体を締めやすいそうなんだ。しかも、4回転トウループを本格的にプログラムに入れようと考えたのが、今年になってからなんだって。

宮司 そうなんですよね。坂本選手が「八戸国体2020の数日前に初めて飛んでみた」と話していましたし、坂本選手を担当している中野園子コーチは「北京(五輪)までに4回転とトリプルアクセルを入れる」とコメントされていて。

中村 坂本選手への楽しみはもちろんだけど、彼女の挑戦がほかの選手にどんな影響をもたらすのかも楽しみだよね。

宮司 坂本選手にとっても、今シーズンは調子が上がらずに苦しみましたけど、来シーズンに向けての明るい材料を手にできたように感じています。

中村 今シーズンは表彰台にはほとんど乗ってないんだよね。シーズン序盤のスロバキアでの大会で2位になったけど、GPシリーズはアメリカ大会とフランス大会に出場してどちらも4位。全日本選手権は6位で、四大陸選手権が5位。個人的な見解だけど、やっぱり三原舞依選手が今シーズンは体調不良で不在だったのも影響したと思う。

宮司 今シーズンの坂本選手は練習段階から「身が入らなくて……」とよく言っていて。やっぱり練習パートナーの存在は大きいですよね。その三原選手も氷の上で滑り始めたという話ですから、大会で早く元気な姿を見たいですよね。

中村 そうだね。来季はまた大舞台に強い坂本選手の姿が見られると期待しています。

宮司 4位になった樋口選手はどうでしたか? 四大陸選手権では、6分間練習のときにトリプルアクセルをクリーンに着氷しました。それまでの大会では両足での着氷が続いていたので、流れをひとつ変えたかなと思うんです。6分間練習だったけど、あの興奮はすごかった。

中村 あれは自分史上、6分間練習で一番興奮した瞬間だった。着氷したシーンって中継でもちゃんと映っていたのかな?

宮司 オンエアされていたと思います。

中村 日本の3選手と韓国のユ・ヨン選手(四大陸選手権2位)がいて、あれだけ激しい6分間練習だったんだよ。世界選手権ではそこにロシア勢が加わるのだから、どうなっちゃうのか。

宮司 あっちで3回転、こっちで4回転。目で追うだけでも大変になるでしょうね。樋口選手が演技後の囲み取材のときに、6分間練習でトリプルアクセルに成功したことについて、「世界選手権につながる。アドレナリンが出ているなかで成功させる。その気持ちを踏まえて練習から調整したいと思った」と話していたんですよ。世界選手権では本番でも成功させてくれるんじゃないかって期待しているんです。

中村 四大陸選手権の本番では失敗したけど、成功への手応えを一番つかんだ選手だよね。回転数は足りていたから。プログラムに入れてチャレンジしたからこそ、6分間練習でトリプルアクセルの成功も生まれた。樋口選手は3年前の大会でかなり悔しい思いをしただけに、今回の手応えを世界選手権で花開かせてもらいたいな。

宮司 3年前の四大陸選手権って9位に終わって泣いてしまった時ですか?

中村 そう。2016-17シーズンは、彼女にとってシニアデビューしたシーズンで、あの時の四大陸は、まわりの雰囲気に飲まれて圧倒されてしまったと話していた。そこがあって、今回はメンタル的な成長をしっかり見せてくれた。何がすごいって、トリプルアクセルに挑戦して失敗した後の3回転ルッツ-3回転トウループを綺麗に決めた。彼女は大技をひとつ組み入れるだけではなく、そこで失敗しても崩れないようにと、練習のときからずっと意識を持っていたんだよね。だから、すぐに気持ちを切り替えられた。取材してつかんだ秘密情報があるんだ。知りたい?

宮司 おっ!?  本当ですか? 言っていいんですか?

中村 ……隠した方がいいかな?

宮司 そこまで言ったら気になるじゃないですか。怒られる時はミツさんなので、教えて下さい(笑)。

中村 樋口選手がやろうとしている4回転は、トウでもサルコウでもなく、ルッツ。

宮司 へえ!

中村 ルッツがもっとも高く飛べるんだって。トウループは3回転で2回使いたいから残しておきたいっていうのもあるそうなんだ。

宮司 なるほど。でも、サルコウじゃなく、男子でも難しいと言われるルッツだなんて、すごいですね。

中村 でしょ! トリプルアクセルで大技へのチャレンジの流れも掴んでいるから、4回転ルッツをプログラムに入れる日も遠くないと思う。どんどん希望が膨らむよ。

宮司 いまはロシア勢3人のうち、トルソワ選手と、シェルバコワ選手も4回転ルッツを飛びますが、日本人選手もどんどん成功させてもらいたいですね。成功に一番近いと言われる紀平選手についてはどうですか?

中村 その前にトリプルアクセルの話をもう少ししてもいい? 

宮司 ただ喋りたいだけですよね(笑)。

中村 トリプルアクセルは、紀平選手がすでに飛んでいて、樋口選手も挑戦しているけれど、このジャンプが今後は勝敗をわける重要なものになる可能性が高いと思う。

宮司 なぜですか?

中村 現行ルールだと、女子はショートで4回転ジャンプは禁止されているから。フリーで4回転ジャンプが飛べて、フリーでもショートでも使えるトリプルアクセルを飛べれば、だいぶ有利になるから。しかも、トリプルアクセルがないと、フリーは1つアクセルを入れなくちゃいけないからどれだけ4回転が跳べてもダブルアクセルを跳ばなくちゃいけない。

宮司 そのためには、まだステップアップしないといけない部分はありますけど、この大会で日本女子選手は確実に大きな一歩を踏み出しということなんですね。

中村 そうなんだよ。そういえば、これって宮司の連載だよね? こんなに熱く語るつもりじゃなかったのに、俺、すごく喋ってるよね(笑)。

宮司 ここまで自由に喋れる場は、ほかにはなかなかないですもんね(笑)。

中村 フラストレーションが溜まっているのかな(笑)。話を戻すと、4回転とトリプルアクセルを1つのプログラムで成功させた選手はシニアではまだいないんだよね。ジュニアではアメリカのアリサ・リュウが決めているけど。

宮司 日本女子ではそこに一番近い選手が、紀平選手。四大陸選手権では4回転サルコウには挑戦しませんでした。

中村 ただ、練習では着氷させたよね。彼女がすごいのは、トリプルアクセルで失敗する雰囲気がほとんどないこと。

宮司 安定感が増しましたよね。

中村 本人も発言していたけど、彼女にとって3回転アクセルは特別なジャンプではなくなっているんだよね。4回転サルコウも練習をするたびに成功に近づいていく。紀平選手は成功へのプランニングがしっかり出来ているんだと思う。だから、四大陸選手権ではやらなかったけど、また試合でチャレンジする日はそう遠くないかも。

宮司 紀平選手で言えば、四大陸選手権ではもうひとつ大きなことがありましたよね。

中村 3回転ルッツね。フリーは演技構成を変更したこともあって3回転ルッツは1回になったけれど、解禁したことが大きいよ。左足の故障再発を防ぐために、韓国に入る前の練習段階では3回転ルッツを飛ぶ回数を制限していて。それでも本番はしっかり成功させた。

宮司 練習から飛んでいるのを見ても、安定感があるし、両腕を挙げるタノジャンプもできていました。紀平選手は、自分で考えて分析する能力が高いという印象があるのですが、ミツさんはどう感じていますか?

中村 クレバーだよね。それが演技をしながらのリカバリー能力にもつながっている。

宮司 四大陸のフリーでのリカバリーは本当にすごかった。予定では、2番目のジャンプはトリプルアクセル+2回転トウループだったのが、アクセルでミスして1回転アクセルになってしまい、コンビネーションジャンプにもできなかった。それなのに、次のトリプルアクセルのときに、しっかりとリカバリーしてトリプルアクセル+2回転トウループを決めた。ステップの間にリカバリーのことを考えていたこともそうだし、日頃からプランが崩れたときのことを想定していたってことにも驚きました。

中村 プランが崩れたときの想定といっても、どこでミスするかはわからないから、相当数のリカバリーのパターンを用意していたと思うんだよね。しかも、それを考えているなかでのステップでしっかりとレベル4を取っているすごさ。

宮司 本人はステップの時は表情が堅かったと振り返っていましたけど、まったく気づかなかったですからね。

中村 さらに言えば、プログラムの後半で予定を変更して3回転フリップ+3回転トウループ+2回転トウループを入れてきて驚いていたら、それだけじゃなくて、次で3回転フリップ+3回転トウループを入れるんだもの。それができる技術の高さもだけど、滑りながらでも冷静な判断を下せる。そこが紀平選手のすごさだよね。

宮司 去年シニアデビューして、今シーズンはまだ2年目。それなのに戦い方を知り尽くしている感じがします。

中村 彼女は、今シーズンはずっと、「世界選手権にピークを持っていく」と言っているけれど、背景には昨シーズンの世界選手権でピークを持っていけなかったことが悔しいと話していて。で、今シーズンはしっかりと世界選手権に向かって進んできた。そんな戦い方ができる選手が、まだ17歳だよ!

宮司 信じられないことです。

中村 四大陸選手権では3回転ルッツを取り戻せたし、試合のリカバリー力も発揮できた。十分すぎる手応えがあって、今度は世界選手権。

宮司 ロシア勢が待っていますからね。

中村 ポイントはショートプログラムでのトリプルアクセルじゃないかな。紀平選手がフリープログラムを4回転サルコウ、トリプルアクセル2本、3回転ルッツ2本で臨んだ場合、基礎点は全日本選手権のときよりも10点ほど上がる。あとはGOE(出来栄え点)勝負になると思う。

宮司 ロシア勢の点数はどれくらいなんですか?

中村 GPファイナルでは160点台だけど、ヨーロッパ選手権では150点台。フリープログラムの点数は、優勝したコストルナヤが155.89、2位のシェルバコワが159.81、3位のアレクサンドラ・トゥルソワで150.39。

宮司 四大陸選手権での紀平選手は、トリプルアクセルを1回ミスしたなかでも151.16。これに4回転サルコウが加われば、十分に戦えますね。

中村 な? 興奮するだろ? あれだけ世界を席巻していたロシア勢と、世界選手権で戦える準備が整ったんだよ。ごめんね、熱くなって(笑)。

宮司 ミツさんは、勉強量は人一倍なのに、情熱を披露する場がないのを知っているから大丈夫です(笑)。

中村 西岡(孝洋)さんとは、こんな話ばかりずっとしているんだよね。しかも、西岡さんと同じ量を勉強していても追いつけないから、西岡さんよりも取り組んでいるけど、あの人の勉強量も半端ないっていうね。

宮司 西岡さんも、少しの暇を見つければ取材に出かけますもんね。

中村 僕も『S-PARK』がなければ、もっと取材に行けるのに……。

宮司 それって本末転倒ですから(笑)。

(第13回につづく)

PROFILE
宮司愛海(みやじ・まなみ)
91年7月29日生まれ。2015年フジテレビ入社。
福岡県出身。血液型:0型。
スポーツニュース番組『S-PARK』のメインキャスター。スタジオ内での番組進行だけでなく、現場に出てさまざまな競技にふれ、多くのアスリートに話を聞くなど取材者としても積極的に活動。フジテレビ系東京2020オリンピックのメインキャスターを務める。

中村光宏(なかむら・みつひろ)
84年8月28日生まれ。2007年フジテレビ入社。
東京都出身。血液型:B型。
スポーツニュース番組『S-PARK』のメインキャスター。同じく、スタジオ内での番組進行だけでなく、現場に出てさまざまな競技にふれ、多くのアスリートに話を聞くなど取材者としても積極的に活動。フィギュアスケートの実況は、2014年の全日本フィギュアから担当している。