勝って泣く顔がある。これまで負けて流してきた悔し涙は、うれし涙に変わった。3年ぶりに宿敵から挙げた勝利。待ちに待ったこの瞬間に、早大サイドは大いに沸いた。早慶戦では過去2年続けて苦杯をなめてきた早大。だからこそ、この勝利は格別だった。 選…

 勝って泣く顔がある。これまで負けて流してきた悔し涙は、うれし涙に変わった。3年ぶりに宿敵から挙げた勝利。待ちに待ったこの瞬間に、早大サイドは大いに沸いた。早慶戦では過去2年続けて苦杯をなめてきた早大。だからこそ、この勝利は格別だった。

 選手が入場すると両校の応援部の指揮のもと校歌斉唱、エール交換により早慶戦独特の雰囲気が整う。そして、いよいよ戦いの火ぶたが切って落とされた。早大は男子団体組手のレギュラー選手3人が期待通りに勝ち星を持ち帰るが、その他のメンバーが惜しい試合をしながら勝ち切れない。互いに一歩も譲らず、9人を終えて4-5の大接戦となる。ここで早大から登場したのは四将・越間菜乃(教3=島根・石見智翠館)。対する慶大は昨年の関東学生体重別選手権女子61キロ級で準優勝を果たしている宮澤瑠伊(3年)を出してきた。過去の対戦では越間が勝つどころか点すらも奪えていない強敵だ。それでも越間は「始まったら前へ出るしかない」と大胆不敵に前で勝負し、開始8秒で上段突きを決める。先制後も2点を連取し、一時は3点をリード。後半は押され気味になり、口元を赤く染めながらも必死に前で勝負し続ける。このままなんとか反撃を抑えて3―2で勝利。ここ最近は悔しい試合が続いていた越間は会心の勝利に声を上げて喜びを表現した。


流血しながらも強敵相手に貴重な勝ち星を挙げた越間

 この勝利で流れを引き寄せた早大。続く三将・今尾光(スポ3=大阪・浪速)は圧巻の組手を見せる。試合開始早々に中段突きで先制すると、今度は上段蹴りで差を一気に広げ、最後は鋭い上段突き。6-0の完勝で勝利に王手をかけた。しかし、若林慶一郎副将(政経4=大分上野丘)が惜しくも敗れ、6-6で勝負の行方は大将戦へ。やはり大事な場面は決まってこの男に回ってくる。会場のボルテージが最高潮に上がる中、末廣哲彦主将(スポ4=東京・世田谷学園)がチーム全員の思いを背負ってコートに立った。試合開始からしばらくは見合う時間が長かったが、初めに末廣哲が均衡を破るように上段突きを決める。しかし、すぐさま追い付かれ、1―1の同点に。勝つのは早大か、慶大か――。会場に独特の緊張感が広がる中、末廣哲が残り2秒で思い切って技を仕掛けると左拳が相手選手の上段に入り、ついに決定的な1点が入った。その後は必死に突っ込んでくる相手選手の攻撃を防ぎ切り、試合終了。待ちに待った勝利の瞬間だった。


この一年間、勝負を決めるのはいつだって主将の末廣哲だった

 3~5人の強い選手を上から選んで勝負する公式戦とは違い、13人もの選手で争う早慶戦はチーム全体の層の厚さが問われる。昨年から全員で基礎的な練習を大事にし、厳しい練習にも逃げずに取り組むことで、チーム全体で強くなろうとしてきた早大。そうして迎えたこの日、2年間の真価が最も試される舞台で、慶大との総力戦に競り勝ってみせた。また、勝った選手も勝てなかった選手も誰一人として後ろに下がる選手はいなかった。末廣哲は「一年間チームとしてやってきたことがしっかり出せた」と胸を張る。長期に渡る地道な『土台作り』と『前に出る組手』の徹底が、確かに実を結んだ勝利。ただの1勝ではない。そして、この日をもって4年生は引退。副将の若林は「下からも後輩たちが自分たちを追い越そうという勢いでやってくれた」と後輩たちへの感謝を口にする。全学年が力を一つにし、紛れもなく早大は強くなった。それでも末廣哲は「ことし以上のものを見せてほしい」と期待を寄せる。「僕よりうまくなれる素質を持った後輩がたくさんいますから」。

(記事 郡司幸耀、写真 鎌田理沙、渡辺新平)


 

結果

▽大学自由組手

早大 優勝 ○7-6慶大

先鋒 末廣祥彦(スポ3=東京・世田谷学園)  ○5-2

次鋒 早津陸(先理4=東京・世田谷学園)   ●3-6

三鋒 知久明生(社3=千葉・麗澤)      ○反則勝ち

四鋒 中村朱里(スポ2=愛知・旭丘)     ●2-3

五鋒 笹野由宇(スポ1=東京・世田谷学園)  ○3-0

六鋒 吉田朋生(スポ3=神奈川・横須賀学院) ●3-4

中堅 澤入迅人(スポ2=静岡・常葉菊川)   ○9-3

六将 鈴木捷太(スポ1=群馬・太田)     ●4-7

五将 松浦佑樹(スポ4=静岡・富士)     ●0-6

四将 越間菜乃(教3=島根・石見智翠館)   ○3-2

三将 今尾光(スポ3=大阪・浪速)      ○6-0

副将 若林慶一郎副将(政経4=大分上野丘)  ●3-5

大将 末廣哲彦主将(スポ4=東京・世田谷学園)○2-1

▽優秀選手賞

末廣哲 今尾 越間

コメント

末廣哲彦主将(スポ4=東京・世田谷学園)

――3年ぶりの勝利です。今のお気持ちはいかがですか

本当にうれしいですね。どの大会よりもチームで勝てるかが明確に分かる試合だったので、こうして勝てたことで一年間チームとしてやってきたことがしっかり出せたのかなと思います。

――3年前の勝利はどう記憶されていましたか

負けるんじゃないかと思ったところから後ろの先輩たちが5連勝で逆転してくれて、あの試合で最後まで諦めないことを教えていただきましたし、最後まで分からないという怖さも知りました。現にきょうの試合も最後まで勝負がつかずに自分に回ってきたので、3年前の丸山先輩(政宏コーチ、平26社卒=東京・世田谷学園)のように勝とうと一生懸命やりました。

――ここ2年は大差で敗れていましたが、その悔しさというのは

やっぱり昨年はホームでケイオーに負けて『若き血』を歌われたのが本当に屈辱的でした。最後はこっちも敵地のケイオーで勝って歌ってやろうとみんなで言っていたので、あの惜しさは忘れられませんでした。

――きょうの試合ではAチームのメンバーが期待通りに勝っていく中で中間層が惜しい試合をしながら勝ち切れずにいました。そのあたりはどうご覧になっていましたか

正直勝ってほしい選手、勝てるだろう選手が少しの差で負けている中で越間(菜乃、教3=島根・石見智翠館)が奮起してくれました。でもBチームのメンバーも負けはしましたが下がって何もできないというのはなかったので気持ちでは負けていませんでした。あの気持ちを忘れてほしくないですね。

――早慶両校の思いがぶつかって危ないシーンも多かったと思いますが

一番熱が入る試合ということで、お互いにヒートアップしていました。ただ、慶大の当てすぎというよりも、こちらの避け切れていない技術的な甘さが根本にあると思います。

――四将の越間選手の勝利は非常に大きかったのではないですか

あれは大きかったですね。後ろに今尾と僕がいて、その二人は勝つとしてもあそこで越間が踏ん張ってくれたのは誤算と言ったら失礼ですけど、うれしい誤算だったと思います。

――先週と同様、主将には勝負を決める場面が回ってきますね

そうですね(笑)。前期は4月の六大学戦(東京六大学大会)の法大戦でも自分が優勝を決めさせてもらって、後期も全日本、早慶戦とことし一年おいしいところをいただきました。そういう星のもとに生まれているんですかね(笑)。自分はああいう場面で勝てると思っていましたし、後輩に勝つ姿を見せたいと思っていました。主将としての勝負強さを見せられたので良かったです。

――4年生は勝って卒業していくことができますね

最後に同期と一緒にコートに立てたというのは本当にうれしいです。全日本に出場したメンバー以外はしっかり選考会を経て(早慶戦に出場する)13人を選んだのですが、その中で同期全員が勝ち抜いてくれました。負けはしましたが、意地を見せてくれたと思います。四年間このメンバーでやれて良かったです。

――これから3年生以下で新しいチームをつくっていきますが、後輩たちにメッセージをお願いします

僕よりうまくなれる素質を持った後輩がたくさんいるので、ことし以上のものを見せてほしいというのと、勝ちにこだわって空手を楽しんでほしいと伝えたいです。

若林慶一郎副将(政経4=大分上野丘)

――3年ぶりに慶大に勝利した今のお気持ちを聞かせてください

勝ててホッとしているのとうれしさの二つですね。

――副将として一年間チームを引っ張ってこられましたが、このチームはどんなチームでしたか

4年生が中心になって引っ張っていくんですけど、下からも後輩たちが自分たちを追い越そうという勢いでやってくれたので、自分たちにとってはやりやすかった、良いチームでした。

――一緒にチームを率いてきた末廣哲彦主将(スポ4=東京・世田谷学園)はどのうような主将でしたか

一つ一つの練習のメニューをしっかり考えて組んでいて、チームを強くしようという意志が強いです。また、試合では絶対に負けてはいけない場面で勝ってくれるので、本当に頼りになる主将だったと思います。

――きょうの試合は負けてしまったものの、先取される中で1点ずつ返していきました

1点目を取られたのが痛かったですね。その後は1点ずつ返していけたのですが・・・。今日は自分がおいしいところを持っていこうと思っていました(笑)。本当に勝とうと思っていて、自分でも出したことのない技が出て。でも最後に及ばなかったのは最初の1点が大きかったですね。

――今後、競技は継続されないということですが

これほど勝利を目指してやることはないですね。最後に自分は勝てませんでしたがチームとして早慶戦で勝てて良かったな、満足できたなというのがあります。

――空手部で過ごした四年間を振り返っていかがでしょうか

苦しかったことが7、8割なのですが、それでも残りの2、3割は楽しい思い出や試合に勝ったうれしさが感じられました。かけがえのない四年間になったと思います。

――後輩たちにメッセージをお願いします

ことしの成績を越えていくように頑張ってほしいです。応援しています。

松浦佑樹主務(スポ4=静岡・富士)

――ご自身の試合を振り返ってみていかがですか

課題がたくさん残る試合だったと思います。結果としてもチーム全体に助けられました。

――今大会を振り返ってみていかがですか

自分たちは先週の全日本(全日本大学選手権)でベスト8に入れたので、それを忘れずに早慶戦に臨みました。早慶戦(早慶定期戦)で2連敗していましたし、4年生にとっては最後の試合だったので何が何でも負けられないという思いでした。そういう思いで全員が臨めて、結果として勝てたのが良かったかなと思います。

――早慶戦まではどのような練習をされてきましたか

ひたすら前に出る組手、下がらない組手を意識して統一してやってきました。

――きょうの試合でその前に出る組手ができていたと思いますが、いかがでしょうか

自分(の組手に関して)は何ともコメントし難いのですが、ワセダ全体としてはいい組手ができていたと思います。

――ことしの早慶戦の雰囲気はいかがでしたか

4年生という立場だったから余計に感じたのかもしれませんが、例年以上に盛り上がるというか、応援にも熱が入ったいい早慶戦だったのかなと思います。

――これで引退となりますが、今後はどのように空手と関わっていこうとお考えでしょうか

おそらくもう試合に出ることはありません。競技者としては引退します。自分は教員志望なので今度は指導者で、空手だけでなくスポーツを教える立場として頑張っていきたいです。その中にこういう大学の空手で学べたことを生かしていけたらいいかなと思います。

越間菜乃(教3=島根・石見智翠館)

――きょうの試合を振り返っていかがでしたか

みんな気合いが入ってて、勝ちたい気持ちを持って前へ前へという組手がどの選手もできていて、それがチームの勝利につながったと思います。負けてしまった人も前への気持ちがあったから、あとの人の気持ちを高めることができました。(今回の私の相手は)去年の早慶戦でも当たった人で、早慶戦以外も何回か試合をしたことがあり、(その人には)勝つどころか点も取ったことのない、高校の時から活躍している強い選手だったので、正直始まる前はすごく緊張していました。勝ち数と負け数が同じくらいだったので、自分が負けてしまうとチームも負けてしまうんじゃないかって、ここ最近の試合の中で一番番緊張しました。でもその分チームのみんなが試合前にも声を掛けてくれて、「始まったら前へ出るしかない」と思いました。それが最初の1点につながって、そこから気持ちも乗ってきて勝つことができたのではないかと思います。

――越間選手の勝利によって、試合の流れが変わったと思います

自分が勝ったことによってチームが勝ったというよりは、自分が負けると試合も負けたと思います。前の2人が2連敗で、自分で試合の流れが決まるのかなと思いました。結果的に変えることができて、きょうの試合は自分としてもこの相手に勝てて良い試合だったと思います。

――チームメイトには具体的にどう声をかけてもらいましたか

先鋒で同期の末廣祥彦(スポ3=東京・世田谷学園)には、私が緊張していたと良く分かったんだと思うのですが、「落ち着いて、まっすぐ勝負していけ」と言われました。女子の中村(朱里、スポ2=愛知・旭丘)にも背中を叩いてもらって、「行けますよ」と言ってくれました。

――先日の全日本大学選手権では先鋒として、やはり試合の流れを作る役割でした。そこでの敗戦を経て変えたことなどは

その時は先鋒ということだったのですが、私が負けてしまったことでチームも負けてしまったと思うので。今回も緊張しましたが、その独特の緊張感に少しは慣れたのではと思います。

――では、来年へ向けて意気込みをお願いします

来年は最終学年になるということで、個人としてもそうですが、女子組手、女子空手をもっと盛り上げていきたいと思います。