2月16日、鳥栖。Jリーグ開幕を1週間後に控え、その”前哨戦”とも言えるルヴァン杯初戦だった。敵地に乗り込んだ北海道コンサドーレ札幌は、0-3という大差でサガン鳥栖を下している。



就任して3シーズン目となるミハイロ・ペトロヴィッチ監督(北海道コンサドーレ札幌)

 しかし、快勝を収めた札幌の指揮官ミハイロ・ペトロヴィッチは、試合後の会見で不機嫌にすら映った。

「浦和(レッズ)で負けたときの方が、今日勝った試合よりも私は嬉しかった」

 ペトロヴィッチ監督はそう言って、小さく肩をすくめた。

「(2014年の)浦和(の監督時代に)でホームの鳥栖戦だった。多くの決定機を作りながら、ゴールに嫌われて入らず、私の記憶が正しければ、豊田(陽平)にクロスを決められ、0-1で敗れた。大差で勝つこともできたはずのゲームだったが、そうはならなかった。しかし、サッカーではそういう試合もあるもの。自分たちとしては、狙いどおりにスペクタクルな試合ができた。結果は受け入れるべきだが、決して内容では負けていなかった。勝負は重要だが、サッカーはそれだけではない」

 ペトロヴィッチ流の本質はどこにあるのか?

 鳥栖戦、たしかに札幌はボールをつなぐのに苦労していた。GKク・ソンユンも含め、後方から組み立てを試みているが、しばしばパスがずれ、相手へ渡った。その動揺が次のミスを招いていた。

「昨シーズン、対戦したときは完全に回されていました」(鳥栖・金明輝監督)
 
 だが、この試合で主導権を握ったのは、鳥栖の方だった。

 札幌はお株を奪われたようで、自らのスタイルを出すことができない。「自分たちがボールを持って、攻撃を組み立て、敵陣に迫る」という回路に不具合が生じていた。単純にGKのいくつかのミスキック(受け方を含め)が足を引っ張っていたこともあった。

 ただ、悪いなりに戦う術を持っていた。ジェイへの長いパスで態勢を挽回。単発でも前にボールが収まると、そこから攻撃に転じられた。

 そして14分、攻勢で得た左CKから福森晃斗が蹴ったボールを、ジェイがヘディングで豪快に沈めたのだ。

「練習どおりの形だった。(キッカーに言われていた)走ってほしい、というコースを走って、決めることができた」(札幌・ジェイ)

 札幌は、”エリアの中での強度”が際立っていた。ジェイや鈴木武蔵は相手をひしぐ力を見せ、福森の左足のキックは強烈な飛び道具だった。81分の追加点もその一端だろう。やや劣勢ながらもFKを奪い、福森が直接左足で右隅に放り込む。エリアで高さを発揮する選手がいたことで、相手GKを幻惑させていた。そして後半アディショナルタイムには、自陣GKからの長いボールを相手から奪った鈴木が、エリア付近で反転からの鋭いシュートを決めている。

 札幌は、一発を仕留める力で勝った。

 一方、彼らは耐えるだけの実直な守備も見せていた。5-4-1のような形で、自陣での”エリアの強度”で負けなかった。エリア内でのディフェンスは粘り強く、何度となくシュートブロックに入っている。

 もっとも、水際で守っただけではない。

「大卒で(プロ)初戦なので、緊張はいつもと違ったと思いますけど。試合に入ったら、(金崎夢生との応酬でも)誰であろうと、やられたらやり返す、やるかやられるか、だと思っています。そこはお互いさまで」(札幌・高嶺朋樹)

 中盤での高嶺のボールアプローチは果敢だった。危険なインサイドには、簡単に持ち込ませていない。練度の高いトレーニングが、ひとつひとつのリアクションの鋭さに象徴されていた。

 土壌は選手を育てる。

 昨シーズン、ペトロヴィッチ監督は就任2年目でルヴァン杯を勝ち進んでいる。決勝では、川崎フロンターレと撃ち合いを演じて一歩も引かなかった。PK戦でタイトルを逃したものの、多くの選手が評判を高めた。そして年末のE−1サッカー選手権では、鈴木武蔵、菅大輝の2人が代表に選ばれているのだ。

 ペトロヴィッチの頑固なまでの追求が、スタイルを定着させてきた。サンフレッチェ広島、浦和、そして札幌で、どれだけの選手がその力を引き出されてきたか。そこに指揮官の真骨頂はある。

 そのプロセスのひとつで、指揮官本人が「嬉しくない」という戦いでも、勝ち切ることができるのだ。

「ビルドアップでは、明らかに問題を抱えていた」

 ペトロヴィッチ監督は、渋い表情を作って言った。

「(チームとして)ボールロストの場面が多かった。ただ、鈴木、ジェイ、チャナティップという主力選手は、ケガや体調不良などで、キャンプでコンスタントにプレーできていない。調子が上がっていない状況で、運動量だけでなく、体のキレも本調子ではなく、改善の余地がある。試合で違いを見せられる選手のコンディションを(トレーニングで)上げるのが、自分の仕事だ」

 名将は、着々と戦いの準備を整える。勝つことだけに甘んじない。チームはこれから成熟を迎える。

「0-3で勝った試合のコメントで、これほど厳しいことを言うとは予想していなかっただろ?」

 記者会見の最後、指揮官は悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。