本田圭佑獲得の第一報から、リオデジャネイロ到着までの、ボタフォゴサポーターの盛り上がりは近年まれに見るすごさだった。



ボタフォゴの本拠地で入団発表に臨んだ本田圭佑 photo by AFP/AFLO

 平日の昼間だというのに、空港には2000人以上のサポーターが詰めかけた。翌日、ホームスタジアムで行なわれたプレゼンテーションイベントにも、1万人を超えるサポーターがかけつけた。この日のためにビール会社は本田の顔が描かれたビールの缶を徹夜で製造。本田を歓迎する歌までもが作られた。

“多くのカップに多くのトロフィー、本田がいればコロナウイルスも心配ないさ、アリガト、サヨナラ、オブリガード本田!”

 ……しかし、お祭りは永遠には続かない。いつか現実に戻る時が来る。だがそれにしても、今回はあまりにも早すぎた。

 リオに到着してから72時間もたたないうちに、本田は厳しい現実に直面した。

 9日、本田が観戦した初めての試合で、ボタフォゴは同じリオにあるライバルチーム、フルミネンセ戦に3-0で完敗した。その結果、カンピオナート・カリオカ(リオ州選手権)の準決勝進出を逃してしまったのだ。

 ボタフォゴサポーターは自チームに激しいブーイングを浴びせ、試合後アルベルト・ヴァレンティン監督は解任された。ヴァレンティンは昨年の10月に就任、昨シーズンは、どうにかチームをカンピオナート・ブラジレイロ(ブラジル全国選手権)1部残留に導いたが、今シーズンは開幕から不調を止められなかった。

 その日の夜中には、クラブの外壁はサポーターからの怒りのメッセージで埋まった。そこには更迭された監督のみならず、会長をはじめとしたチーム幹部のふがいなさを非難する言葉が広がっていた。さらに、彼らの怒りの矛先は、いいプレーができない選手たちにも向けられ始めている。まだ新シーズンは始まったばかりだというのに……。

 こうなると、本田の加入にも疑問を持つ者が増えてくる。新聞やネットには毎日それに関する記事が上がっている。

 特に本田の契約のあり方に首をかしげる者は少なくない。本田の契約は2020年の12月までとなっているが、「オリンピック代表に選ばれた場合は、その前に契約解除してもかまわない」という条項が盛り込まれていると報道されている。結局、本田は東京オリンピックに出るための”つなぎ”のつもりでボタフォゴに来たのではないか。そう疑われても仕方ない契約だ。

 SNSでは、これまでの本田フィーバーに代わって、本田とボタフォゴを揶揄する投稿が活発になっている。

 あるフルミネンセサポーターの投稿は「ボタフォゴは新しく車の販売店をオープン。売っているのはホンダのバイク1台、フォルクスワーゲン・ゴール3台(3-0で敗れたという意味)のみ」だった。また、フルミネンセのオフィシャルサイトも、「ボタフォゴに対する勝利を祝って、今晩は寿司を食ってやろう!」と本田をあてこすっている。一部の口の悪いネットユーザーの間では、33歳の本田は「本田爺さん」とも呼ばれている。

 チームが準決勝を逃してしまったことと、本田自身のビザの関係もあり、本田のボタフォゴデビューは3週間後と予想されている。だが、今はそれが現実となるかどうかもわからない。

 本田の獲得に最終的にGOサインを出したのは、ほかならぬヴァレンティン監督だった。しかし彼はもういない。次にベンチに座る監督が本田をどのように扱うかは、未知数だ。新監督はまず本田のプレーを見て、彼を使うか使わないかを決めることになるだろう。本田はこの3週間のうちにプレーのリズム、スタミナ、コンディションを取り戻し、新監督を納得させなければならない。

 本田の敵はもうひとつある。リオデジャネイロの暑さだ。この時期のリオはとても蒸し暑い。冬の北半球から来た本田の体はまだそれに慣れていない。あと数カ月で34歳になり、ブラジルのサッカーについても肌で知らない選手が、この暑さのなかでチームの救世主になるのは、かなり難しいだろう。

 一方、希望の光もなくはない。ボタフォゴにとってではなく、本田にとっての希望の光だ。次期監督として、かつて鹿島アントラーズやセレッソ大阪の監督を務めたこともあるパウロ・アウトゥオリが就任のオファーを受諾したとの報道も出ている。アウトゥオリはリオ出身で、何度もボタフォゴを率いた経験がある。これは本田にとってかなり有利な人事だろう。アウトゥオリは日本のことを、日本のサッカーや日本人選手のメンタリティーも含めてよく知っている。また、彼は選手とよくコミュニケーションをとる監督として知られている。

 いずれにせよ、ボタフォゴは問題山積みだ。監督問題だけでなく、財政的にもひっ迫していて、選手たちの給料の支払いもかなり遅れている。本田の獲得には、あわよくば日本企業がスポンサーになってくれるのではないかという期待も、多分に含まれているだろう。

 本田の行く手には、いばらの道が待っている。