中部電力カーリング部石郷岡葉純インタビュー(後編)日本選手権で大会連覇を狙う中部電力。リードの石郷岡葉純も「目標は優勝」と語る。今回は、そんな彼女の素顔に迫りつつ、チームメイトについての話も聞いてみた--。--石郷岡選手のカーリング歴につい…

中部電力カーリング部
石郷岡葉純インタビュー(後編)

日本選手権で大会連覇を狙う中部電力。リードの石郷岡葉純も「目標は優勝」と語る。今回は、そんな彼女の素顔に迫りつつ、チームメイトについての話も聞いてみた--。

--石郷岡選手のカーリング歴については、意外と知られていないような気がします。まずは、カーリングを始めたきっかけから教えてください。

「最初にストーンを触ったのは、青森のカーリング場で、小学校3年生の時です。チーム青森主催のカーリング体験会で、小笠原歩さん(※1)をはじめ、当時のチーム青森の選手に(カーリングを)教えてもらいました。
※1=旧姓・小野寺歩。チーム青森のメンバーとして、2002年ソルトレイク五輪、2006年トリノ五輪に出場。その後、北海道銀行フォルティウスのチーム発足に携わって、2014年ソチ五輪で3度目の五輪出場を果たす。女子カーリング界のパイオニアで、現在は後進の指導にあたっている。

 競技として本格的に始めたのは、小学校6年生になってからです。幼稚園の頃からずっとスイミングをやっていたのですが、実は一緒に泳いでいたのが、田中美咲(フィロシーク青森)や田中優惟といった、今もカーリングを続けている面々で。(地元には)チーム青森もあるし、美咲のお兄さんの田中駿さん(Pentagon)がカーリングをしていた縁もあって、みんなで一緒に始めました」

--一緒にカーリングを始めた面々とチームメイトになって、2013年の高校選手権で優勝(東北選抜)。同年の日本ジュニア選手権で3位(青森ジュニア)という好成績を残しています。未確認の情報ですが、当時中部電力に在籍していた藤澤五月選手(ロコ・ソラーレ)が、石郷岡選手たちが活躍した高校選手権を見ていた、という話を聞きました。

「五月さんが見ていたのは、おそらくその翌年、2014年の高校選手権だと思います。(関東中部選抜の)べぇちゃん(フォースの北澤育恵)たちが優勝した年で、私たちは準優勝でした。みんなが、会場で『藤澤選手がいる』と言っていたのを、なんとなく覚えています」

--そこで、藤澤選手が石郷岡選手を発掘したのでしょうか。

「どうなんですかねぇ? でも、(私の)スイープをとくに注目していたようで、『あの子はガッツがありそう』と言ってくれた、という話はあとで聞きました」

--藤澤選手は、今はライバルチームに在籍していますが、会えば、お話しすることはあるのでしょうか。

「しますよ。よく覚えているのは、平昌五輪直前の、2017年軽井沢国際の時です。アフターパーティーで、『オリンピック、がんばってくださいね』『葉純たちのおかげで、強くなれたよ。ありがとう』みたいなやり取りを、肩を組みながらできたのは、楽しかったですね」

--高校当時の話に戻しますが、その時にその先の、世界や五輪での戦いなどをイメージしていましたか。

「正直、していませんでした。それよりも、高校選手権で勝つと、”オプティミスト”と呼ばれるカナダで開催されるU-18世界選手権に参加できたので、当時は『それに出たい』『カナダに行きたい』という気持ちが強かったですね。それが、一番のモチベーションでした」

--高校卒業後、軽井沢に行って、中部電力に入社。迷いはありませんでしたか。県下一の名門と言われる青森高校出身となれば、進路についての選択肢は多かったと思うのですが。

「カーリングを続けながら進学というか、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学の観光科に留学するというプランも、私の中にはあったんです。でも、中部電力に声をかけていただいて話を聞いているうちに、企業の理解とサポートを得ながら、好きなカーリングに向き合えて、社会経験も積めるというのは、どう考えても恵まれた環境ですし、自分にとっては、決してマイナスにはならない。そう思うようになりました。

 両親も『(カーリングを)やるなら、がんばりなさい』と応援してくれましたし、それに私は、人と同じことはあまりしたくないんです。(中部電力に入ったのは)オリジナリティを大切にしたい、という理由もありました」

--中部電力入りし、ジュニア時代にライバルだった北澤選手、中嶋星奈選手(スキップ)と一緒にプレーすることになります。そういえば以前、石郷岡選手は、北澤選手について「同い年で、一番うまい選手」とコメントしていましたね。

「それもそうですけど、先ほど話に出た2014年の高校選手権の決勝で、星ちゃん(中嶋)とべぇちゃんのチームと対戦した時、(ふたりの関係が)すごく羨ましかったんです。星ちゃんはサードだったんですけど、そこでミスが出ても、ひとつ年上のべぇちゃんが『しょうがねぇな、決めてやるよ』みたいな感じで、好ショットを連発して。そのカバーしている姿が印象的でした。また、(ふたりの)試合の雰囲気の作り方、ショットのつながり方も羨ましかった。一緒にやったら『楽しいだろうな』と、思っていましたね」

--実際にふたりと同じにチームなってみて、いかがでしたか。新たに発見したことなどはありましたか。

「意外だったのは、べぇちゃん。彼女は天才肌だと思っていたのですが、すごくカーリングのことを考えているんですよね。作戦とか、石の当たる角度とか、細かいところまで、いろいろな視点で見ている。とくに最近は、自分で『やり切る』『決める』という覚悟を持って、プレーしているように思います」

--「覚悟」ですか。

「彼女も、もちろんミスはあるのですが、それは、決してプレッシャーに負けて出る類いのものではないんですよ。試合後に、『あ~、あれが決まっていれば~』と軽く嘆くことはあっても、それを引きずったりはしない。昨年の日本選手権のプレーオフだったかな、序盤のエンドでスルー(どの石にも当たらず、プレーゾーンを通過する石を投げること)しちゃったんですけど、2投目でしっかり取り返して、何事もなかったように、そのゲームはキーショットを決め続けた。不安そうな時はほとんどないし、『決めてやる』という空気がすごく伝わってきます。スイーパーとしては、サポートし甲斐があるというか、頼もしいですね」

--中嶋選手とのいいコンビは健在ですか。

「そうですね。いいバランスだと思います。べぇちゃんがスキップをやらないのは、『私は頑固だから、スキップをやったら、みんなの意見を聞かないかもしれない』と。それで、今のバイスとしてフォースを投げるポジションに、自分で収まった感じです。ラストロックは、彼女(北澤)の投げたいショットと、(チームの)作戦と照らし合わせて決めます」

--そういったなかで、石郷岡選手の役割はどういったものですか。

「(作戦などは)基本的に他の3人に任せていますけど、うちは攻めたがりが多いチームなので、ハウスが混み合っている時だけ、(自分が)ディフェンシブな考え方を伝える、そんな感じですね。チームとして、バランスは取れていると思っているので、(自分は)誰かが調子を落としたら、その人に寄り添ってコミュニケーションを取ったりすることとか、意識しています」

--アイスの外、たとえば遠征時などでは、どういった役割分担になっているのでしょうか。

「現地での食事関係の会計は、(松村)千秋さんが担当。ホテルは、他の3人が順番で決済したりしていますね。あと、私は大会運営の担当者にメールで連絡したり、試合のエントリーをしたり、そういう仕事もしています。多くの人と英語でメールのやり取りをするのは、いい勉強になっています」

--遠征時に欠かせないものはありますか。

「私は、今でも泳ぐことが大好きで。カナダのホテルって、結構プールが併設されているので、競技用水着は必ず持っていきます。それで、各地でガチ泳ぎしています(笑)」

--石郷岡選手は、これまでにいろいろなスポーツを経験して、習い事や趣味なども多岐にわたっていますね。

「そうかもしれません。水泳とカーリング、中学校の時には陸上をやっていた時期もありました。高校では、ダンス部と軽音楽部に所属していました」

--軽音楽部では、何の担当だったのでしょう。

「ギター&ボーカルです」

--ということは、歌がうまいんですね。

「自分ではわからないですけど、歌うのは好きです。音域は広いかもしれません。オープンハミングで、ワーッと高いところにはいけます。カラオケもよく行きますよ」

--どんな曲を歌うのでしょうか。

「なんでも歌います。好きなアーティスト、ベリーグッドマン、OverTone、HAND DRIPなどなど。あとはアニソンも歌いますし、多ジャンルですね」

--ひとりカラオケに行ったりしますか。

「行けますね。”ひとり焼肉”も大丈夫です」

--料理はされますか。

「ひとり暮らしなので、自炊できる時はしています。得意料理は、お爺ちゃんがよく作っていて、お母さん経由で覚えた、白菜とコーンクリームがベースの野菜スープです」

--結婚について、考えたことはありますか。

「いつかは結婚するんだろうな、という漠然としたイメージはあります。2022年が25歳、(北京五輪が)終わったら26歳かぁ……。う~ん……、やっぱり、その後のことは、その時に決めます。

 ただ私は、膝や腰、手首に不安があったりするので、スイーパーとして(北京五輪後の)次の4年は、使えるかどうかわからないんですよね。だから、まずは北京五輪までは全力で挑みます、としか今は言えません。がんばりますので、応援よろしくお願いします」

(おわり)

石郷岡葉純(いしごうおか・はすみ)
1996年6月17日、青森県生まれ。12歳でカーリングをはじめ、2013年の高校選手権で優勝するなど、ジュニア時代から活躍。2015年、青森高校卒業後、中部電力に入社してカーリング部に所属する。以来、リードひと筋で、チームの2017年、2019年日本選手権優勝、2019年世界選手権4位入賞に貢献。趣味は音楽鑑賞、水泳、ミシン、読書。好きな作家は、神永学。「とくに『心霊探偵 八雲』シリーズが好き」