四大陸選手権で優勝を目指す羽生結弦 ソウルで開催される四大陸選手権、競技開始前日午後の公式練習。3年ぶりの出場となる羽生結弦はキレのある動きを見せ、4回転ルッツで転倒はしたものの、気負いを感じさせることはなかった。「初めての練習で感覚はよか…



四大陸選手権で優勝を目指す羽生結弦

 ソウルで開催される四大陸選手権、競技開始前日午後の公式練習。3年ぶりの出場となる羽生結弦はキレのある動きを見せ、4回転ルッツで転倒はしたものの、気負いを感じさせることはなかった。

「初めての練習で感覚はよかったですが、まだつかみ切れていないところもあります。徐々に感覚をつかんでそれからだなと感じました。スケート自体もしっくり来ている感じはまだないので、それを一つひとつ確かめながら、この氷にはこのようなタッチで行けばいいのかなということを考えながら滑っていました」

 こう話す羽生は、曲かけでは『バラード第1番ト短調』を滑った。最初の4回転サルコウを決めると、感情を込めたつなぎのあとは4回転トーループ+3回転トーループもきれいに決めた。後半のトリプルアクセルも決めてコンビネーションスピンのあとには、気持ちを前面に出すような、彼らしいステップシークエンスも見せた。

「僕が気持ちよく滑れていたかどうかは見ている方の感性に任せますけど、平昌五輪以来、初めてバラード第一番を通すのを皆さんの前でやったので、すごく緊張したとともに、あらためてこのプログラムを滑るという感覚にさせられました」

 また、羽生は質問を受け、シーズン中で異例とも言えるショートプログラム(SP)とフリーのプログラム変更の理由をこう説明した。

「まずはグランプリファイナル、全日本とあって……。難易度を難しくするというのは自分自身楽しいですし、それを達成できた時の喜びは計り知れないものでもあるんですけど、何か自分が目指しているスケートというのは、ただ難しいことをするスケートじゃないなと思ったんです。

『Origin』をやっていても『秋によせて』をやっていてもそうなんですけど、自分の呼吸じゃないなと思って。技術的なことに関して言えば、やっぱり高難度のものを入れれば入れるほど、やっぱりまだスケートの部分がおろそかになってしまったり。曲から1回頭を切り替えて、曲を1回外してジャンプにセットしにいかなきゃいけないというのがやっぱり嫌だった。それに耐えきれなかったというのが大きいですね」

 全日本選手権の『秋によせて』や、スケートカナダの『Origin』に関して言えば、自分でもいい滑りができたと感じている。だがそれ以上に感じたのは、「自分の演技として完成できそうにないな」ということでもあった、と羽生は言う。

「それはあまりにも理想が高いがゆえに……。そしてその理想がたぶん、僕ではなく(エフゲニー・)プルシェンコさんの背中だったり、ジョニー(・ウィア)さんの背中が理想だったと思うんです。だからそう考えた時に、やっぱり僕のスケートじゃないのかなと思ったんです」

 あらためてそう思ったのは、全日本選手権翌日の「メダリスト・オン・アイス」で、『SEIMEI』を滑った時だった。その感覚が、ふたつのプログラムを滑っている時とは「カバー曲とオリジナル曲くらいの違いを感じた」という。

「『SEIMEI』も『バラード第1番』も本当は何か、もう伝説として語り継がれるような記録をもってしまっている子たちなので、できれば眠らせておいてあげたかったんですけど、メダリストの時は悔しい結果になったあの精神状態だったからこそかもしれないですが、ものすごく自分でいられるなと思って。それでもう少しだけ、この子たちの力を借りてもいいのかなと思いました」

『バラード第1番』は、ずっとやってみたかったピアノ曲として挑戦し、さまざまなことを考えながら完成させてきたプログラムだ。『SEIMEI』もまた、自分のこだわる和の世界を表現したいという思いから選び、作り上げてきたプログラムだ。さらに『ホープ&レガシイ』も、ゆったりとした自然の中に身を任せ、その世界に沈み込むような彼自身の心象風景を表現しきったプログラムだった。

 それに対して『秋によせて』と『Origin』の場合、自分のプログラムとして完成させようと思っても、幼いころに憧れたジョニー・ウィアとエフゲニー・プルシェンコの演技が、羽生の頭の中に強烈に残っているものだった。だからこそ、それを完成させようとした時に、100%自分のものにすることができない、と考えたのだろう。

 15年のGPファイナルでNHK杯に続いて歴代世界最高得点を出したあとで、羽生は、ハビエル・フェルナンデスがフリーで200点台に乗せてきたことに言及しながら、「ジャンプや技術だけではなく、芸術性も兼ね合わせたフィギュアスケートとしての完成形を目指していきたい」と話していた。

 だがその後の4回転時代突入で、勝つためにより多くの高難度のジャンプを入れなければならなくなり、羽生はそれにしっかり対応して結果を残してきた。その点で言えば、今回彼がやろうとしていることは、自分の「フィギュアスケートを突き詰めたい」と思い始めたプログラムに回帰し、それでどこまで戦えるかを確認してから次へ進みたいという決意でもあるのだろう。

 五輪連覇を果たし、自分の原点として考えたのが、幼い頃に憧れたふたりのスケーターが使用していた曲に挑戦して、自分なりの世界観を作り上げることだった。それを実践したからこその今回の決断なのだろう。

 その勝負のプログラムで世界選手権に挑んだあと、彼がどんな道を模索していくのかも、大きな楽しみになってきた。