写真:2017年アジア選手権での平野美宇/提供:ZUMA Press/アフロ東京五輪の卓球競技に日本代表として出場する候補選手6名が決定した。男子は張本智和(木下グループ)、丹羽孝希(スヴェンソン)、水谷隼(木下グループ)、女子は伊藤美誠(…

写真:2017年アジア選手権での平野美宇/提供:ZUMA Press/アフロ

東京五輪の卓球競技に日本代表として出場する候補選手6名が決定した。

男子は張本智和(木下グループ)、丹羽孝希(スヴェンソン)、水谷隼(木下グループ)、女子は伊藤美誠(スターツ)、石川佳純(全農)、平野美宇(日本生命)が候補選手となった。

この6選手の過去の五輪成績(初出場の選手はリオ五輪以降の活躍)を振り返る企画がスタート。今回は、平野美宇(日本生命)を紹介する。

リオ五輪ではリザーブとして試合に出場することはなかった平野。多くのドキュメンタリー番組などでその時の悔しさを振り返るシーンが東京五輪の代表レースの間で日本では流れた。

激闘の日々を駆け抜け、そして迎えた2020年1月6日。馬場美香女子ナショナルチーム監督から日本代表として平野の選出が発表され、「五輪選手・平野美宇」が誕生した。五輪選手となるまでの平野の活躍を見ていきたいと思う。

2017年:爆誕、ハリケーン・ヒラノ




写真:2017年全日本選手権での平野美宇/提供:YUTAKA/アフロスポーツ

ともにワールドツアー女子ダブルス最年少優勝記録を更新した伊藤美誠(スターツ)の活躍を観客席から眺めたリオ五輪の翌年、平野は大きく躍進することになった。

年明け1月の全日本選手権では、決勝で第1シードだった石川佳純(全農)を4-2で破り全日本チャンピオンとなった。全日本選手権の女子シングルス優勝記録を塗り替える、16歳9ヶ月での快挙となった。

平野の2017年の躍進は始まったばかりであった。4月のアジア選手権で平野は歴史に深く名を刻んだ。

準々決勝で当時世界ランキング1位だった丁寧(ディンニン・中国)に勝ち、続く準決勝では同2位の朱雨玲(ジュユリン・中国)に勝った。そして、決勝では世界ランキング5位で陳夢(チェンムン・中国)にストレートで勝ちアジア選手権を制した。中国選手に3連勝し、日本女子として1996年ぶりのアジア選手権優勝となった。

決勝では陳夢に対して、広角に両ハンドドライブを連打し左右に振り回した。陳夢が中陣から粘りを見せても攻撃の手を緩めず、高速卓球で抜き去る姿はまさしくハリケーンと呼ぶに相応しかった。




写真:2017年世界選手権での平野美宇/提供:ittfworld

続く6月の世界卓球デュッセルドルフ大会では、準決勝で丁寧にリベンジを果たされるも3位入賞し、日本女子シングルスとして48年ぶりのメダル獲得を果たした。

その後もコンスタントに国際ツアーで予選通過、本戦でも勝利し世界のトップに名を連ねた。残念ながら12月のグランドファイナルではその年4度目の対戦となる顧玉婷(グーユーティン・中国)に1回戦で敗れてしまったが2017年は平野にとって躍進の年と言えるだろう。

2018年:苦悩の日々




写真:2018年世界卓球での平野美宇/提供:ittfworld

2018年の1月、前年度チャンピオンとして迎えた全日本選手権。決勝の相手はかつてペアとして国際ツアーを戦った伊藤。平野のドライブを前陣でカウンターで叩く伊藤に1-4と敗れる。

ここから平野にとって苦しい時期が続くこととなった。3月のカタールオープンでは石川に2-4で敗れベスト8。同月のドイツオープンでは徐孝元(ソヒョウォン・韓国)に2-4で敗れベスト16、4月のアジアカップでは朱雨玲に敗れベスト8と上位進出できなかった。




写真:2018年カタールオープンでの平野美宇/提供:ittfworld

メディアのインタビューには「練習場に行くと吐き気がした」と言うほど精神的にも思い悩む時期が続いた。4月にはJOCエリートアカデミーを前倒しで修了し環境を変えた。

8月には日本で初のプロリーグ「Tリーグ」が開幕し、翌年五輪代表レースを争うことになる石川とも国内でも何度も対戦し、しのぎを削った。日本のファン達もハリケーンの再来を心待ちにして2019年を迎えることになった。

2019年:熾烈を極めた代表レース

平野にとって初めての五輪出場をかけた1年がやってきた。世界各地を飛び回りワールドツアーの連戦に臨んだ。

世界のトップに君臨し続ける丁寧や、福原愛のコピー選手として鍛えられた何卓佳(フーズオジャー・中国)など中国勢の高い壁に阻まれ、各大会で表彰台が遠い日々は続いた。




写真:2019年ジャパンオープンでの平野美宇(日本生命)/撮影:ラリーズ編集部

しかし平野は日本の地で、代表レースにおいて大きなアドバンテージを得ることになった。6月のジャパンオープンで平野は長崎美柚(JOCエリートアカデミー/大原学園)、佐藤瞳(ミキハウス)を下しベスト4に入賞した。準決勝では劉詩雯(リュウスーウェン・中国)に敗れるもプラチナ大会で4強に入るという大きなポイントを得た。




写真:2019年チェコオープンでの平野美宇/提供:ittfworld

そして8月のチェコオープンでは最大のライバルであり、国際ツアーでペアを組むこともある石川に勝利し準優勝。代表レースにおいて伊藤美誠に次いで2位につけた。

そして、東京五輪と同じ会場で同じ形式で行われたワールドカップ団体戦では準決勝の韓国戦で田志希(チョンジヒ・韓国)を圧倒した。そのプレーはこれぞハリケーンの再来というべき仕上がりだった。相手のボールが少し高ければ台上からでも両ハンドドライブで抜き去る姿は日本の卓球ファンに平野の復調を見せつけた。




写真:2019年チームW杯での平野美宇/撮影:ラリーズ編集部

しかし、そのまま代表決定とはならないのが日本の女子卓球の層の厚さを表していると言える。

11月のT2ダイヤモンドで石川、平野ともに初戦敗退となり平野が1歩リードした状態で迎えた12月ノースアメリカンオープン。決勝は2人の直接対決となった。

その後のグランドファイナルでは初戦から強敵が相手となるため、この直接対決に勝利することが大きなリードとなる大事な一戦だった。結果は4-2で石川の勝利。1点ごとに吠える両者だったが最終ゲームは互いにサーブが台から出る場面もありプレーが固くなっている印象だった。ジャパンオープンなどに比べると得られるランキングポイントは少ない一試合だったが、そこには大きな意味があった。




写真:明暗を分けたノースアメリカンOP/提供:ITTF/アフロ

そして最後のグランドファイナルでは石川が初戦敗退した後に平野が初戦を迎えた。勝てば五輪シングルス代表。伊藤美誠をも沈めている王藝迪(ワンイーディ・中国)との試合は王のパワーに終始押される展開が続いた。後がなくなった4ゲーム目には平野のバックハンド連打が覚醒したが、逆転勝利には至らず1-4で敗れた。




写真:2019年グランドファイナルでの平野美宇/提供:ittfworld

こうして五輪シングル代表の座は石川に渡った。平野は団体戦のメンバーに選出され、石川とダブルス組むことが予想されている。

2020年が始まり平野にとって厳しい幕開けとなった全日本選手権。しかし誰が何と言おうと平野が団体代表の座を自らの手で勝ち取ったのだ。悔しい思いも胸に秘めて臨むであろう初めての五輪。東京の地で彼女が日本女子代表を救うドラマを見逃してはならない。

文:P.N 家