サッカーを論ずるのを、いささか憚(はばか)られるような試合だった。

 その理由は劣悪なピッチコンディションにあった。雨はさほど激しく降っていなかったのだが、来るべく東京五輪に向けて改修した味の素スタジアム(ACLでの呼称は東京スタジアム)の芝は、まだしっかりと根づいていなかったのだろう。



ジュビロ磐田からFC東京に移籍してきたアダイウトン

 いたるところに水たまりができたピッチ上で繰り広げられたのは、ボールを蹴って走るだけの、サッカーとは趣(おもむき)の異なるスポーツだった。

 昨季のJ1リーグで2位となったFC東京が、ACL本選出場をかけて早くも今季の初陣を戦った。プレーオフの対戦相手はフィリピンのセレス・ネグロス。日本人選手ふたりを含むチームは同国王者の肩書を持っているとはいえ、その実力を考えればFC東京が問題なく本大会に進出するだろうと予想された。

 しかし、最悪のコンディションが試合を難しくした。パスはつながらず、まともにドリブルもできない。攻略の手段はロングボールを蹴り込んで相手よりも素早くゴールに迫るか、セットプレーの機会をモノにするほかない。

 そこには技術や戦術、組織力といったサッカーに求められる要素はなかった。必要だったのは、体力と気持ちの強さ、そしていくばくかの幸運だっただろう。ゆえに両者の力関係は、実際のそれよりも拮抗した。まさかの事態が起こる可能性は十分にあったのだ。

 それでも、勝ったのはFC東京だった。スコアレスで迎えた後半立ち上がりにチャンスを確実にモノにすると、終了間際にカウンターから加点。終わってみれば2−0の快勝劇で、ACLの出場権を手にしている。

「とりあえず、よかったです」

 開口一番、長谷川健太監督は安堵の言葉を漏らした。

 今季の初陣で、勝利のみが求められる一戦だ。しかもFC東京はこの試合で、新機軸である3トップのシステムを採用している。昨季の躍進の立役者となったディエゴ・オリヴェイラと永井謙佑が不在のなか、3トップに入ったのはふたりの新戦力と、J1での実績のない20歳の若手である。

 不確定要素があまりにも大きいなか、悪コンディションというさらなる不安要素が加わったのだから、重圧は小さくなかったはずだ。そのなかで勝利を手にしたという意味では、FC東京のしたたかな一面を垣間見た試合だった。

 最低限のノルマを果たした一方で、結果を得たこと以外の収穫は決して多くはなかっただろう。前述したとおり、判断を下すにはあまりにも特殊なコンディションであったからだ。

 とりわけ、戦術面を見極めるのは難しい。「天候は割り切って、シンプルにやろうと戦わせた」という指揮官の言葉からもうかがえるように、戦術以前の戦いであったからだ。

 唯一、判断できたのは、新戦力の力量だった。連係やフィット具合といったチーム戦術におけるものではなく、あくまで個人の力量についてだ。

 3トップの頂点に入ったのは、ジュビロ磐田から加入したアダイウトン。

 前所属時代には強引な突破が持ち味でサイドアタッカーの側面が強かったが、この日はCFの位置に入り、力強いスプリントを繰り返してロングフィードを追いかけた。走力だけでなく前線で泥臭くボールをキープし、起点となる役割も担うなど、チャンスメーカーとしても存在感を放っていた。

 一方で好機を逸する機会も目立ち、決定力に難があるかと思いきや、終了間際にカウンターからひとりで持ち出し、鮮やかなループシュートも決めている。

「前半からGKが前に出ていたので、チャンスはあると思っていた。後半、長いドリブルをしているなかでGKが出てきたのが見えたので、ループシュートと判断して決めることができました」

 自らの得点シーンを振り返ったブラジル人アタッカーは、「パワーやスピードといったストロングポイントをいくつか見せることができてよかった」と、新天地での初陣でまずまずの手応えを掴んだ様子だった。

 3トップの左に入ったのは、鹿島アントラーズから加わったレアンドロ。

 アダイウトンが剛なら、こちらは柔のドリブラーだ。悪コンディションのなかでも苦もなく切り返し、相手を翻弄。その独特なリズムのドリブルは、直線的なFC東京の攻撃にアクセントを加えていきそうだ。

「(右の原大智を含め)前の3人が絡んでチャンスメークもできていた。もちろん、流れるような形ではないですが、3人がそれぞれのよさを出してくれた」

 長谷川監督も、3トップのパフォーマンスには一定の評価を与えていた。

 昨季は強力2トップの存在が際立ったものの、このふたり以外の攻撃パターンがなかったのも事実。アダイウトンとレアンドロの加入により、その課題が解消に向かうことは想像に難くない。

 また、ヴィッセル神戸から加わったCBのジョアン・オマリも貴重な戦力となりそうだ。この日は攻め込まれる場面が少なかったとはいえ、落ち着いた対応でロングボールをしのぎ、質の高いフィードも見せている。レバノン国籍のためにアジア枠に該当することも、ACLの戦いにおいてアドバンテージとなる。

 外国籍選手だけでなく、インサイドハーフとしてスタメン出場した安部柊斗(しゅうと/前・明治大)もインパクトを放った。すでに特別指定選手として昨季にデビューしているものの、大卒ルーキーとは思えないほど落ち着いたプレーを披露。とりわけ後半は、果敢な攻め上がりで攻撃を活性化させる役割を担っていた。

 終了間際にピッチに立った中村帆高(前・明治大)、ベンチ入りを果たした紺野和也(前・法政大)も含め、大卒ルーキートリオはいずれも即戦力と評していいだろう。

 ほぼ固定メンバーで戦った昨季と比べ、今季のFC東京はポジション争いが活性化し、選手層とチーム力の向上が期待できる。昨季目前で逃したリーグ制覇と、4年ぶりに挑むACLでの躍進。個性的な面々が加わったFC東京はその両立を目指し、まずは好スタートを切っている。