昨オフにケビン・デュラント、カイリー・アービングを獲得した時点で、ブルックリン・ネッツはNBAイースタン・カンファレンス屈指の話題チームになった。 この2人が揃えば、本拠地をブルックリンに移転した2012年以降初となるファイナル制覇も…

 昨オフにケビン・デュラント、カイリー・アービングを獲得した時点で、ブルックリン・ネッツはNBAイースタン・カンファレンス屈指の話題チームになった。

 この2人が揃えば、本拠地をブルックリンに移転した2012年以降初となるファイナル制覇も狙える。昨季のファイナル中に右足アキレス腱を断裂したデュラントは全休が確実だが、勝負の来季以降も睨み、ネッツを包むポジティブな空気は薄れないと思えた。

 しかし……。2019-2020シーズンのネッツは予想外の苦戦を続けている。新エースのアービングが右肩のケガで26試合を欠場したことも響き、1月24日時点で18勝25敗の8位。昨季に4年ぶりのプレーオフ進出を果たし、さらなる補強を施して臨んだことを考えれば、今季は「期待外れ」と言われても仕方がない。




ネッツの新エースとして期待されていたアービングだが......

 そんな中、1月15日のフィラデルフィア・76ers戦に106-117で敗れたあと、アービングが残したコメントが物議を醸すことになった。

「ネッツにはとてもいい選手が揃っている。ただ、僕やKD(デュラント)、DJ(ディアンドレ・ジョーダン)、GT(ギャレット・テンプル)、スペンス(スペンサー・ディンウィディー)、キャリス(キャリス・ルバート)を補完するためのピースがもうひとつ、2つ足りないのは明らかだ」

 復帰後5戦のアービングは平均20.8得点、5.6アシストと好成績は残しているものの、なかなかチームの勝ち星につながっていない。そんな苦境下で、フラストレーションを隠しきれなかったのだろう。

 ただ、たとえそうだとしても、エースが「今のメンバーでは十分ではない」と公言するのはいかがなものか。また、アービングが言及した主力選手の中に、昨季のプレーオフ進出の原動力となったジョー・ハリス、ジャレット・アレンが含まれていなかったことから、余計に批判を集めることになった。

 2011年のドラフト1巡目全体1位でNBA入りしたアービングが、特別な才能に恵まれたPG(ポイントガード)であることに異論がある者はいないだろう。ゴール周辺でのフィニッシュのうまさはリーグ最高級。27歳にしてオールスターに6度選出され、NBAと五輪の両方で優勝経験があり、年齢的にも”全盛期”にあると言っていい。

 ただ、アービングは稀有な得点力を持った選手ではあるが、チームメイトを巻き込むのがうまいフロアリーダーではない。周囲を逆撫でするような不用意なコメントも今回が初めてではない。そんなコート内外の不安定さゆえか、セルティックスの看板選手だった昨季は、ジェイソン・テイタム、ジェイレン・ブラウン、テリー・ロジエーといった若手選手たちと不仲だったと伝えられている。

「カイリーはエレベーターの中で『こんにちは』と声をかけても、何も答えないような男だ。昨季のセルティックスは期待を裏切ったが、チーム内の問題の85%はカイリーに起因するものだった」

 セルティックス戦のテレビ中継を担当するブロードキャスター、マイク・ゴーマン氏は今季の開幕直後、『スポーツ・イラストレイテッド』のポッドキャストでそう述べていた。

 ネッツに移籍した今季も、アービングに関する好意的ではない噂話はちらほら聞こえてきている。実力が確かなものがあっても、メンタル面で疑問符がつく。チームメイト、スタッフにとって、アービングが一緒に仕事をしやすい選手ではないことは事実なのだろう。

 昨季のセルティックスは優勝候補の一角に挙げられながら、プレーオフでミルウォーキー・バックスに惨敗した。これまで記してきたとおり、アービングを獲得した今季のネッツも苦戦中。とくにアービングが出場したゲームでは5勝11敗、出なかったゲームでは13勝14敗という数字も残っており、一時は”アービング不要論”すら囁かれた。

 もっとも、「アービングがいないほうがいい」と考えるのは、やはり飛躍しすぎている。アービングが勝利に貢献できる選手であることは、クリーブランド・キャバリアーズ時代の2014年に、レブロン・ジェームズとともにファイナル制覇を果たしたことでも証明済みだ。

 まだシーズンは折り返し地点を過ぎたばかり。ネッツの浮上に必要なことは、まず主力選手が健康を取り戻し、”ケミストリー”を養成すること。後半戦を通じ、ケニー・アトキンソンHCはチームのサポーティングキャストとアービングをうまく融合させなければならない。セルティックスの知将ブラッド・スティーブンスHCですら信頼関係を築けなかったスーパースターを、どう使いこなすかにかかっている。

「私はこのチームが大好きだ。まだ目指す場所にはたどり着けていないが、いずれ到達できるという自信がある。選手たちが健康を取り戻せば、みんなで向上していけるはずなんだ」

 アトキンソンHCのそんな言葉どおり、新体制のネッツはシーズン後半に上昇気流に乗っていけるのか。それともこのまま停滞し、デュラントが復帰するだろう来季を待たなければいけないのか。

 すべてのカギを握るのは、背番号11を背負った新たなエーススコアラー。どちらに転ぼうと、今季の後半戦、そして真の意味で勝負をかけることになる来季にかけて、アービングとネッツがどんな時間を過ごすのかに、大きな注目が集まりそうだ。