永井秀樹 ヴェルディ再建への道トップチーム監督編(12)(11)はこちら>> 進化が楽しみな2シーズン目を迎えた永井ヴェルディに、頼もしい選手が加入した。永井秀樹にとっては、国見高校の後輩でもある元日本代表FW、大久保嘉人だ。「ヴェルディ黄…

永井秀樹 ヴェルディ再建への道
トップチーム監督編(12)

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 進化が楽しみな2シーズン目を迎えた永井ヴェルディに、頼もしい選手が加入した。永井秀樹にとっては、国見高校の後輩でもある元日本代表FW、大久保嘉人だ。

「ヴェルディ黄金期、ラモスさんは『ヴェルディらしいサッカーをして勝つ』という、こだわりが尋常じゃなかった。嘉人も、当時のラモスさんに近いよね。若い選手には、ぜひ、嘉人の貪欲さや勝負に対するこだわりを感じてほしい」



合流初日から軽快な動きを見せていた大久保嘉人に、永井秀樹監督も笑みがこぼれる

 Jリーグ史上最強のストライカーとも評される大久保は、日本代表として60試合に出場し、海外クラブでもプレーしてきた。東京ヴェルディの若手選手にとっては間違いなく最高のお手本となるはずだ。

 今シーズン、ヴェルディユースからは新たに5選手(馬場晴也、松橋優安、石浦大雅、藤田譲瑠チマ、阿野真拓)がトップチームに昇格した。藤本寛也、森田晃樹、山本理仁と合わせて、ユース時代の教え子はこれで8人になった。

 いずれの選手も世代別日本代表で活躍するなど、将来性は誰もが認める。しかし、永井は彼らに「プロとしての厳しさ」をまだ感じられずにいた。

 永井は、「常に数的優位を維持し、全員攻撃、全員守備。90分間、ボールを持ち続けて、相手を圧倒して勝つ」というトータルフットボール 、『美しいサッカー』を理想に掲げる。一方で、「心技体」の中でも、「心」を鍛えることを何よりも大切に考えている。「心」のない選手はどれだけ技術や肉体が優れていても一流にはなれないことを、身をもって学んできたからだ。

「嘉人は今も純粋なサッカー小僧だと思う。誰よりもサッカーが好きだから、誰よりも好きなサッカーでは絶対に負けたくない。この負けず嫌いが、時にはまわりから誤解されるような言動につながる場合もある。ラモスさんもそうだったけど、嘉人のような純粋な気持ちはものすごく大事。

 ある程度経験を積むと、変に知恵がついて『どう振る舞えば嫌われないか』とか『どう立ち回れば生き残れるか』みたいに考える選手も少なくない。

 例えば負けている試合、ロッカールームで、『やる気あんのか、お前ら!』みたいなことを言うとする。もし、その場に強化部長やクラブの役員がいたら、『ひどい口のきき方だな』と悪い印象を持つかもしれない。でも実際に気持ちの入っていない試合をして、戦う気持ちの感じられない選手が目の前にいたら許せない、というのが嘉人。変に知恵の働く選手は『今この空気感でそんなこと言ったら、俺の評価下がるな』みたいに計算する。嘉人は、サッカーに対して本当に純粋な気持ちを持っているからそれはできない。そういう純粋さは、俺は非常に大切だと思う」

 永井に「ヴェルディ再建のために力を貸してほしい」と口説かれた大久保は、どのように受け止めたのか。

 大久保は「国見の大先輩ですから、頭が上がらない」と笑顔で答えた。もちろん先輩からのオファーという理由だけで、プロ生活20年目という節目のシーズン、J1最多の185ゴールを積み上げてきた男が、J2でプレーすることを決めるとは思えない。

 一番の理由は、永井が理想とするサッカーに惹かれたからだった。

「サッカーの試合はあまり観ないんですけど、(監督が)永井さんになってからのヴェルディの試合は、気になって観ていました。永井さんになって、ヴェルディのサッカーはすごく変わった。選手みんなが生き生きしていて、おもしろいなと思った。それが一番の決め手ですかね。

 J1でも永井さんが取り組むようなスタイルのサッカーをしているチームはない。それをJ2でしている、というのはすごく魅力的でした。(川崎)フロンターレでもそうでしたけど、『またパスサッカーでやりたいな』という思いがあった。それはすごく大きかったですね」

 オフ期間中も走り込んでコンディションを整えてきた大久保は、始動初日(1月10 日)から異例ともいえる長時間のハードメニューとなった練習も、最後まできっちりこなした。



 2017年、永井の引退試合で揃った、大久保と国見高校の恩師である小嶺忠敏先生との3ショット

 ちなみにシャトルランはこの日、フロンターレ時代の14本から21本に増えた。37歳、ベテラン選手の驚異のスタミナに報道関係者も驚いていたが、もしかしたら、永井と同様「日本一厳しい」と言われた当時の国見高校サッカー部の練習経験者からすれば「J1昇格を本気で目指すなら、このくらい練習して当然」程度に受け止めていたかもしれない。

「(国見高校時代の恩師である)小嶺先生からも『永井はしっかりしているから大丈夫だ』と言われました。(永井さんは)J1でも、なかなかないサッカーをしているから、ほんとに楽しみしかない」(大久保)

 フロンターレ時代の2013年、当時の風間八宏監督が掲げたパスを主体につなぐ攻撃的なサッカーにフィットした大久保は、ヴィッセルに在籍していた前シーズンの4得点から26得点を挙げる活躍を見せて得点王に輝いた。さらにその後、Jリーグ史上初となる3年連続得点王という偉業を達成するなど、第二の全盛期ともいえる活躍を見せた。

 チーム最年長の37歳という大久保の年齢について永井に質問すると、「37歳なんて、全然老け込む年齢じゃない」と笑い飛ばし、「引退はもっと先でいい。ぜひヴェルディをJ1に導いて、ヴェルディのユニフォームを着てもう一度、J1の舞台で暴れてほしい。そして、ヴェルディのユニフォームで、J1通算200ゴールを目指してほしい(現在は歴代最多のJ1通算185ゴール)」と期待を寄せた。

 J2開幕(2月23日)まであと1カ月あまり。大久保がそれまでに、どこまで戦術理解を深め、若手選手に刺激を与え、チーム全体の底上げに貢献できるか注目したい。