「氷上の格闘技」と呼ばれるアイスホッケー。日本ではソチ、平昌と二大会続けてオリンピック出場を果たし、「スマイルジャパン」の愛称で知られる女子アイスホッケーへの注目度が、近年は男子を圧倒している。

そんな女子アイスホッケー日本代表の監督として戦った男が、パラアイスホッケー日本代表の舵取り役に就いた。

信田憲司(のぶた・けんじ)。実年齢を知ると驚かされるほどエネルギッシュな59歳だ。

17季にわたって指揮を執った中北浩仁前監督から、2019年6月に「監督」のバトンを受け渡された信田新監督は、就任にあたって「北京2022冬季パラリンピックで前大会(平昌)の成績を上回る」との目標を掲げた。

信田新監督がパラアイスホッケーにかかわるようになったのは、海外でプロアイスホッケー選手を目指していた中北前監督が、現役時代に信田監督が在籍していたコクド(※1)に直訴して、練習に参加したのが縁となった。旧知の二人は昨季まで監督とコーチとして日本代表を率いてきたが、世界を股にかけるビジネスパーソンの中北前監督は、多忙を極めることから、信田新監督誕生と相成ったのだ。

※1 コクド:アイスホッケー日本リーグに所属していたチーム

強い危機感を抱いて監督に就任

 とにかく強い危機感を抱いていました。もともと中北前監督に誘われたのがきっかけで、アシスタントコーチという役割を担って日本代表を指導していましたけれど、監督に就任したときは、平昌2018冬季パラリンピック(8ヵ国中8位)を戦い終えて、多くの選手が引退してしまったので……。

 多くの主力選手が引退しましたが、パラリンピックのニュースや、試合中継などを見た人たちが、パラアイスホッケーという競技を知ってくれました。「他のスポーツをやっていたけれど、パラアイスホッケーをやってみたい」という選手も、少しずつ出始めているので、楽しみなチームになりそうだなと思っています。

 今まで日本代表に最も足らなかったのは、「チーム内で競争する環境」です。海外のライバルチームと競い合って勝つという意識はあっても、チーム内での競争意識は、ほとんど見られませんでした。でも最近は、チーム内の競争意識が芽生え始めて来ていますから、選手たちの意識が、かなり変わってきていると思います。

 課題を克服していくためには、どこへ出向いて、どのような相手と戦うのがいいのかを考えて、強化スケジュールを詰めていくようにしています。

海外遠征が減少。指揮官はどのように戦う?

 以前に比べると、シーズン中に何度も海外遠征を繰り返すようなスケジュールを組むのは難しいですし、相手チームの事情でキャンセルになることもあります。今季も日本とレベルの近いスウェーデンとの試合を予定していたのですが、スウェーデン側の事情によってキャンセルになってしまい、ランキングが上位のイタリア、ノルウェーと戦うことになりました。

 チームの方針に沿って、選手たちにはしっかりとしたホッケーをして欲しいです。具体的には、状況に応じて動くと言った基本も含めたチームのシステムを徹底して覚えてもらいます。これまでは、こう動いていれば大丈夫だろうと、何となくプレーをしていた時間もあったでしょうけれど、「日本代表の戦い方は、こういうスタイルだ!」という自分たちのシステムを、全員が完璧に頭に入れてプレーをしてもらうようにします。

 日本の選手たちに、これからサイズを求めるのは酷な注文ですから、システムの徹底や、プレースピードを上げることが必要になるはずです。そのためには筋力やパワーはもちろん、先を読む力も上げていかなければならないと思っています。

 平昌パラリンピックに出場した効果で、パラアイスホッケーをやってみたいという選手が、少し増えてきたようです。おかげで今シーズンは育成選手も練習に参加しています。

 基礎体力アップと並行して、状況に応じたプレーができるように“ホッケーIQ”を上げていくことをテーマに挙げています。

 いろいろなタイプの選手がいますから、選手たちに考えさせることも大事だと思っています。

 育成選手たちが、かなり頑張っているので、ベテラン勢が「負けられない!」と刺激を受けている様子です。逆に育成選手をはじめとする若い選手たちは、日本代表でプレーしてきたベテランと一緒にプレーできるのは、とても大きいと思います。

パラアイスホッケーに期待の新星現れる!

 筆頭格は石川雄大(FW・東京アイスバーンズ所属)です。トレーニングに対する姿勢がしっかりしている選手で、スレッジ(※2)に乗ったときのバランスが上手に取れるようになってきました。さらに、パスレシーブの確実性も上がってきました。

※2 スレッジ:選手がプレー中に腰掛けるそり

 新津和良(FW・長野サンダーバーズ所属)は、車いすバスケットボールをやっていたので、センスのいい選手です。少しでもリンクで練習しようとMウェーブ(長野市オリンピック記念アリーナ)の一般滑走時間に通い続けていたら、その話を耳にされた橋本聖子参議院議員が、もっと練習時間がとれるようにしてあげたらと、進言してくださったそうです。

 期待の若手として、楽しみな選手も出てきています。その筆頭格は中学生の関谷譲(GK・東京アイスバーンズ所属)です。GKをやりたいと志願してきたのですけれど、まだ体が小さいし、最初はすぐやめてしまうんじゃないかな?と思いました。

 どのポジションも大事ですけれど、GKが安定しているのが一番大事ですから。

text by Jiro Kato

photo by Haruo Wanibe