ワールド・ベースボールクラシックに向けてのインスタグラム活用法侍ジャパンの今後の戦いとしては、2017年にワールド・ベースボールクラシックを控えている。そこで若い世代を巻き込むために日米大学野球選手権と8月27日に開催される「侍ジャパン壮行…

ワールド・ベースボールクラシックに向けてのインスタグラム活用法

侍ジャパンの今後の戦いとしては、2017年にワールド・ベースボールクラシックを控えている。そこで若い世代を巻き込むために日米大学野球選手権と8月27日に開催される「侍ジャパン壮行試合 高校日本代表対大学日本代表」の試合でInstagramを使った新たな実験を模索した。

SNSマーケティングを進めていく上では、実際にSNSを使っている大学生の意見を聞き、テストをおこなうことにした。 11月10日から13日に開催されるメキシコとオランダ代表との強化試合、そして2017年開催のワールド・ベースボールクラシックでより大きな成果を出すために、若い世代に直接耳を傾けることで答えに近づくことを目指した。

若い世代からの興味が薄れている危機感からSNSマーケティングに着手し、試験的な実験をおこなってきた侍ジャパン。後編では、大学スポーツチャンネルと共に描くワールドベースボールクラッシックへ向けた今後の展望について引き続き侍ジャパンの加藤譲次郎氏、そして大学スポーツチャンネルの山内一樹氏にお話を伺った。

 

大学スポーツチャンネルと手を組んだわけ

今、SNSはファン獲得のためには欠かせないツールとなっている。ふと隣の業界に目を向けるとJリーグもBリーグもInstagramを使ったプロモーションを多く手がけていることに気付いた、と加藤氏は言う。

実は、JリーグやBリーグのInstagram運営を手がけていた存在が大学スポーツチャンネルだった。

侍ジャパンの加藤氏と大学スポーツチャンネルの山内氏は以前から情報交換をする仲であり、侍ジャパンがSNSで新たなマーケティング戦略を模索する中、すでにFacebook上で繋がっていた二人は手を取り合うこととなった。

デジタルメディア、そしてキャリアサポートの2軸で事業を展開している大学スポーツチャンネルの強みは紛れもなく、若い世代を知り尽くしていることだ。若い世代へのマーケティングのノウハウを蓄積している強みを活かして、今回の侍ジャパンのように若い世代に向けてのデジタルの領域を使ったマーケティングサポートも展開している。俗に言う、ミレ二アムズマーケティングである。

 

大学生に試合へ来てもらうための策略

まず侍ジャパンが求めたのは日米大学野球選手権、そして高校日本代表対大学日本代表の試合に若い世代に興味をもってもらうことだ。そのためには、どう若い世代にアプローチをするべきかに悩んでいた。

大学スポーツチャンネルが強調したのは、いかに野球に興味のない人たちのライフタイムラインに載ることができるかだ。若い世代ではマスメディアを見る人たちが減ってきており、生活の中心となっている情報源はSNSである。スポーツに興味のない人がタイムライフラインに野球に関することを投稿することで、その口コミ効果はさらに広がっていく。

「リア充」になるためには、SNS上でそれを表現できるアクティビティーに参加する必要がある。中心となってアクティビティーに参加し、インフルエンサーとなる人たちは大抵決まっているのである。その子達をまずはターゲットとすることで、その投稿を見て興味を持つ人たちが増えていく効果を狙う。そのためにはSNS映えする写真を撮れる機会をいかにして作り出すかというのが課題としてあがった。

侍ジャパンにはその存在を10代、20代に身近に感じてもらうために学生アンバサダーを募集し、応募の中から5人を選出した。若い世代がどのようなデザインなら写真を撮りたいと思うか、そのヒントを彼女ら5人のアンバサダーから求めた。

打ち合わせを重ねることで生まれたのが、結婚式などで良く見られる小道具と共に写真を撮るフォトプロップスだ。Instagramのフレーム枠と共に、小道具を手に写真を撮ることで「リア充」感をより伝えることができる。イベント当日の前にもInstagramを利用して、若い世代へ試合の告知をおこなった。

さまざまなイベントが存在する中、若い世代に野球の試合というイベントを選んでもらうために発案されたのが”ちょんまげヘアー”だ。

これから夏本番を迎え、若い世代の女性が髪の毛をアップでお団子にするスタイルが増えていくだろう。そのスタイルを侍のちょんまげにかけて、”ちょんまげヘアー”と名付けた。ファッション系のアプリなどで展開されているトレンドを上手く取り入れることによって野球ファン以外の女性にもリーチすることを試みた。若い女性に人気のアプリとも提携して、このヘアースタイルの動画をアップした。

 

成果と今後の課題

当日、フォトスポットの列は絶えなかった。さらにテレビ放送やSNS上では、フェイスペイントをした若い世代の楽しんでいる様子が多く上がった。

侍ジャパンの社内だけでは生まれることがなかったであろう、#お侍ちゃんというトレンドワードが大会期間中はSNSで大盛り上がりを見せた。

侍ジャパンが楽しみ方を作るのではなく、ファンが楽しんでもらう形に乗っていく戦略。これは大学スポーツチャンネルと力を合わせることで見えた新たな楽しみ方の形であり、加藤氏いわく他競技のイベントに足を運ぶことで得たヒントでもあった。サッカー日本代表のW杯2次予選の試合に訪れたとき、若い世代の自撮り率、そして場の雰囲気を楽しんでいる観客の様子が目に入った。まだ最終予選ではなかったこともあるが、勝負をしに来ているファンだけではないことを、ファンとして現場に足を運ぶことで生まれた気付きだった。

ちょうどこのインタビューをさせていただく前には、学生アンバサダーたちが次に向けた戦略会議をおこなっていた。野球の要素だけではなく、美容師を球場に呼ぶなど+αの楽しみ方を今後も提供していくために知恵を絞り出していた。これから侍ジャパンがどういったトレンドワードを生み出していくのかも楽しみの一つになっていきそうだ。

8月27日に高校日本代表対大学日本代表の一戦がQVCマリンフィールドで開催される。そして来年は集大成の1つであるワールド・ベースボールクラシックを控えている。その時、若い世代が好きなことのうちの一つに野球が仲間入りをするための仕掛けを今後も侍ジャパン×大学スポーツチャンネルが続けていく。

文:新川諒