東京オリンピックで輝け!最注目のヒーロー&ヒロインレスリング 川井梨紗子 編 リオデジャネイロオリンピックで金メダルを獲得したのち、翌年から世界選手権を3連覇——。今や日本女子レスリングの最強エースであり、6人の…

東京オリンピックで輝け!
最注目のヒーロー&ヒロイン
レスリング 川井梨紗子 編

 リオデジャネイロオリンピックで金メダルを獲得したのち、翌年から世界選手権を3連覇——。今や日本女子レスリングの最強エースであり、6人の代表選手をリードする頼もしいキャプテンとして、57キロ級の川井梨紗子(ジャパンビバレッジ)は2020年の東京オリンピックを迎える。

 ただ、そんな彼女も4年前のリオでは、5番手の選手に過ぎなかった。



2020年の東京オリンピックで2連覇に挑む川井梨紗子

 それまでのトップ2はもちろん、伊調馨と吉田沙保里のふたり。「金メダル獲得確率100%」とまで言われるほど実力の抜きん出ていた両者は、長きにわたって日本女子レスリング界を引っ張ってきた。

 このふたりの”絶対女王”に次いでリオで期待されていたのは、早くから「吉田二世」と称され、世界選手権3連覇中の登坂絵莉(東新住建)。そして、吉田の父・栄勝に幼少時代からタックルを叩きこまれ、史上最年少16歳6カ月で全日本選手権を制した土性沙羅(東新住建)だ。

 当時の川井の評価は、彼女たちよりも下だった。オリンピック前年の世界選手権は初出場ながら準優勝したものの、決勝ではモンゴルのバトチェチェグ・ソロンゾンボルトにパワーで圧倒されてフォール負け。まだまだ世界との差があることを露呈し、「リオではメダルに届けば……」というのが大方の予想だった。

 ところが、63キロ級で出場したリオ本番では、4試合で失点わずか2。準決勝では強敵ロシアのインナ・トルスコーヴァにテクニカルフォールで勝利し、決勝戦でもベラルーシのマリア・ママシュクを6−0で破るなど、最後までまったく危なげない試合運びで金メダルに輝いた。

 オリンピック4連覇を狙った吉田は銀メダルに終わり、金メダルを獲得した伊調、登坂、土性も決勝戦では終了間際の大逆転で薄氷の勝利。川井の安定した強さだけが際立っていた。

 勢いそのままに、川井はオリンピック翌年の世界選手権、さらには2018年の同大会も制して連覇を達成。すると、一大決心をした。

「東京オリンピックは妹・友香子(至学館大)とともに出場を果たし、姉妹でメダルを獲得する!」

 女子レスリングでは、2004年アテネ大会と2008年北京大会に伊調姉妹が同時出場。両大会で姉・千春が48キロ級・銀メダル、妹・馨が63キロ級・金メダルに輝いた以来の偉業挑戦である。

 ただ、川井姉妹は伊調姉妹と違い、ふたりの体重差は大きく開いていなかった。そのため、3歳年下の妹・友香子を62キロ級にして、自分は57キロ級へ下げる決断をする。

 前回のリオ大会、川井はオリンピックに出場するために階級を63キロ級に上げて、伊調との代表争いを回避した。しかし今回、その道を避けては通れない。それでも、川井は「姉妹同時オリンピック」という夢を果たすべく、高らかに公言した。

 結果はご存知のとおり。

 2018年12月の全日本選手権では伊調に敗れたものの、半年後の2019年6月に行なわれた全日本選抜選手権では見事リベンジ。さらに7月の世界選手権・代表決定プレーオフでも勝利して出場権を獲得し、9月にカザフスタンで行なわれた世界選手権で優勝。東京オリンピック代表に内定した。

 一方の妹・友香子も、姉との壮絶な練習で著しい成長を遂げた。2018年全日本選手権と2019年全日本選抜選手権を制覇し、世界選手権で銅メダルを獲得。姉・梨紗子に続いて東京オリンピック代表に内定し、次は「姉妹でオリンピックメダル獲得」に挑む。

 川井と伊調の戦いは、8カ月に及ぶ熾烈なものだった。そのなかで、川井は何を掴んだのだろうか?

 川井の強さは、パワーあふれるタックルにある。逆にネックは、ここ一番でもろいディフェンスだ。川井はあえてウィークポイントには目をつぶり、自らの武器を徹底的に磨いたという。その結果、女子レスリングの最高傑作と評されてきた伊調のディフェンスを崩してポイントを奪取し、ついに勝利した。

「馨さんに崩されてポイントを奪われても、それ以上に攻めて1点でも上回ればいい」

 川井はその信念を貫いた。

 また同時に、世界で最もレベルの高い代表争いのなかでメンタル面も磨かれた。

 復帰した伊調と初対決となった全日本選手権。逆転負けを喫した川井は「やっぱり馨さんには勝てない。レスリングをやめようか……」とも悩んだという。

 だが、そこから立ち直った。あとがない土壇場で、川井は伊調以上に勇気を持って攻め続けた。

 国民栄誉賞を受賞し、前人未到のオリンピック5連覇に挑む伊調を応援する国民の声は予想以上に大きかった。卒業後も練習拠点とする至学館大の監督であり、日本レスリング協会強化本部長でもあった栄和人氏のパワハラ問題にも翻弄された。計り知れないプレッシャーだっただろう。

 しかし、どんなに追い詰められても、川井は前を見て、最後まであきらめずに戦い抜いた。

 ほぼノーマークだった前回大会とは違い、世界中の選手が川井を研究し、対策を練り上げてくる。リオのようにはいかないことは百も承知のはずだ。

 2019年の世界選手権前、川井はこう言い切った。

「馨さんに勝った者として、ここで負けるわけにはいかない」

 相手が「打倒・川井梨紗子」で来るならば、それを凌駕する強さを身に着けるしかない。姉妹で挑むからこそ、がんばれることもあるだろう。川井は大きな夢に向かって突き進む。

「オリンピックで連覇してこそ本物」

 伊調馨、吉田沙保里という偉大なる大先輩の背中をずっと追いかけてきた川井梨紗子は、そう自分に言い聞かせている。