東海大・駅伝戦記 第74回

「箱根を3人一緒に走れるのは、すごくうれしいです」

 東海大・西田壮志(3年)は笑みを浮かべてそう言った。

 西田の言う3人とは、3年生の「黄金トリオ」と言われる西田、塩澤稀夕(きせき)、名取燎太のことである。



東海大期待の(写真左から)名取燎太、西田壮志、塩澤稀夕の3年生トリオ

 今シーズン、「黄金世代」と呼ばれる4年生の主力の調子が上がらないなか、チームを引っ張ったのがこの3人だった。

 塩澤は出雲駅伝に出走し、3区で区間新を出すなど1年時以来の3大駅伝で好走した。

 続く全日本大学駅伝では、初めて3人が揃って出場。塩澤が3区で区間新、西田は4区で区間賞を獲得。そしてアンカーを務めた名取は、青学大を逆転して16年ぶりの優勝に貢献した。黄金世代の主力がひとりも出場していないなか、この3人が中心となって勝ったのである。塩澤は言う。

「黄金世代の4年生が抜けたあと、東海大は戦力が落ちると言われていて、自分たちも危機感を抱いていました。この1年は先輩たちに食い込んでいかないといけないと思っていましたし、自分らを含めた下級生たちがいかに活躍できるかというのを考えて取り組んできました。そんななか、自分と名取、西田が全日本の優勝に貢献できたのはすごく自信になりました」

 この全日本の勝利で3年生の”黄金トリオ”が得たものは非常に大きかった。

 塩澤は出雲、全日本を走り、「2回、東洋大の相澤(晃)さんと走って、張り合うまではいかないけど、自分なりにしっかり走ることができた。これからはエースと呼ばれる走りをしていきたい」と、さらなる飛躍を誓った。

 西田は全日本4区で区間賞を獲り、「平地でも戦えることが証明できたし、走力が上がったことで山に生かせる」と、自身の成長に大きな自信を持った。

 名取は全日本でアンカーとして競り勝ち、57分台という両角速監督ですら予想しなかったタイムで優勝の立役者となった。

 箱根前の合宿でも、3人は好調を維持しており、「3年生の勢いがすごい。4年生はうかうかしてられない」と館澤亨次キャプテンが語るほどだ。両角監督も3年生の成長を認める。

「3年生は4年生という大きな存在があったからこそ、ここまでこられた。ただ、その裏には地道な努力が相当あったと思います」

 ここまま順調にいけば、全日本に続き、箱根駅伝でも3人の力が必要になるのは間違いない。

「ようやく(3人で箱根)ですね。ここまでちょっと時間がかかりましたけど……」

 塩澤は小さな笑みを浮かべて、そう言った。

 東海大に入学して、3人の明暗は分かれた。名取は故障が続いて結果を出せず、3大駅伝に絡めなかった。塩澤は全日本大学駅伝に出走したが、大腿骨の疲労骨折で箱根は走ることができなかった。そんななか、西田は当時、唯一の1年生として箱根駅伝のメンバー入りを果たした。

「3人で一緒に箱根を走ろう」

 それが3人の合言葉になった。

 だが2年時も、実現することはできなかった。西田は春のトラックシーズンを順調にこなし、夏には実業団の合宿に参加し、同部屋の服部勇馬(トヨタ自動車)から練習への取り組みや体のケアを学び、選手として大きく成長した。そして箱根駅伝では念願の5区を区間2位の走りでチームを優勝へと導いた。

 一方、塩澤は膝の故障に苦しみ、駅伝を狙える状態ではなく、名取はまたしてもケガが続き、両角監督の”再生工場”に入門し、独自の練習を続けた。

 名取は箱根の山を軽快に走る西田の姿をうらやましがり、塩澤は走ることができなかった悔しさが徐々に大きくなっていった。優勝祝賀会やパレードでは裏方にまわり、壇上で声援を浴びる仲間の姿を見て、「自分もそこに立ちたい」という気持ちが強く湧いた。

「もうこんな悔しい思いはしたくない。今年こそは……という気持ちを強く持って、3年の時は挑みました」

 塩澤は副キャプテンになり、チームのハンドリングをしつつ、故障しない走りに取り組んだ。きっかけとなったのは、2019年1月のアメリカ合宿でのコーチの助言によって走り方を変えたことだ。それが功を奏し、塩澤は故障することなく、今シーズンここまで走ってきた。

 名取は”再生工場”で、距離を踏んで脚をつくってから、チーム全体練習に合流した。3年になっても慎重に脚づくりを進め、大会も限定するなど、無理のないように調整してきた。その結果、走力がアップし、札幌マラソン(ハーフ)で優勝するなど、本来のポテンシャルが開花。そして先述したように、全日本では一躍ヒーローとなった。そんな名取を見て、塩澤は仲間ながらすごさを感じたという。

「名取のすごさは近くで見ていたのでよくわかります。あらためて強いランナーだと思いましたし、名取の走りを見て、負けてられないと思った。そうして切磋琢磨して力を高めることができたので、名取、西田がいてくれてほんとよかったと思います」

 3人の走りは、さらに同学年の仲間を刺激した。鈴木雄太は前回に続き、今回の箱根駅伝も16名のエントリーメンバーに入った。さらに米田智哉も、高島平ロードレースで61分31秒(部内2位)、上尾ハーフで63分10秒(部内4位)と調子を上げ、メンバー入りを果たした。

 塩澤はうれしそうにこう言った。

「自分たちの学年は9人いるのですが、今回5人が箱根のメンバーに入った。残りの4人も次の箱根は走らないと……という感じになっているので、学年としてはすごくいい感じになっていると思いますし、黄金世代が抜ける来シーズンにつながると思います」

 名取も「3人で走れるのは本当にうれしい」と語る。

「同級生が一緒に走れるのは心強いですし、同時に『やってやろう』という気持ちになっています。だから、箱根はめちゃくちゃ楽しみです」

 名取は12月29日の区間エントリーで補欠に回ったが、当日変更で走ることが濃厚だ。全日本と同じく3人が揃って100%の走りができれば、ほかの選手への刺激にもなり、箱根連覇も見えてくるだろう。西田は自信に満ちた表情でこう語る。

「2年間は3人で走りたくても一緒に走ることができなかった。今シーズンは全日本で3人が揃って走り、優勝という形で終えることができた。やっぱり3人が揃うと強いなって感じたので、箱根も強さを見せて優勝したいですね」

 3人が誓い合った約束を果たす時が、ついにやってくる。