悲願の単独初優勝へ--。 12月27日に幕を開ける「花園」全国高校ラグビーフットボール大会に向けてそう意気込むのが、日本代表WTB(ウィング)松島幸太朗(サントリー)の母校としても有名な桐蔭学園(神奈川)である。伊藤大佑は桐蔭学園を初の単…

 悲願の単独初優勝へ--。

 12月27日に幕を開ける「花園」全国高校ラグビーフットボール大会に向けてそう意気込むのが、日本代表WTB(ウィング)松島幸太朗(サントリー)の母校としても有名な桐蔭学園(神奈川)である。



伊藤大佑は桐蔭学園を初の単独優勝に導けるか

 昨年度の花園では、決勝で大阪桐蔭(大阪)に惜敗して涙を呑んだ。だが、今シーズンの桐蔭学園はひと味違う。

 春の選抜大会で史上2校目の3連覇を達成し、サニックスワールドユースでは過去最高の3位入賞。夏の7人制ラグビー「アシックスカップ」も制した。そしてシーズンを締めくくる花園では、史上3校目となる「高校3冠」を狙っている。

 そんな無類の強さを発揮している桐蔭学園を引っ張っているのが、キャプテンのSO(スタンドオフ)伊藤大佑(3年)だ。ランとタックルに長けた選手で、1年生からレギュラーとしてFB(フルバック)やアウトサイドCTB(センター)でプレーしてきた。

 今シーズン、藤原秀之監督は決断する。「ディフェンスもできるし、これだけランのできるSOは日本にはいない。世界を見据えてやるならSOのほうがいい」。伊藤を10番にコンバートした。

 11月に行なわれた東海大相模との神奈川県予選決勝でも、伊藤はSOとして成長した姿を見せた。「相手の嫌なところに(キックを)蹴っていましたね」。藤原監督が好評価を与えていたように、伊藤は38-14でチームを勝利に導き、5年連続18回目となる全国大会への出場を決めた。

「まだまだSOとして成長できる面はあります。キャプテンとして、SOとして熱くなりすぎず、コントロールすることが大切だと思っています」

 花園行きを決めても、伊藤は気を緩めずさらに引き締めていた。

 伊藤は福岡県東久留米市出身。大阪体育大でプレーしていた父や兄の影響で、6歳からりんどうヤングラガーズで競技を始めた。ラグビーと同時に柔道も習い、小学校3年時には軽量級で九州王者になるほどの腕前だった。

「受け身や身のこなし、低い姿勢など、柔道の経験は今にも生きています。ただ、ラグビーのコーチのほうが優しかった(苦笑)」

 小学校4年時からラグビーに専念した理由を、伊藤はそう振り返る。なお、中学時代に柔道48kg級で全国2位となった姉・優希は筑紫高に進学してからラグビーを始め、現在は三重パールズでプレーしながら女子7人制ラグビー日本代表候補として東京五輪を目指している。

 中学から筑紫丘ラグビークラブジュニアスクールに移った伊藤は、中学3年時に太陽生命カップのスクールの部で全国優勝を果たす。さらに福岡県選抜として全国ジュニア大会でも準優勝し、チームの中心として活躍した。

 当然、伊藤には地元・福岡の高校など多くのラグビー強豪校から声がかかった。だが、伊藤は新たな遠い地を選ぶ。

「先輩たちのプレーをテレビで見て憧れていました。日本代表になるなら桐蔭学園でやったほうがいいと信じて入学しました」

 1年前に姉の優希が日体大に入学し、父親の海外赴任も後押しとなり、伊藤は進学とともに家族で神奈川県に移り住んだ。

 高校生になった伊藤は、1年生でFB、2年でアウトサイドCTB、そして今年からSOを経験している。

「桐蔭学園に入って、練習でも自分からアイデアを持ってプレーするようになりました。また、複数のポジションを経験したことでいろんな選手の気持ちもわかるようになり、いろんなスキルが伸びました」

 桐蔭学園の練習は基本的なドリルが中心だが、コーチが声を荒げて何かを指示されることはほとんどない。選手たち自らが判断して指摘しあう、桐蔭学園の文化が伊藤に合っていたという。

 今シーズン、伊藤にとって大きな転機となった試合がある。それは春の選抜大会の準々決勝、2010年度の花園で引き分けて両校優勝となったライバルの東福岡(福岡)戦だ。伊藤は右親指の負傷から復帰したばかりということもあり、予選リーグであまり調子が出ず、藤原監督に活を入れられたという。

「昨年度のチームと同じでは勝てない。やり方を変えないといけない。相手を分析することは一切せず、それよりも自分たちの強みとは何か……」

 試合前日にそう感じた伊藤は、選手たち全員のミーティングで2時間ほどかけて話し合った。その結果、FWとBKが一体となったアタックで67-21と大勝することができ、伊藤はキャプテンとしてもSOとしても「大きな自信になった」と振り返る。

 2000年代に入って、花園での準優勝は計5度。2010年度には両校優勝したものの、桐蔭学園はいまだ単独優勝に手が届いていない。

「花園に入ってから技術はもう伸びないし、体力も減っていくだけ。花園に行く前に『優勝する』という自信を持っていかないといけない。一昨年度(3位)、昨年度(準優勝)のチームはそういう気持ちを持っていなかった」(伊藤)

 桐蔭学園は花園開幕が迫った12月、大学選手権に出場している強豪大学2校に出稽古に行き、強度の高い練習を重ねたという。

 今年度の桐蔭学園の武器は、例年より強力になったFW陣だ。スクラムを引っ張るPR(プロップ)床田淳貴(3年)、ラインアウトに強いLO(ロック)安達航洋(3年)、パワフルなボールキャリアを見せるLO青木恵斗(2)、U17日本代表主将のNo.8(ナンバーエイト)佐藤健次(2年)など、大会屈指の選手層を誇っている。

 それらを前面に押し出しながら、パスをつなぐ伝統の継続ラグビーで攻めるのか、それともキックを絡めつつセットプレーでトライを狙うのか。すべては伊藤の判断がカギを握っている。

「継続ラグビーが最終的な強みになると思いますが、今年のチームはFWとBKのバランスが取れているので、キックを蹴るところはしっかりと蹴る。そしてFWがスペースを作ってくれれば、BKでそこを縦に突く。そこの指揮者が僕だと思っています。どのチームも完璧なディフェンスはないと思うので、毎試合5本、トライを獲れば優勝できると思います」

 今年度のスローガンは、3年生みんなで決めた「一心」だ。練習でも、試合でも、心をひとつにワンプレーに心を込めるという意味だ。

 あの松島先輩も成し得なかった単独優勝へ--。司令塔・伊藤が「東の横綱」を頂点に導く。