Why JAPAN? 私が日本でプレーする理由元サガン鳥栖 フェルナンド・トーレス(3)今年27年目のシーズンを終えたJリーグ。現在は、じつに多くの国から、さまざまな外国籍選手がやってきてプレーするようになった。彼らはなぜ日本でのプレーを選…

Why JAPAN? 私が日本でプレーする理由

元サガン鳥栖 フェルナンド・トーレス(3)

今年27年目のシーズンを終えたJリーグ。現在は、じつに多くの国から、さまざまな外国籍選手がやってきてプレーするようになった。彼らはなぜ日本でのプレーを選んだのか。日本でのサッカーや、日本での生活をどう感じているのか? この連載では、彼らの本音を聞いていく。

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「残念ながら、最初の(2018年)シーズンは残留だけが目標だった。僕が入団した頃、サガン鳥栖は順位表の下のほうにいた。ただ難しい状況ではあったけれど、選手やクラブの人々、そしてファンはあきらめずに戦い、見事に残留にこぎつけたんだ」



Jリーグでのプレーについて語った、フェルナンド・トーレス

 フェルナンド・トーレスは昨シーズンを振り返って、そう話した。彼の言葉どおり、鳥栖に加入した頃、チームは降格圏に沈んでいた。トーレスがピッチに立ち始めてから初白星まで4試合を要し、彼自身のゴールは8試合目のガンバ大阪戦だった。

 3-0の快勝を収めたこの第24節では、1ゴール、2アシストと全得点に絡む活躍を披露。しかし本人の記憶にもっとも残っているのは、別の試合と得点だという。

「(第33節の)横浜F・マリノス戦のことは絶対に忘れないよ。あれが僕のJリーグでのハイライトだと思う。前半に相手に先制され、そのままいけば、いよいよ降格の危機が待っていた。でも後半に1点を返すと、スタジアムの空気が一変したんだ。サポーターの応援にいっそう力が入り、チームを信じられるようになり、人々の目には希望の光が灯り始めた。僕はそれをはっきりと覚えているよ。

 そして僕が逆転ゴールを決めると、多くの人々が喜びを爆発させ、なかには涙を流している人もいた。ほんの少し前には、試合経過に不安を覚え、落胆していたのだから、喜びもひとしおだったはずだ。もちろん僕ら選手たちもそうだった。みんなのハッピーな顔はずっと覚えているよ。

 あの試合にはフットボールの醍醐味が詰まっていた。ひとつの試合のなかで、さまざまな感情を味わうことがきたのだから。それがフットボールだ。90分間で、あらゆる感情が湧き上がるものなんだ」

 最終的には、その次の最終節で鹿島アントラーズと引き分けて残留が確定したわけだが、鳥栖にとって、あのトーレスの逆転ゴールが持つ意味は非常に大きかった。昨シーズンは3得点、今シーズンは2得点と、彼が残したゴール数は決して多くなかったが、ここぞという時に重要な働きを見せたのだ。

 そんなトーレスの活躍について、村井満チェアマンは次のように話した。

「やっぱり、前線の中央で『ボールを任せろ!』と構える姿でしょうか。オーラと言ってしまうと手垢のついた表現なんですけど、そういうものを感じました。味方も敵もファンも、本当にみんながトーレスさんを見ていました。惹きつけられるものがありましたよね」

 現役を引退したあとも鳥栖のアドバイザーとして、クラブやJリーグと関わり続けるトーレスは、「今後、(Jリーグに)もっと外国籍選手が増えると思う」と言う。とくに彼やアンドレス・イニエスタの同胞が多くなる気がしているそうだ。

「日本のクオリティーの高い生活やJリーグの優れた競争力を、多くの人に伝えていきたい。この国には、親切な人々がたくさんいて、おいしい食事や美しい文化もある。それからどんな選手でも、Jリーグで成長できる。レベルが高いから、欧州主要リーグへのステップと捉える選手が出てくるかもしれない。

 だから、今後はさらに多くの外国籍選手がやってくるだろう。とくにスペイン人選手が増えるんじゃないかな。なにしろ、僕らスペイン人がスムーズに順応できたわけだからね」

 トーレスの言葉に大きく頷く村井チェアマンからも、世界中のフットボーラーへメッセージが発せられた。

「サッカーの世界で中心といえば、ヨーロッパと南米ですが、次に続くのはアジアだと思います。人口が多く、発展の余地が大きく残されていますから。そのアジアのサッカーの中心にいるのは、日本、そしてJリーグだと思っています。

 とてもベーシックなことですが、Jリーグでは給料の未払いや遅配がなく、スタジアムはとても安全です。これまでの歴史のなかで、八百長なども一切ない。また日本代表がW杯に6大会連続で出場しているように、育成の力もついてきていると思います。土台はしっかりしているので、トップレベルの選手はもちろん、これから成長したいと考える選手たちにも、どんどんドアをノックしてもらいたいですね」

 最後にトーレスは現在のJリーグの立ち位置について、次のように説明した。


「今後はJリーグにスペイン人選手が増えるんじゃないかな」(トーレス)

 photo by Kyodo News

「アンドレス(・イニエスタ)やダビド(・ビジャ)といったビッグネームの存在もあり、今やJリーグは世界中から注目されている。きっと選手たちもそれを自覚していると思う。つまり、次のレベルへ向かうための絶好のアピールの場でもあるわけだ。そのうえ、何度も言っているように、ここにはすばらしい生活がある。だから欧州のトップを目指す前の段階で、ここでプレーすることを勧めたい」

 それはまた、日本人選手に向けられたメッセージでもあるのだろう。Jリーグの先には、欧州移籍や代表招集の道がある。村井チェアマンも「世界中からJリーグを目指してもらう一方で、日本人選手が外に出て交流できれば、日本のサッカーはもっとよくなると思うんです」と望んでいる。

(おわり)

フェルナンド・トーレス
Fernando Torres/1984年3月20日生まれ。スペイン・マドリード州出身。数々のビッグクラブでプレーし、スペイン代表での多くのタイトルを獲得したFW。2018年7月にサガン鳥栖への移籍を発表し、Jリーグでプレー。2019年8月に現役を引退した。アトレティコ・マドリード→リバプール→チェルシー→ミラン→アトレティコ・マドリード→サガン鳥栖。