11月中旬から始まった今季のスピードスケートW杯。ベラルーシ、ポーランドと2週続けて開催されたあと、1週あけて今度はカザフスタン、長野と2週連続の開催スケジュールだった。日本の有力選手たちが疲れを考慮して、第3戦のカザフスタンをスキップす…

 11月中旬から始まった今季のスピードスケートW杯。ベラルーシ、ポーランドと2週続けて開催されたあと、1週あけて今度はカザフスタン、長野と2週連続の開催スケジュールだった。日本の有力選手たちが疲れを考慮して、第3戦のカザフスタンをスキップするなか、小平奈緒(相沢病院)は、すべての大会に出場していた。



疲労を感じさせない滑りを地元・長野で見せた小平奈緒

 今季は500mと1000mに加えて1500mにも出場しているため、第3戦のカザフスタンまでは、3種目ともにフル出場。今回の長野大会には、帰国してからの調整期間は3日間しかなく、疲労もかなり溜まっている状態で臨んだ。

 それでも初日の500m第1レースでは、しっかり勝ち切る滑りを見せた。

 前の第9組で、今季、好調な滑り出しをしているロシア勢のダリア・カチャノワと、オリガ・ファトクリナが、37秒74と37秒77で1、2位に立った後のレースに登場した小平。

 前戦のカザフスタンでは敗れているアンゲリナ・ゴリコワ(ロシア)と同走だったが、100m通過は最速の10秒34。アウトレーンスタートでバックストレートからスピードに乗ってきたゴリコワに追い込まれ、最後の直線に入ったところでは若干リードされる形になったが、最後はしっかり差し返して0秒02差の37秒49で勝利。今季W杯2勝目をあげた。

「これまでの3戦で課題になっていたスタートの修正ができて、久しぶりにいいスピードで入れたのですが、最初のカーブで少しテクニックが間に合わなかったなというのがありました。

 今はロシア勢がすごく勢いがあるので、気持ちの入ったレースというか……。『競るってこういうことだな』と感じるレースでした。並ばれても最後のストレートでは絶対に負けない自信はあったけど、お互いにいいレースができたんじゃないかなと思っています」

 結城匡啓コーチはこのレースをこう解説する。

「インスタートだと半径が小さい最初のカーブは難しいのですが、久しぶりに10秒3台で入ってしまい、ちょっと対応できていなかったのだと思う。帰国してからはスタートの構えるところの意識から、ドンと鳴った後に意識的な反射にして無心でレースに入っていけるかというのを修正しました。今までは考えすぎていたというのではなくて、正直スイッチが入ってなかったという感じで、ロシア語圏の大会では少しロシア勢の後塵を拝していたという印象だったのが、やっと(多くの)お客さんがいるところで少しドキドキしてきたのかなと思います」

 翌日の1000mは、本人が「覚えていないくらいに久々のインレーンスタートなので、けっこうワクワクしていた」というレースだったが、3種目出場している中でまだ、種目としても調整しきれていない状態だった。

「3種目に出場して経験値を積んでいる段階の中で、500mは徐々にそれが滑りに結びついてきているけど、1000mと1500mは、まだ調和がとれていない部分もある」と小平が言うように、前半から本来の突っ込みを見せられないペースで、ラスト1周では同走のグリコワを差して1分15秒07でゴールしたが、1分14秒台で滑った上位3人には及ばず4位になった。

 そして最終日の500m第2レースでは、前に滑ったゴリコワが37秒24を出し、昨季は世界距離別で小平に勝って優勝しているバネッサ・ヘルツォーク(オーストリア)が37秒45を記録。小平は37秒50で3位だった。

 レースでは少しトライしたことがあり、それがうまく形にならなかったという小平だが、それでも表情は明るかった。この日は日曜日で、小平が出場していることを知った地元の人たちが数多く来場した。「観客が多くなるかもしれないと思って朝からワクワクしていて、ちょっと硬くなってしまった」と、うれしい反面、緊張もあったようだ。

「ここ2~3年は、(今シーズンのように)勝ったり負けたりという経験がなかったので、今こういう状況にあるのは、(今後)すごくプラスに働いていくと思います」

 こう言って笑顔を見せた小平は、今季を様々なことに挑戦する年にしている。1500mに出場することを決めたのもそのひとつで、「試合勘を養うため」と厳しいスケジュールで大会に出ていることもそうだ。

 結城コーチも「まだ、大会や種目を選ぶシーズンではないなと。筋肉量の面に関しても、本来はスケートで使うのかなと思うようなところのトレーニングにフォーカスしたり、500mには必要ないかなというような持久系のところにも少しフォーカスしています。でも、初日の500mのラスト200mの滑りを見ると、やっぱり1500mなどをやっていることが土台になるというところが、本人の中でも証明されるかなと思っています。3年後は平昌五輪の時と同じタイムでは勝てないので、(今季は)どうやって五輪本番で速くするかということを考える年だと思います」と話す。

 さらに結城コーチは「ここまでの4戦まで、スキップしないでやっているのはブリタニー・ボウ(アメリカ)と小平だけ。これがおそらくは、来年2月に生きてくると思います」とも語った。

 その2月に行なわれるのは、標高が高くて記録が出やすいソルトレークシティで開催される世界距離別選手権。小平は次の五輪を見据えつつ、今季距離別選手権に合わせてじっくりと仕上げようとしている。