射撃人生6年目、強化指定選手でもある山内裕貴は、国際大会参戦3年目にして東京2020パラリンピックでの活躍が期待されるトップアスリートだ。バイク事故で右腕の機能を失った後、猟師だった祖父の影響で射撃・ピストルを始めた。大舞台を目指してほぼ毎…

射撃人生6年目、強化指定選手でもある山内裕貴は、国際大会参戦3年目にして東京2020パラリンピックでの活躍が期待されるトップアスリートだ。バイク事故で右腕の機能を失った後、猟師だった祖父の影響で射撃・ピストルを始めた。大舞台を目指してほぼ毎日、射撃場に通う彼を支える人たちとは? 山内裕貴の競技生活に大きな影響を与えた5人を教えてもらった。

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◇射撃を始めるきっかけとなった憧れの人

祖父

「祖父の存在は大きいですね。祖父は地元では猟の名手と言われ、僕は小さいころからかっこいいなと思っていました。その憧れが、射撃を始めるきっかけにもなったんです。祖父は大工をしていたこともあって、職人気質で寡黙なんですけど、優しさがあって、僕のために射撃に必要な道具をオリジナルで作ってくれたり。今はもう90歳を超えていて、なかなか体を動かすのは大変なんですけど、テレビなどで僕の活躍する姿を見かけるとすごく喜んでくれているみたいなんです。射撃をする僕に、それは(猟をしていた)わしの血じゃ!って自慢げに言っていて。そういう姿を見ると、もっと射撃で活躍する自分の姿を見せたい、活躍することで恩返ししたいと思うんです」

◇成長の道筋を作ってくれる人

日本障害者スポーツ射撃連盟・田中辰美さん

「パラ射撃のこと、そして日本障害者スポーツ射撃連盟の事務局が僕の住んでいる山口県にあることをインターネットで知り、体験会に参加することにしたんです。そこで出会ったのが事務局長の田中辰美さんです。田中さんはパラ射撃に関する様々な活動をされていて、僕に射撃の基礎を教えてくれた人でもあります。射撃を始めて間もない頃、経験も実績もない僕を、連盟主催の代表合宿に参加できるよう手配してくれたことがあったんですが、それが、『初心者の僕にも代表に交ざることができる可能性があるんだ』と、その後の競技に打ち込む活力になりました。他にも、僕が希望する時に射撃場で練習できるよう取り計らってくれたり、自分とは違う角度の意見で発見を与えてくれたり、僕の競技環境をよりよくサポートしてくれる、成長に導いてくれる道筋を作ってくれています」

◇芯の強さと存在感で心の支えとなる人

羽田順一コーチ

「心の支えとして、羽田(はねだ)順一ピストルコーチは欠かせません。羽田コーチはかつて選手としても活躍されていた方で、選手の気持ちをよく理解していているうえ、アドバイスはいつも筋が通っているというか、基本がぶれないんです。僕が生意気にもコーチの意見に対して、自分はこう思うんですと言ったときも、じゃあ一度やってみたら?とまず自分の意見を聞いてくれます。僕が競技に対して迷い、相談させてもらうこともあるんですが、的確なアドバイスをくれるので、練習や試合で自分が道をそれそうになった時も、基本に立ち返り、軌道修正することができるんです。そのおかげでしっかりと練習に取り組むことができています。芯の強いコーチは、見守っていてくれるだけで心の支えになります。試合中も振り返ってコーチを見ると安心しますね」

昨年は初の総合大会「インドネシア2018アジアパラ競技大会」にも出場 ©X-1
◇どんなときも深い愛情で見守る人

父と母

「家族、とくに両親ですね。僕が事故にあった時も、共働きで忙しい中、世話をしてくれましたし、その後、片手でも活躍できるようにと、パソコンが学べる専門学校を勧めてくれたり。その助言のおかげで、満足のいく就職ができ、さらには射撃の練習時間を確保できるようになりました。両親は寿司屋をやっているんですが、月に3、4回は食べに行き、両親に会っておいしい寿司を食べてエネルギーにしています。両親が、友人から僕のことをテレビや新聞で見かけたと言われた、自慢の息子だ、と嬉しそうに話してくれる姿を見ると、僕も嬉しくなります。父親なんかは、メンタルトレーニングに書道がいいんじゃないかとか、知り合いの整体師を紹介できるぞと、彼なりに気にかけてくれて、その気持ちが嬉しいです。両親の愛情がなければ、射撃ができる環境、射撃を続けられる環境は作れなかったと思います」

◇支援をしてくれる人たち

所属先&県の皆さん

「所属する会社や山口県の皆さんには感謝してもしきれません。競技を続け、高いレベルに上っていくには、装備に投資したり、積極的に海外の大会に出て経験を積んだり、練習量を増やしたり、そういったことが必要です。それには、平日に練習ができるために調整してくれる会社のサポートや、金銭面などで「やまぐちパラアスリート育成ファンド」の支援が大きな支えになっています。やまぐちパラアスリート育成ファンドとは、認定した山口県内の障がい者アスリートに対し、県内の企業や県民の皆さんからの寄付と県の補助金で、必要な経費の一部を助成するというものです。この取り組みは2017年度から始まったのですが、当初から3年連続で認定していただき、多大な支援をいただいています。こうやって所属先や山口県の皆さまのおかげで高い目標へと向かっていけるのです」

パラアスリートの物語には多くの登場人物が登場する。表彰台に向かって挑戦する選手たちは、彼らをバックアップする周りの人たちと共に戦っているのだ。

▼山内裕貴選手のフォトギャラリーはこちら東京2020パラリンピック「OEN-応援」サイト

text by TEAM A

photo by Masashi Yamada