アレナ・ペルナンブーコの観客をどよめかせた渾身のミドルシュートが、”セレソンの卵”たちを奈落の底に突き落とした――。 ブラジルのレシフェで行なわれたU-22日本代表対U-22ブラジル代表戦。2-1と日本が逆転し…

 アレナ・ペルナンブーコの観客をどよめかせた渾身のミドルシュートが、”セレソンの卵”たちを奈落の底に突き落とした――。

 ブラジルのレシフェで行なわれたU-22日本代表対U-22ブラジル代表戦。2-1と日本が逆転して迎えた68分、右サイドで田中碧(川崎フロンターレ)のパスを受けた中山雄太(ズヴォレ)が「打つと決めていた」と、迷うことなくスムーズにシュートへと持ち込むと、左足に弾かれたボールは横っ飛びした相手GKの両手の先を過ぎ、ゴール右隅に突き刺さった。



U-22ブラジル代表戦で攻守にわたって活躍した中山雄太

 右手でガッツポーズを繰り返しながら、ベンチ前の仲間たちのもとに駆け寄ると、殊勲のキャプテンを中心に歓喜の輪が広がった。一方、ピッチの上では、前半まで遊び心あふれるプレーを披露していたサッカー王国のエリートたちが、なかば放心状態で自陣のゴールを見つめていた。

 中山にとって、今回のブラジル遠征は、ふたつの点で大きな意味があった。

 ひとつは、所属クラブで出場機会を掴めていないにもかかわらず、代表に招集されたという点である。

「本来なら、あまりないケースですよね」と中山がつぶやく。

 今年1月にオランダのズヴォレに加入して2シーズン目。ヴィレムⅡとの開幕戦で左サイドバックとしてスタメンの座を掴み取り、第2節のユトレヒト戦では希望するボランチで2試合連続スタメンを飾った。

 だが、好事魔多し――。最高のスタートを切った矢先に負傷に見舞われ、戦線から離脱するとともに、U-22日本代表の9月の北中米遠征も棒に振った。9月29日に行なわれた第8節のPSV戦からベンチに入るようになったが、まだポジションを取り戻すには至っていない。

 それにもかかわらず、今回招集されたことに、中山は感謝の思いを隠さない。

「自チームで結果を出して(代表に)呼ばれるというのが大前提のなかで、出られていないのに呼んでもらって、すごく光栄というか。逆に言えば、『自分はやれる』ということをしっかりプレーで証明して、チームに貢献しないといけないと思っています」

 もうひとつは、4カ月前の苦い経験である。

 6月にブラジルで開催されたコパ・アメリカに出場した中山は、柴崎岳(デポルティボ・ラ・コルーニャ)とボランチでコンビを組み、チリ戦のピッチに立った。だが、代表デビューとなったこの試合で21分にイエローカードを提示されると、それが足かせになったのか、激しいプレーを見せられなくなってしまう。

 したたかで、試合巧者のチリに対してチーム全体で必死に食らいつくなかで、本来の力を見せられないまま90分を過ごした中山は、中継の解説者から苦言を呈され、サッカーファンからも容赦ない批判を浴びた。

 もっとも、不甲斐ない出来に終わったことは、中山自身がよくわかっていた。

 チリ戦後、自身のパフォーマンスに関して「評価する材料もない」と切って捨てたのだ。いつもどおりポーカーフェイスを崩さず、努めて冷静に語ったが、その言葉には落胆の色がにじんでいた。

 それから4カ月、中山はその屈辱を自身の成長の糧にしてきた。ブラジル戦の4日前に中山が告白する。

「コパでの経験は、あのあと、自分のなかですごくモチベーションになったんです。苦しい時、キツい時、なぜか、コパの映像が蘇ってきて。何クソ精神ではないですけど、パワーに変えられたのかなって。

 よくなかったのはわかっているし、それは自分でも受け止めていた。でも、それで終わりじゃないというのも確かで、あの経験を生かそうと思ってやってきた。あの経験を、今でも忘れていない。それは、自分にとって大きなことだと思います」

 その思いが生かされたのが、まさにこのU-22ブラジル代表戦だった。

 ミドルシュートを叩き込んだだけでなく、中盤でブラジルの選手たちに身体をぶつけてボールを奪い合い、自陣のペナルティエリアから敵陣のペナルティエリアまで顔を出し、攻守にわたってチームを引っ張った。

「コパのチリ戦ではうまくいかなかったですけど、今日はボールを奪えた。とくに中盤でしっかり奪えることが多くて、手応えを感じられました。こうしたシーンをもっと増やしたいし、もっと早い時間帯からこうしたプレーを見せたい。チームが苦しい時に助けられるようになりたいですね」

 敵地でのブラジル撃破の興奮が冷めやらぬミックスゾーンで、中山は普段どおりのポーカーフェイスを保ちつつも、ちょっぴり清々しい表情で先を見据えた。

「クラブで活躍して代表に呼ばれる、というサイクルがベスト。僕はまだ、そうではない。代表の活動はこれでいったん終わるので、自チームでまたしっかりがんばりたい」

 目指すべきものは、まだずっと先にある。本人のなかでは、まだスタートラインに立ったに過ぎない、という程度の感覚だろう。しかし、U-22日本代表にとって、頼れるキャプテンが戻ってきたのは、間違いない。